2020年6月21日日曜日

『明智小五郎読本』住田忠久(編)

2009年9月30日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

長崎出版
2009年9月発売



★★       情報量は膨大だが・・・





編者・住田忠久は以前あちこちの乱歩サイトBBSに時折出没していた人物で、本書の刊行も度々ほのめかされてきたが、ようやく実現に至った。




映像をはじめ、あらゆるメディアに取り上げられた名探偵の全貌を俯瞰。もちろん聖典である江戸川乱歩の原作にも頁が割かれ、光文社文庫版江戸川乱歩全集の注釈及び『江戸川乱歩小説キーワード辞典』の執筆者・平山雄一による〝明智小五郎年代学〟の復活や少年ものリライト事情まで、書誌データにも目配りがされているので、私のように原作以外はさして興味がないという人でも買って後悔はまずあるまい。

 

 

グラビア・図版を必要最低限に留め、1000頁近くにも亘る膨大な活字の情報量ゆえ、読み応えがある。そのわりには三段組にするなど工夫があって読み易い。また144頁〜573頁までは頁両端に分厚い本をコピーした時に写る本の小口の影をわざわざ印刷してある。
(これって意図的な演出?)

 

 

住田忠久は論創海外ミステリ『戯曲アルセーヌ・ルパン』での良い仕事の通り、ルパン研究の人でもある。私個人としては(大変とは思うが)、不毛地帯と化しているルパン研究書や決定版ルパン全集の刊行に今後尽力してもらえたら嬉しい。同様に、本書のような江戸川乱歩研究書には良質で濃密なものが数多くありながら、なぜ横溝正史(金田一耕助)となると薄っぺらいミーハー・ビギナー向けの本しかないのか不思議でしょうがない。本書中唯一、横溝正史研究家の浜田知明が「二十面相死亡説」について突っついているコラムがある。こういう他人の指摘をする暇があったら、なぜ真っ当な横溝正史研究の充実に努力を払わないのか?

 

 

このボリュームでは不可避な事ではあるけれど、ラジオドラマの出演者名などに明らかなミスがある。特に巻末の作品目録における初出誌挿絵画家のクレジットはボロボロ。

 

 

 

(銀) 2009年にAmazon.co.jpへレビュー投稿した時にはとりあえず★5つにしたが、その後いろいろ考え直した。

自分の書いた投稿がAmazonのレビュー管理部門から難癖をつけられたのは、たしかこれが最初だった気がする。その頃は現在のように、投稿がサイトに反映して暫くすると勝手に全文完全削除という、そこまで無礼な対応ではなく、投稿全文のうち都合の悪い部分だけをAmazon側が削除する処置だったのは覚えているが、このレビューは満点(注:前述のとおりAmazon.co.jpのレビュー欄に投稿した時は★5つにしていた)なのに、一体彼らはどんな箇所が気にくわなかったのか、さっぱりわからん。

 

 

ホームズ研究者として名高いベアリング・グールドの手法を真似て、平山雄一が江戸川乱歩作品における明智小五郎登場作を年代別に並べ直す知的遊戯がいわゆる〝明智小五郎年代学〟なのだが、明智にしろ金田一耕助にしろ神津恭介にしろ、日本で人気の高い名探偵にそのやり方を当てはめると、どうやっても無理が生じる。

 

 

海外にも探偵小説のジュブナイルがない訳じゃないが、シャーロック・ホームズを筆頭に、どの名探偵もほぼ一律大人向けの媒体へ発表されたもので、作品の性格付けが途中で大きく変更されるようなことはない。ところがこの日本では、もともと大人向け小説に設定された名探偵を作者が少年少女雑誌にも使うのはいいとして、登場人物やストーリーを子供向けにわかりやすくしたり荒唐無稽にしたりするので、大人ものの小説で活躍する時とはもはや異なったキャラクターに変貌してしまっているのは誰でもちょっと考えればわかる筈。明智小五郎に至っては久世光彦のように、大人ものでさえ「初期短篇と通俗長篇ではまったく別人」だと言う人もいるんだから。

 

 

そんな風に、読者対象が異なる媒体で使い回しされた名探偵達を無理やり一緒くたにして年代学なんてやるものだから、明智小五郎も怪人二十面相も小林少年も二代目・三代目やらが複数人数いるなんてバカバカしい結論になってしまうのだ。