2020年9月6日日曜日

『江戸川乱歩の「少年探偵団」大研究』全2巻

2014年3月25日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

ポプラ社  平山雄一・住田忠久(編集協力)
2014年3月発売



★   乱歩ファンにもこれから読む子供達にも、本書は必要か?



最大の購買層である江戸川乱歩ファンにとって目新しいものは何もない。ポプラ社は現行の少年探偵団シリーズと一緒に小学校や公共図書館に置いてもらうため本書を出したものだと思われるが・・・順を追って見てみよう。



上巻

乱歩容認の上で第三者に子供向けとして書き直させた大人向け作品のリライトを除く、純然たるオリジナル少年探偵団シリーズ26作の簡単なあらすじ紹介。

 

いまどき既存の本を見なくとも、子供でさえネットであらすじは手軽にわかる。金田一耕助ミーハー本同様に、周知の情報を大人はいったい何遍読まされるんだ?という気になる。逆に、これから読者になってほしい少年少女にとってはどうか。各作のトリックこそ伏せられてはいるが、どの作で二十面相の本名が判明するなどと書かれてしまっては、いたいけな子供にもネタバレになって興味を削ぎはしないか? 何の先入観もなく本を読み進めるのが、彼らにとって一番幸せな初読体験だと思うのだが。


主要登場人物紹介

各作で舞台となる街の紹介

 

各作に関連するワード解説

研究者・マニアならともかく、子供がこんな細かい事を気にして読むかな?現代の児童にでさえわかりきったワード(例/「おかみさん」)も多いし。それとポプラ社は近年のポプラポケット文庫における横溝正史・高木彬光の巻でもさんざん語句改変しているのに、本書での「乞食」や「クマむすめ」はアリなのか?(いや、これが普通なのだが)言葉狩りに執心する出版社には一貫したポリシーが全く無い。



下巻

ポプラ社版未収録の幼年向けオリジナル作品「魔法やしき」「赤いカブトムシ」「ふしぎな人/名探偵と二十面相」「怪人二十面相 (1)(2)」「怪人と少年探偵」を収録。しかしこれらは全て既に光文社文庫版乱歩全集に収録済みであるし、子供にとっても26長編に比べて面白さは格段に劣る。

 

江戸川乱歩人物紹介(平山雄一)

「少年探偵団」シリーズの歩み(住田忠久)

 

挿絵(但し、全て現行で流通しているポプラ社文庫版収録のものばかりだ)や写真をふんだんに載せ、しっかり作ろうという意思は理解できる。少年探偵団シリーズが将来の子供達にも読まれてほしい願いに異論はないが、ひとつハッキリ言えるのは、熱心な大人の乱歩ファンにしろ親に買ってもらう少年少女達にしろ、この内容で上下巻合わせて7,000円超えとはあまりに高額過ぎるということだ。




(銀) あたかも著者であるかのように、本の制作に全くタッチしておらず〈監修〉として名義を貸しているだけの平井憲太郎氏(乱歩孫)を前面にクレジットしているのも感じ悪し。こんな値段ばかり高いだけの本に、特別コメントすることなど何も無い。