2025年5月19日月曜日
『The Sherlock Holmes Vault Collection』
2025年5月12日月曜日
映画『A Study In Scarlet〈緋色の研究〉』(1933)
門前払いが続いていたドイルの原稿「緋色の研究」をしぶしぶ受け入れたのは『ビートンのクリスマス年鑑』の版元ウォード・ロック社。とはいうものの印税払いを断られ、25£貰う替わりに著作権買取なんて条件は作者にとって耐えがたい仕打ちにも等しい。本盤のブックレットでライナーを執筆しているC.Countney Joynerは「緋色の研究」の著作権がドイルとウォード・ロック社の間で複雑になっていたため、1933年公開の映画「A Study In Scarlet」は作品名の使用権しか獲得できなかったと言うが、この人、映画界には詳しくてもドイルにはそれほど詳しくなさそう。そんな感じがする。
リージョン・フリー:日本のBDプレーヤーで再生可能
本編:72分
字幕:英語/スペイン語
封入物:ブックレット/オリジナル・ポスター・レプリカ・ポストカード
2023年12月11日月曜日
『シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット』モーリーン・ウィテカー/高尾菜つこ(訳)
■ 発売前のinfomationを見て購買欲をそそられるも、グラナダTVシリーズ全話あらすじ紹介にジェレミー・ブレットの情報を少々加えただけ、みたいな〈ありがち〉かつ〈陳腐な内容〉だったら私には不要。現物を書店で手に取り「これなら読んでみてもいいかな」と確認した上で本書を購入した。
素のジェレミーは意外にガッシリした体格なので、ホームズを演じるにあたり鋭さを表現できるよう体を絞り、入念に髪の毛をオールバックに撫で付けるだけでなく、眉を整え青白い顔色にメイクして演技に臨んでいたという。なによりドイルの原作を常に現場に持ち込み、ドラマが原作から逸脱しないよう誰よりも気を配った彼のattitudeは実に立派。
■ 過去の映像作品と異なり、ホームズと対等な友人であるべくワトソンの存在意義に注意を払っているのは好ましい。それだけに第3シリーズ以降、ワトソン役の俳優が変わってしまったのが惜しまれる。エドワード・ハードウィックだとワトソンにしては若干老けているっぽく私の眼には映るので、初期ワトソンを演じたデビッド・バークは降板しないでほしかったな。
■ ジェレミー・ブレットはシリーズ途中で体調を崩したような印象があるけれど、実は若い頃にかかったリウマチ熱の後遺症による心臓への負担、そして精神的疾患である双極性障害、この二つの爆弾を最初から抱えている。当シリーズは莫大な予算をかけたドラマゆえ、主役の背負うプレッシャーも尋常ではないのと、最愛の妻ジョーンが1985年に癌で病死した影響もあり、第3シリーズ以降、ジェレミーのコンディションが精神的にも肉体的にも少しづつ悪化してゆくのは避けられなかった。
シリーズの後半、原作に忠実というコンセプトを破綻させてまで体調の優れぬジェレミーにホームズを演じさせる愚行は、もう笑顔ひとつ作れないほど病に体を蝕まれている晩年の渥美清を無理矢理カメラの前に立たせ続けた1989年以降の「男はつらいよ」とダブるところが多くて、やりきれない。
そもそもジェレミーの体調とは関係なく、ホームズの兄マイクロフトを演じたチャールズ・グレイは〝もみあげ〟が長すぎてシドニー・パジェットの描くマイクロフトにちっとも似ていなかったし、原作でレストレード警部が顔を見せるべきエピソードなのに、彼が出てこないこともあったり、ジェレミー・ブレット・ホームズの輝きの陰で、さしものグラナダTVシリーズも百点満点を献上できぬ欠点は多々あったのだ。
著者モーリーン・ウィテカーはジェレミー・ブレットに心を寄せ過ぎて、(シリーズの問題点に触れていない訳では決してないけれど)あと少しだけ沈着冷静なマインドで批評してほしかったと思う。本書にはジェレミーをはじめ出演者/スタッフらの発言と共に、当時の各メディアが書き立てた絶賛の声も多数紹介されているが、英米Amazonレビュー欄の投稿文まで引用するのはさすがにやりすぎ。それと、巻末にグラナダTVシリーズの制作/放送データは載せたほうが若い新規のファンは有難かっただろう。
2023年11月9日木曜日
『わが思い出と冒険』コナン・ドイル/延原謙(訳)
ドイルの自伝と聞けば本書を未読の方は、シャーロック・ホームズ生みの親ばかりかSFなどでも名を馳せた作家だから、さぞ創作の裏話が満載だろうと期待に胸膨らませるだろう。しかし残念なことに、小説家たる内面を明かしたり自作に関して回想する気持ちがドイルには非常に薄く、最も自信を持っていた歴史小説でさえあまり言及していないぐらいなので、万人にお薦めできるような内容ではない。ドイルの著書を完全読破したい人、あるいはドイル研究者向け。
船医として捕鯨船に乗り北極洋を航海した青年時代の話、ホームズばりに無辜の罪で逮捕されたジョージ・エダルジの冤罪を晴らした話あたりは、ホームズ本を所有している人ならばきっと一度はお読みになられた経験がある筈。それはともかく、この新潮文庫版解説末尾で訳者の延原謙はこんな感想を漏らしている。
悪口をいうつもりは毛頭ないが、ドイルには妙な癖があるようだ。高位高官の人とか、そうでなくても有名な人に会ったとか会食したとか、やたらに書く癖だ。大切な用件があっての事ならば話は分かるのだが、何の用件もないのにただ会ったということ、こういう人も知っているというだけのことなのだから、少しどうかと思う。
なるほどそんな気配も感じられなくはないけれど、この自伝を読んでいて私が飽きてしまう理由は文章が堅苦しいのと、大英帝国・愛をアピールする姿勢が少々強過ぎるから。(〝ナイト〟に叙せられる人なんだし当り前といえば当り前だが)
ドイルが生きた時代のイギリスはそれこそ帝国主義まっしぐら。英国人なら誰でも愛国心に染まっていただろうし、現代に見られる一部の日本人みたいに、自分の国をディスってばかりいる品性下劣な人間に比べれば、ずっとマシなのは確か。だからといって政界にまで打って出るようなドイルはあまり好きじゃないな。これぞ騎士道精神の延長なりと肯定する見方もある反面、シャーロック・ホームズは英国に忠誠を誓いつつ個人主義を貫いていた訳で、願わくばドイルもそうあってほしかったと私は考えたりする。そうそう、悪名高き心霊関係についてはしっかり発言しています。
ここに挙げた新潮文庫版ドイル自伝が完訳でない事は日本の研究者によって指摘されているわりに、商業出版として完訳版を出そうとする動きは全く見られない(私が気付いていないだけかもしれないが)。新潮文庫版における翻訳省略部分は新潮社編集部の意向ではなく、延原謙の判断によってバッサリ刈り取られてしまったという話。
何年もかけてじっくり訳してきたホームズ物語とは事情が異なり、『わが思い出と冒険』刊行の三年後に高血圧が原因で倒れた延原はその後、亡くなるまでの九年間寝たきり状態だったそうだから、本書に携わっていた頃から知らず知らずのうちにコンディションを崩しつつあった可能性もある。
延原謙の訳した古典海外ミステリに接して、読みにくいなあと感じたことは無い。とはいえ本書における文章の堅さはドイルと延原、ご両人とも高齢になったことから来ているのか。あるいは新しく翻訳し直したらもっと読み易くなるのか。もし新しく訳し直すとしても詳細な註釈は絶対不可欠。
2023年9月14日木曜日
映画『Der Hund Von Baskerville』(1929)
2023年3月7日火曜日
『実用シャーロッキアナ便覧/ホームズ・ドイル研究書案内』
🎩
奥方・東山あかねと共に長年JSHCの主宰を務めてきた小林司は、本書が頒布された時はまだ健在だったのだが、氏はこの頃コナン・ドイルの母メアリーとウォーラー医師の不倫をはじめとするドイル家の醜聞に取り憑かれており、小林・東山夫妻の翻訳で出版した河出書房新社版『シャーロック・ホームズ全集』の「訳者あとがき」においても、たいして関係が無いはずのドイル家の醜聞ネタを矢鱈持ち込む失態を犯している(文庫版はかなりの部分が削除されているので「訳者あとがき」がそのまま載っているか、私は未確認)。
小林司は JSHC の総帥だ。大抵の場合そんなエラい人の言動にはどの会員も気を遣いそうだし、たとえおかしな発言があっても付和雷同に黙っているのが日本人の悪い習性ですよ。しかし本書ではドイル家の醜聞ネタのゴリ押しに首を傾げる意見だけでなく、それまで日本でずっと「緋色の研究」と訳されてきたホームズ第一長篇「A Study in Scarlet」を河出版『ホームズ全集』で小林司が「緋色の習作」と改題した点についても、会員は忌憚なく「ノー」を突き付けている。結果として「緋色の習作」の題を取り入れた後続の新訳本は出てこないまま現在に至っている。
そうそう、今日の記事を書いていてだんだん思い出してきた。平山雄一なんかは「緋色の習作」問題だけでなく、彼が山中峯太郎贔屓であるために峯太郎版子供向け翻案ホームズ本を断固否定する小林に(実際顔を突き合わせてケンカするほどではないにせよ)好戦的だったな。私はあの峯太郎ホームズに関しては小林と同様に否定的な目で見ている。小林の没後、峯太郎ホームズは平山のプッシュで作品社から再発されたが、泉下の小林はどう思っているだろう・・・。
話が逸れてしまった。とにかく『実用シャーロッキアナ便覧』はお薦めしたい一冊なんだけど、なにせ当時JSHC会員でないと入手できなかったものだし、どうしても欲しければ会員が手放した古書を見つけるしかない。池袋のミステリー文学資料館には一冊置いてあったんだが閉館しちゃったしなあ。
(銀) 『実用シャーロッキアナ便覧』という書名がシャーロック・ホームズ晩年の著作『実用養蜂便覧』のシャレであることは、ホームズを愛する人にとって万国共通の常識。小説を読んで楽しむことよりレア本を所有して「転売したらカネになるな、ヘヘヘ」としか考えていない一部の古本老人はこんなホームズ基礎知識さえも知らないでしょうけどね。
2022年3月15日火曜日
舞台のジェレミー・ブレット・ホームズ ― Jeremy Brett at London in 1989-
ダブルデッカーにジェレミー・ブレット・ホームズの舞台の広告が・・・