南の島へ遊びに行くとしても歴史を感じさせる場所が好きなので、タヒチに行ってみたい願望は若い頃あった。でもあそこはかなり遠くて、旅費がガーンと跳ね上がるのがネック。そうなると狙い目はバリ島。現在の相場は知らないが昔の感覚で言えばバリはそこそこリーズナブル。波の荒い海・火山・ガムラン・ケチャを楽しめるし、ハイソ気取りな風情じゃないのが良い。
2024年7月28日日曜日
『黒い駱駝』E・D・ビガアス/乾信一郎(訳)
2024年7月26日金曜日
『死の三行広告』藤村正太
言わずもがな、これらは『藤村正太探偵小説選』Ⅰ / Ⅱ に収められている川島郁夫名義の産物ではなく、筆名を藤村正太に改め、再スタートを切った1958年以降に書かれたものである。
「死の三行広告」
冒頭に配置され表題作にもなっている「死の三行広告」がモロに機密書類のコピーを盗み取ろうとする産業スパイの話ゆえ、本書に入っている作品はどれも産業ミステリじゃないの?と早合点されるかもしれないけれど、そんな事はない。
自慢じゃないが私、結末に行き着く前にミステリの犯人をズバズバ見破ってしまうほど頭は鋭くない。しかしこれは中盤あたりで、誰が黒幕なのか簡単に読めてしまって物足りなかった。電機会社勤務の主人公を鞭打ちでSM漬けにしてしまう謎の女性・奈保子が登場するが、朝山蜻一ならいざ知らず、そっちの性癖が主題ではない。
「乗車拒否」
エラリー・クイーンの有名なトリックを日本人の生活向けにスケール・ダウンして使用、さらにアリバイ崩しもあって、本書の中では最も技巧を凝らした内容。タクシー業界の問題、社内派閥に絡む殺人がベースになっている。「死の三行広告」同様、こちらの導入部でも酒場で吞んだくれていた新聞記者・田代が女の部屋に誘い込まれ、渦中の人となっていくのは・・・「もうちょっと他のパターンは思いつかなかったの?」と茶茶を入れたくもなる。
蒼社廉三の長篇「紅の殺意」でも空気汚染された工業地帯が描かれていたが、ここでの視界が効かぬほど垂れ込めたスモッグって、一体どんだけヘビーな公害なんだ?そりゃ「公害Gメン」も結成されるわな(「スペクトルマン」の話です、閑話休題)。
「偽りの出演」
「惑いの背景」
オトコを見る目がないというか、まったく男運の無い生命保険勧誘員・浅井梨枝。司馬遼太郎の「豚と薔薇」に出てくる田尻志津子しかり、この種の女性キャラには全然感情移入できん。読んだ後に生保レディの悲哀しか残らないのもイヤだ。
「絆の翳り」
(銀) 川島郁夫を名乗っていた初期の頃と比べて、だいぶ世相は変わった。物語の中でコント55号への言及があるぐらい(「絆の翳り」)時代が下ってきてしまっては、もはやこれらの作品を探偵小説扱いするのは難しい。
読んで退屈こそしないのに、本書の何が不満だったのだろうと、よくよく考えてみたが、酔ったサラリーマン男性のだらしなさ/安易な性交渉、そしてひたすら鬱陶しそうなオバハン、もとい主婦の女性達、松本清張らの台頭により社会問題を織り込まざるをえなくなっているプロット、敗戦から立ち直ってきたのに戦前よりも貧乏臭く映る昭和の日本人・・・こういった要素が混ぜ合わさってしっくりこないのだと思う。
2024年7月23日火曜日
『江戸川亂歩全集第十一巻/白髪鬼』江戸川亂歩
「白髪鬼」の元ネタはマリイ・コレリ「ヴェンデッタ」。「涙香白髪鬼」は外国が舞台のまま、疫病のため主人公が死亡~埋葬されてしまうところなど、「ヴェンデッタ」に準拠している部分が多い。乱歩はそこから更に固有名詞をすべて日本風に移し替え、エゲツない演出をプラスし、エロ・グロ・ナンセンスの風潮にも合いそうな改作を行っている。
川村は犬殺しの檻の中へ投げ込まれた野犬の樣に、ギヤンギヤンと狂はしく泣き叫んだ。
「犬殺し棒」と「犬殺し」では、出版社にクレームを付け恐喝してくる集団にとって扱いがどう違うのか、私には判別しかねる。しかし「乱歩白髪鬼」のテキストを光文社文庫版全集と第二次講談社版全集で調べてみると、どちらも平凡社版全集そのまま、「犬殺し」なる言葉を含む上記の一文は普通に掲載されていた。牛はダメだけど犬ならいいのか?生き物の命の尊さはすべて平等じゃないんかい?だからこの手の言葉狩りは何の意味も無いのだよ。
(銀) 光文社文庫版『江戸川乱歩全集 第7巻』で突っ込まれているように、「乱歩白髪鬼」は辻褄の合わないシーンもあるのだが、だって乱歩じゃから仕方がなかろう。翻案に手を出したのは本作が最初のように思われがちな乱歩。でも初期の「踊る一寸法師」だってポオ「Hop-Frog」の翻案みたいなもんさ。
誰も気付かないような場所に相手を監禁し、復讐者が積もり積もった怨みの言葉を吐いて彼らを地獄へ送ろうとするのが通俗長篇のお約束。いつもならそこに明智小五郎が現れて復讐者の企みは粉砕されてしまうのだけれども、「乱歩白髪鬼」は警察も探偵も助けに来てはくれず、大牟田子爵は計画を完遂する。
謎解きは無いが、物語そのものが大牟田の一人称で進行するため、探偵小説マニアでない読者にも非常に感情移入しやすい構造になっている。
2024年7月20日土曜日
『悪魔のひじの家』ジョン・ディクスン・カー/白須清美(訳)
本格ミステリを読んでいると、この世にいる筈の無い不可解な幽霊が現れたりもします。そんな時は、「幽霊を見た」と証言しているのがどういう人物か、注意を払いつつ先に進むことが肝要です。もちろん目撃者は一人の場合もあれば、複数存在する場合だってあります。何人かが見ているのであれば、その面々に共通する事柄は何なのか、それを手繰ってゆくと見えなかったものが見えてくるかもしれません。
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十八世紀半ば、イングランド南東部。〈悪魔のひじ〉と呼ばれる土地に屋敷を建てた高等法院のワイルドフェア判事が非業の死を遂げたのち、バークリー家がその屋敷・緑樹館を買い受けた。晩年、厄介な暴君となっていった当主クローヴィス・バークリーには三人の子供達(ニコラス〈長男〉/ペニントン〈次男〉/エステル〈長女〉)がいるが、とても仲睦まじい家族とは言えない。だがクローヴィス老も病には勝てず、逝去。新たに見つかった彼の遺言状によれば、遺産相続人にはニコラスの息子(愛称ニック)が指名されている。ところがニックには、そのつもりは毛頭無い。
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ちょっとした疑問。フェル博士の名前の発音が、本書は【ギディオン・フェル】になっている。ジョン・H・ワトソン博士も本によって表記がワトスン or ワトソンだったりするから、ありがちなことといえばそうなのだけど、翻訳者がその時々で変わっているとはいえ、創元推理文庫内でフェル博士シリーズとして扱っているのであれば、【ギデオン・フェル】に統一しておくほうが混乱を招かずに済むと思うのだが。
2024年7月17日水曜日
名古屋の櫃まぶし
かつて江戸川乱歩は身の回りのことをよく随筆に書いていたので、私も気分転換がてら、探偵小説とは何の関連も無い話をしてみようと思う。
HDに保存されている或る書影の画像を探していたら、失われたとばかり思っていた古い写真が一枚だけ出てきた(この記事の左上にある画像がそれである)。昔、名古屋に住む知人の案内で、初めて櫃まぶしというものを食べたのだが、これはその時訪れた、繁華街にあるうなぎの店だ。とにかく櫃まぶしは美味だったし、歴史を感じさせる外観や、大人の男女が静かに会話を楽しむのに適した店内の落ち着いた雰囲気が思い出され、ついノスタルジーに浸ってしまった。
ところが間抜けなことに、この店の名前を失念してしまい、今回発見した画像にちゃんと看板は写っているのだが、拡大してみても店名の文字が読み取れない。ネットで名古屋のうなぎの店を検索しても、それらしいものは見つからず。三十年前の話だし、「もう無くなってしまったのかなあ」と諦めかけていたところ、よ~く画像を見ると、その店に隣接しているビルの名称らしきものはハッキリ確認できる。そのビル名を頼りに再度ネット検索したら・・・あった!外装こそ当時より綺麗になっているものの、今も変わらず営業しているみたいでなにより。
2024年7月14日日曜日
『モーパッサン怪奇傑作集』モーパッサン/榊原晃三(訳)
怪奇小説に特化した国内のモーパッサン翻訳本となると、本書が80年代の終わりに出たっきり、なぜか類を見ない。古書価こそそんなに高騰していないものの、中古市場でこの文庫が良く売れているのは隠れたニーズがあるからだと思う。昨年、『対訳 フランス語で読むモーパッサンの怪談』という本が白水社から発売されたのだが、朗読CDが付き、仏語と日本語訳のテキストを併せて提示しているため、「墓」「髪」「手」「オルラ」の四篇しか収録されていないのが残念。
「手」「水の上」「山の宿」「恐怖 その一」「恐怖 その二」
榊原晃三は生前、児童ものの本を手掛ける仕事が多かった。そのせいだろうか少なくとも私には本書の訳文はやさしすぎる印象を受けた。だから不満があるとまでは言わないが、今後出されるモーパッサンの新刊は、もう少しヴィンテージ感のある訳で読んでみたい。
2024年7月12日金曜日
『合作探偵小説コレクション⑦むかで横丁/ジュピター殺人事件』
「能面殺人事件」 青鷺幽鬼(角田喜久雄)
「三つの運命」
プロローグ 白骨美人 土岐雄三
骨が鳴らす円舞曲 渡辺啓助
鉄の扉 紗原幻一郎
一人目の土岐雄三がお題を出す形で事件の発生を描き、残りの三名がそれぞれ個別に解決篇を受け持っている。
第二話 犯人はその時現場にいた
楠田匡介
第三話 謎の銃声 大河内常平
第四話 蜜蜂 山村正夫
第五話 古井戸 永瀬三吾
第六話 窓に殺される 楠田匡介
第七話 愛神 山村正夫
第八話 西洋剃刀 大河内常平
第九話 遺言フォルテシモ 永瀬三吾
第十話 狙われた代議士 楠田匡介
第十一話 八百長競馬 大河内常平
第十二話 洋裁学院 山村正夫
第十三話 地獄の同伴者
朝山蜻一
第十四話 妻の見た殺人 永瀬三吾
第十五話 アト欣の死 楠田匡介
第十六話 訴えません 永瀬三吾
「むかで横丁」
発端篇 宮原龍雄
発展篇 須田刀太郎
「ジュピター殺人事件」
発端篇 藤雪夫
発展篇 中川透(鮎川哲也)