2021年3月6日土曜日

『東西怪奇実話/世界怪奇実話集/屍衣の花嫁』平井呈一(訳)

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創元推理文庫
2020年9月発売




★     やっぱり実話ものは拡がりが無いと思う



今まで生きてきて、幸いにして幽霊というものを見たことがない。その手の話で想い出すのは、当時の大宮の外れに住んでいた大学の同級生が口にしていた笑い話だが、そいつの地元の友達が  ❛ 田んぼの中に鎧武者が立っているのを見た ❜ なんていうゴシック(?)な又聞きの恐い話とか、あとこれも大学の友人から聞いたエピソードで、彼は逗子の桜山に住んでいたのだが、自分の部屋で寝ていると、たまに金縛りに遭うらしい。で、ある日やっぱり金縛りにあったその時、亡くなった彼のおばあさんが出てきたそうだ。彼は作り話でホラを吹く人では全然なく、又聞きでもない自らの体験談であって、その話を聞いた頃にはもう国内での超能力とか超常現象のブームは過ぎていたから、前者の鎧武者はともかく、後者のおばあさんみたいな霊現象は人によって実際あるものなんだな、みたいな程度に受け取っていたのだった。

 

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誰が書いたのか知らないが、本書の扉ページにはこんな導入の文章が載っている。
「推理小説ファンが最後に犯罪実話に落ちつくように、
怪奇小説愛好家も結局は、怪奇実話に落ちつくのが常道である。」
は? んな訳ないだろう?

 

 

この『屍衣の花嫁』は昭和30年代に東京創元社が出した「世界恐怖小説全集」全12巻の最終巻を文庫化したものだが、その内容は旧世紀欧米における幽霊話の実話集で、いつも言っているように犯罪実話だろうと怪奇実話だろうと、実話ものはオリジナリティーが少ないのでひっかかりが弱いまま流れていってしまうから、ちっとも心に残らない。平井呈一翁の翻訳であろうとそれは変わりがないみたい。

 

 

それに旧世紀とはいえ、こんなにしょうちゅう幽霊が邸内に現れて接近遭遇するんかい!なんて私は鼻白んでしまう。だいたい霊(魂)が現世にて宿っているのは人間の生身の肉体だけだろ。という事は幽霊として現世に現れる際には(例えば『宇宙戦艦ヤマト』のテレサみたいな)霞のような裸身で出てこないとおかしくない?

白装束でも鎧でもいいけど、人が身に纏う物体は flesh and bloodを伴った生き物じゃないし、ひとりの人間の霊のスピリチュアルなリンクが衣服にまで通じているとは考えにくいから、人の霊とはあくまで生まれたままの姿でしかないのでは?それなのにこういう幽霊話を読んだり聞いたりすると幽霊はいつも裸身じゃないものだから、性格が曲がっている私はどうしても疑いの眼差しで・・・というか納得がいかないのである。


 

 

(銀) 平井呈一の手掛けた作品を読むのなら私は他のものを薦めたい。いたずらに余分な蔵書を増やしただけで、少なくともこれは自分の買うべき文庫ではなかった。この本がつまらなかったから本文中でも幽霊の存在を全否定気味に書いてはいるが、幽霊譚でも探偵小説枠の中でもっと出来の良いやつはいろいろある。