2023年12月27日水曜日

悪質なレーベルに対し業界の人間が見て見ぬフリするのは、彼らの背後に盛林堂書房がいるからだ

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『Re-ClaM』の主宰者・三門優祐がX(旧twitter)上にて次のような発言をしている。
御手数だが、下の画像をそれぞれクリック拡大して見て頂きたい










【綺想社】(☜)というのは、ネットで本のクレジットを調べてもなかなか判りにくいのだが、国内作品を対象とした例の【東都我刊我書房】と同様、善渡爾宗衛/杉山淳/小野塚力の三名が、物事を判断する能力の欠如した一部マニアを釣って金を巻き上げるべく、法外な暴価を付け、売るに値せぬ品質の私家本を乱造しているレーベル。

 

 

盛林堂書房を中心に売り捌かれる【東都我刊我書房】の本は小学生でもやらないような、稚拙なテキスト入力でもって制作されており、そんな本で金儲けをする制作者の正体を世に知らしめてきたこの私も、普段から海外小説まではあまり手を出さないようにしているため、海外作家をターゲットにした綺想社の本まで買って中身をチェックする事はさすがにしていない。

 

 

本当なら【綺想社】の本も当Blogにて、そのpoorな製作態度を晒してみせるべきで、一度ぐらいは買って記事にすべきだと以前から考えてはいるのだが、【東都我刊我書房】の本でさんざん人柱になり、その上さらに【綺想社】の本を買うとなると、これ以上善渡爾/杉山/小野塚らの私腹を肥やす手助けなどしたくない気持ちのほうが勝ってしまう。【東都我刊我書房】のテキスト入力並みに【綺想社】の本も翻訳が酷いとは聞いていたが、こうして三門優祐が指摘しているぐらいだから、誰が読んでも否定できぬほど、そのクオリティーは最低なんだろう。

 

 

 

 

今日の本題はここからで、上記Xでの発言を読み、私はムズムズして仕方がない。それは何故か?三門優祐はXでこう言っている。

 

〝綺想社の私家本刊行、個人の自由だからやるなとは言わないが、誰かが批判すべきだとは思っている。

翻訳の質がまちまち、概ね最低レベル/(翻訳の質以前に)本としての品質が低いのに値段は高すぎる /解説(選書理由含む)があまりに無頓着〟

 

〝思うところはあれど発信はしないという方はいらっしゃるようで。無視していればそのうち消えるからほっておけ、というのが大人の対応なのかもしれませんが……翻訳も現在は「そこ」まではひどくないようですが(翻訳ソフトの精度が上がった?)、目次や書誌のエラー等、人力部分はボロボロです。〟

 

〝誰かが批判すべきだとは思っている〟とあるけど、もし貴兄が本当にミステリ好きなら、どうして他の誰かではなく自分自身で、もっと声高に問題提起しないの?とワタシは問いたい。三門はSNSをやっているだけでなく、紙雑誌の『Re-ClaM』や各webサイトしかり、海外ミステリ愛好者に対して十分過ぎるほど発信ツールを持っているのに、この件に関してはなんで他人任せなのだろうか?御本人はそんなつもりで言ったのではないかもしれないが、少なくとも私にはそう受け取れてしまう。

 

 



なにも此処で三門優祐を批判するつもりは毛頭無い。わずかでも【綺想社】の薄汚さをSNS上に載せてくれたのは良いことだ。でも三門は私のようなフツーの一般人とは違い、まがりなりにも『Re-ClaM』 のオーガナイザーなのだから、海外作品を汚物級の私家本にして売り捌くのを止めない善渡爾宗衛/杉山淳/小野塚力の所業を強く批判すべき立場にあるでしょ、と望んでしまうのは無理筋だろうか。誰もが〝無視していればそのうち消えるからほっておけ〟などと見て見ぬフリばかりしてきたその結果、ここまでミステリ復刊に関わる界隈は腐敗してしまったのではないのか。

 

 
三門からは、こんな風に諭されるかもしれない。〝いや自分が言ったところで、どんなにゴミみたいな本でも〈レア〉だの〈本格〉だの〈密室〉だの〈不可能犯罪〉と聞けば買ってしまう人がいるから、しょうがないですよ。〟と。まさしく三門がどれだけ警鐘を鳴らしても、馬鹿で頭の悪い書痴には馬の耳に念仏だろう。だからといって、黙って放置していればいいとは私は全く思わない。現に僭越ながら、たった一人で東都我刊我書房】における日本探偵小説関連の本の酷さをさんざんこのBlogで告発し、善渡爾/杉山/小野塚から被害を受けた島田龍が私の記事をSNSで拡散してくれたのもあってか、【東都我刊我書房】の本は秋以降、一冊も出なくなった。(相変わらず盛林堂ミステリアス文庫の最新刊・渡辺啓助『黒い獣』協力者クレジットには善渡爾宗衛の名前があるので、盛林堂店主・小野純一と善渡爾らの癒着は表面上見せないようにしていても、裏では何も変わっていないのだろうが)




三門優祐のSNSはまだ良いほうだ。古典ミステリの復刊に関与している人間で、業界に属しつつ毎日さんざんSNSでどうでもいい事をつぶやいていながら、善渡爾宗衛/杉山淳/小野塚力が作る本の酷さのような話題については決して触れようとしない。盛林堂書房とはキッパリ関わらないようにしている業界人なんて果しているのだろうか?小野純一も結局、善渡爾宗衛らの行いを諫めるつもりはさらさら無いようだし、ROM叢書も湘南探偵倶楽部もヒラヤマ探偵文庫も盛林堂とは仲良しこよし、盛林堂が関わっている案件には何ひとつ批判の矢を向けようとしない。盛林堂書房はもはや、ミステリ/SF/幻想文学の古書販売・復刊を行う分野におけるジャニーズのような腐りきった存在なのである。







「それではこの世はまるで汚水だめと選ぶところがないではないか!」

コナン・ドイル/延原謙(訳)
『シャーロック・ホームズの事件簿』(新潮文庫)~「這う人」より







(銀) 実はこのBlog、盛林堂書房及びその周辺の悪行三昧について書いた記事は、御覧頂いている皆さんが想像する以上にめちゃくちゃアクセス数が多いのですよ。来年は本を売る側であれ買う側であれ、探偵小説を金儲けのタネだと勘違いしている輩が一人でも多く、この世からとっとと消え去り、汚れのない新しい読者が生まれることを静かに祈っちゃうのでありまする。







■ 盛林堂書房周辺 関連記事 ■




























 

 

 


2023年12月23日土曜日

『消えた娘』三橋一夫

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春陽文庫
1976年10月発売



★★    銀座太郎の〝イイ人ぶり〟にはゲップが出そうだ




 城南大学在籍時にはボート選手だった、無邪気な白皙童顔偉軀の主人公・銀座太郎こと杉田三太郎は四国の富豪の息子。現在父親が建設している郷土今治の観光ホテルが完成するまで、貧乏な叔父(故人)が都内で経営していたボートハウスをそのまま引き継ぎ毎日のんきに過ごしている。そのボートハウスには元くず屋の光蔵オッサン/光蔵の息子・直吉/工場長の娘・佐智子らが共に働き、さらに防犯具制作会社社長の娘・晴子やバーのマダム益枝も佐智子と同様、みな太郎を慕っており、ハゲの呉警部は太郎とツーカーの仲。そんな靠れそうなほど多幸感溢れる顔ぶれ。

 

 

お好み焼き屋で銀座太郎は、酔った中年男に絡まれていた女子大生風の娘を助ける。その娘に誘われて入った料亭で彼女は何も言わず姿をくらましてしまい、しかもその料亭の別室では五十代の男と二十代前半の女の心中が発生していた。状況からして太郎は警察から目を付けられそうな立場に置かれてしまい・・・。

 

 

☎ 本作の特徴だが会話の割合が多い上、長台詞は無いし地の文も長い説明が見当たらず、ひとつのパラグラフに行数を重ねることなく頻繁に改行がされているため、非常に読み易くはある。貸本小説のお約束として文章を小難しくしては絶対ダメなのだろう。本来三橋一夫は〝晦渋さ〟から遠くかけ離れた作家。中高年の古本オタが三橋の本を有難がるのも納得がゆく。本を買ったところで老眼が進んでいるため、殆どそれを読めぬ古本オタ達からすると、三橋の文章は目に優しいしね。

 

 

この「消えた娘」、三橋一夫長篇の代表作として世間では〝明朗ミステリ〟扱いをされているのだろうが、例えばファースながらもショックを与える探偵小説的妙味を持ち合わせているのならまだしも、のんびりした庶民の話に犯罪が取り入れられているだけ、な感じは拭えない。とはいえ以前紹介した森田雄蔵『肌色の街』(☜)ほどグダグダに非ず、三橋のいわゆる明朗小説と呼ばれるものの中ではまだ読めるほうだ。タイトルにもなっている消えた娘・野宮小夜子のよくわからん行動、そして料亭での男女の死にまつわる人間関係のアヤはそれなりに読み手の興味を刺激しなくもない。

 

 

〈事件現場から姿を消す娘の謎〉と〈男女の心中を取り巻く真相〉、この二要素だけを残して、それ以外の部分をシリアスで暗いタッチの物語にすべて書き変えたなら、かなり感触の異なった探偵小説に生まれ変わるような気がする。なにせ、坂口安吾「不連続殺人事件」の語り口でさえキライな私だ。★3つぐらいにはしてやりたいが・・・やっぱムリ。

 

 

 

(銀) 読み易いその他の要因、と言えるかどうかは分からないが、それまで発生してきた事柄を作中で度々登場人物に振り返らせるシーンが妙に多い。一長篇のストーリーの中で、あたかも連載各回の冒頭で前回までの概況をプレイバックさせるが如く、似たような説明をここまで繰り返す作品はどんなジャンルの小説であれ、あまり見た事がない。

 

 

 

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2023年12月21日木曜日

 『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション/戦後翻訳ミステリ叢書探訪』川出正樹

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東京創元社 KEY LIBRARY
2023年12月発売



★★★★   百花繚乱な戦後の翻訳書籍




本書を開きページをめくっていると、湘南探偵倶楽部が十年ちょっと前に発刊をほのめかしていた『邦訳探偵小説書影&作品目録』のことを思い出す。それは言うなれば、1945年以前に日本で翻訳された様々な探偵小説の叢書を網羅して見せるもので、古書に通じていないと、この目録を具現化するのがどれだけ難行な事か、普通の人には想像もつかないだろう。

 

 

各叢書の本の書影/データをできうる限り一斉に見せるコンセプトの『邦訳探偵小説書影&作品目録』、最初は単行本として出すという噂を耳にしていたのだが、結局各叢書の扱いをバラにしてしまった上、製本された形ではなくペラペラのコピー用紙に複写しただけの紙資料をクローズドな範囲で頒布するにとどまってしまう。事前に予告していた16回分の紙資料すべて出すことができたのか、私は確認していない。

 

 

それまでにも湘南探偵倶楽部は『初期創元推理文庫 書影&作品 目録』という力の入った私家本を制作している。こちらはちゃんと印刷業者によって製本されたものだったし、何度かアップデート版が再発されるほど一部の人々の間で好評を博した。当初の目論見どおり『邦訳探偵小説書影&作品目録』も一冊の立派な単行本として発売されていれば、戦後の翻訳叢書をフォローしている今回の『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション』と対になって私は有難かったのだが、現在の湘南探偵倶楽部はペラペラのコピー紙資料ばかり売るようになってしまった。彼らに何があったのかわからないが残念だ。

 

 

 

 

『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション』は目録ではないから、各叢書のそれぞれの書影が全てズラッと並んでいる訳ではないが、読み物として申し分の無い一冊に仕上がっている。私の読書範囲にヒットする章は【異色探偵小説選集】【六興推理小説選書】【クライム・クラブ】ぐらいだけれども、これは戦後の日本で翻訳される作品の対象が〈警察小説〉とか〈サスペンス〉ものとか、〈ハードボイルド〉あるいは〈冒険小説〉など多方面に拡散していくため、やむを得ない。

 

 

では私のようなタイプの読者だと本書を楽しめないのかといったら決してそうではなく、例えば【イフ・ノベルス】の章では松村喜雄の翻訳仕事を見つけることができるし、【Q-Tブックス】のページを眺めると中田雅久や島本春雄が関わっていたり、どの章にもチェックすべき情報が何かしら散らばっているのが嬉しい。各叢書にどのような本があるのか一目でわかるだけでなく、巻末には「索引」/「戦後翻訳ミステリ叢書・全集一覧」も付いている。
 

 

 

(銀) 森英俊や北原尚彦の見たくもない名前さえなければ満点にしたかった。あ、そうそう、本書の対象は単行本であって雑誌のたぐいは除外されているのだけど、巻末の「戦後翻訳ミステリ叢書・全集一覧」のページにおいて【別冊宝石 世界探偵小説名作選】【別冊宝石 世界探偵小説全集】だけは例外的にリストアップされている。




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『ぼくのミステリ・マップ/推理評論・エッセイ集成』田村隆一






2023年12月19日火曜日

『劇画アワー/ゴルゴ13』(1971)

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BS-TBS
2023年12月放送



★★★ ❷ 映像化されたゴルゴの中では一番マシだったかも




前々回の記事➊(☜)からのつづき。今回発掘された1971年放送TBSスチールアニメ『劇画アワー/ゴルゴ13』も1218日のオンエアをもって一通り終了したので、もろもろの感想を述べてみたい。

 

 

  音 楽

原作の徹底したシリアスな内容からすると、この番組のオープニング・テーマは飄々としていてゴルゴらしくはないなあ。『ルパン三世』旧シリーズの初代オープニング・テーマ同様、具体的な歌詞を使わずスキャット・オンリー(vocalは女性)にしたのはいいんだけど、「♪ ゴルゴ13~パヤッパヤッ」っていうのはなんだか軽過ぎやしないか。

 

音楽を担当しているのは山下毅雄なので劇中にはいつもの口笛メロディが頻出、良くも悪くも70年代テイストたっぷり。しかし『ルパン』とか『ゴルゴ』とか、この種のアダルト・コンテンツをテレビでやるとなると、山下毅雄の他に音楽を頼める人材はいないのか?とツッコミたくなりますな。

 

 

  声 優

音楽だけでなく、肝心のゴルゴを演じる声優にしても、原作での隙の無いクールさを映像で再現させるのは実に難しい。このアニメ版でゴルゴの声を演じているのは新田昌玄。それなりの低音ボイスだから起用されたのだろうが、この人ビミョーに訛りがある・・・というと言い過ぎかもしれないけど、イントネーションに癖があってね。

 

世界じゅうの国の言語を美しく喋ることができるゴルゴに変なイントネーションがあってはいけない。ナレーションの城達也も、音楽の山下毅雄と同じく無難なキャスティングで、まあこんなもんかなって感じ。

 

 

 

 

 

  作 画 / 脚 本

ヴィジュアルについては前回の記事でも書いたように、スチールアニメだったからか、さいとうプロが描いた原作の絵に近い点はかなり好感が持てる。脚本家のクレジットが殆ど出てこなかったのは、原作の会話部分をわりとそのまま流用しているっぽいから?なんせ一回分の放送時間が実質十分程度、その上動画でもないので、尺が三十分ある普通のアニメ番組に比べれば、23時台のオンエアゆえミニマムな低予算で制作されていた筈。(裏番組は『11PM』か)


原作に近いこの絵柄そのままに旧ルパン初期レベルのクオリティで、もしも動画の形で制作していたなら間違いなく日本のアニメ史上に残る作品になっただろう。そこはそれ、旧ルパンでさえ(初回放送時には)全然視聴率を取れなかったのだし、こちらもきっと大赤字になってTBS社内と制作サイドは炎上を避けられまい。どんなに意欲があってもスポンサーから潤沢な予算を調達できなければ成立しないんだよね~、民放の番組は。

 

 

  エ ピ ソ ー ド

このアニメ版の全貌が判らない以上、今回幸運にも廃棄されずに残存していた回のみの感想しか語れないのを前提に言うなら、「檻の中の眠り」が観られたのは嬉しかった反面、もうちょっと出来の良いエピソードを映像で観たかった。「殺意の交差」なんて、舌打ちしたくなるほどつまらん話だからなあ。

 

最初期のGは口数が多いだけでなく、命を落としかねない隙があるため、つい苦笑してしまう。「白夜は愛のうめき」では一度寝た女がゴルゴのことを忘れられずにこっそり狙撃現場まで追ってきて、驚愕の表情を見せるゴルゴがカッコ悪い。「スタジアムに血を流して」に出てくるオリンピック級狙撃技術を持つデイブにしたって、簡単にゴルゴは背後を取られているではないか。

 

今回放送されなかった原作のエピソードだと第35話「激怒の大地」でも、送り込まれた暗殺屋・白紙のギルに後ろから銃口を向けられている。「スタジアムに血を流して」のデイブや白紙のギルはムダにゴルゴに声など掛けず黙って引き金を引いていれば、容易くゴルゴを倒せるチャンスがあったのだ。

 

 

  総 評

TBSでの初アニメ化が原作の人気に拍車をかけたのか、半世紀が過ぎた今となっては知るすべも無い。『ビッグコミック』連載が進むにつれGは無口になり、❛らしくない❜油断は見せなくなる。原作も第50話を過ぎると「モスクワ人形」(第63話)みたいな長篇が徐々に生み出されるだけでなく、同時に「ゴルゴ13」の売りの一つである(普通の人が知らないような)トリビアや専門知識の情報量が増加してゆく。

 

となると僅かな十分の尺では、1エピソードに数回分使ったところで、このまま番組を続けようとしても無理が出てきそう。スチールアニメ十分番組のフォーマットでは、原作第50話に到達する迄のエピソードしか捌ききれなくて当然なのかもしれない。生前のさいとう・たかをはゴルゴの映像化に対して褒める発言など一切しなかった。高倉健の実写版映画『ゴルゴ13』にもさいとうはストレートに不満を表してたもんね。

 

それでも映像化された『ゴルゴ13』の中では、1971年のこのアニメ版が一番マシだったと私は思う。どんな長寿作品でも、その作品が属する時代というのは確かにあって、『ゴルゴ13』が属するのはどうしたって、まだ世界が東西冷戦を引き摺っていた1970年代になるんじゃないかな。そう考えれば、自然に70年代の空気が感じられて、原作に近い絵柄で鑑賞することができるこのアニメが他の映像ゴルゴよりずっと楽しめるのは自明の理なのであった。

 

 

 

(銀) たしかさいとう・たかをは「映像化できないものを劇画で表現しているんだ」みたいな意味の発言をしていたとも記憶する。画期的な完全分業化システムで手間暇かけて連載し続けた劇画を、そうやすやすとアニメにしたり実写化できる訳がない。面白い小説やマンガだと、ついつい映像化されたものも見てみたいと思ってしまう気持ちはわかるけれど、やっぱり最終的には原作を読んで楽しむ以外に正解は無い。

 





2023年12月17日日曜日

『髑髏城』ディクスン・カー/宇野利泰(訳)

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創元推理文庫
1959年7月発売



★★★★   翻訳に省略箇所があっても、
               私は旧訳のほうがいい




本作の中に「アンタは才能が無いし、この稼業向いてないから辞めたほうがいい」という意味の発言をする或る登場人物がいまして。今のご時世、このような言葉を他人に投げつけるのは❛まごうことなきハラスメント❜だ!なんて事になるのでしょうが、実際そのとおりなのだから言われても仕方のない事例のほうが多いに違いないと私は思います。例えばこのBlogでしばしば話題に挙がる頭の悪くて本作りに対しても無責任な、ミステリ業界にしつこく寄生している一部の年寄りとか・・・。
 

 

ミステリ・マニアが「秘密の通路はお約束」などと言って肯定意見(?)を吐いているのをよく見かける。読者からするとたいした手掛かりもなく、大詰めになって探偵が喝破する秘密の通路の存在・・・みたいな真相を許容できるかどうかは場合によりけりなんだろうけど、たとえゴシック色の濃い本作であっても、それなりの必然性を私は求めてしまう。

 

 

これまで記事にしてきたアンリ・バンコラン・シリーズ『絞首台の謎』『蠟人形館の殺人』『四つの凶器』に比べたら、挿絵が無くともストーリーの中の情景はイメージしやすいし、フランス人バンコランの旧いライバルにして今回の事件で推理を戦わせるベルリン警察主任警部フォン・アルンハイム男爵や(仏蘭西/独逸二国間対立の歴史を頭に浮かべて読むと、この二人の関係をより深く味わえる)、髑髏城の先住人・怪魔術師メイルジャアなど、キャラ立ちの良い顔ぶれが用意されており、そういった要素が小説を読む勢いを促進してくれる。

 

 

髑髏城とライン川の名状しがたいムードや、火だるまになって城壁から墜落するマイロン・アリソンの異様な光景が悪夢のように終始読み手に突き付けられるけれども、二人の髑髏城・城主の秘密が論理的に解明されるので大きな不満は無い。惜しむらくは本日の記事に引用している宇野利泰の旧訳には省かれている箇所があることで、話のタネに該当部分を挙げておこう。比較対象に使うのは最新の和爾桃子訳。サンプルにしているのは第11章(「ビールと魔」宇野利泰訳「ビールと魔術」和爾桃子訳)の文章。

 

 

◆ 宇野利泰訳 本書171ページ


「男爵。良い天気で楽しいですな。ひとつ、歌ってさしあげたいのですが、いかがです。わたしはこれでも、若い時分から、すばらしい低音だとほめられておるんです」


「きみのきげんがよいのは、お天気のせいばかりじゃあるまい。昨夜の件は、わしだって知っておりますぞ」


「ミス・レインのことをおっしゃるのですか?」

 

 

◆ 和爾桃子訳 創元推理文庫2015年版『髑髏城』151ページ


「これでも若い頃には、男爵、すばらしいバスの美声だと言われたものですよ。ですから、こんな朝には私の歌でもいかがですかな。そう、思い出しますよ。ニューヨーク殺人課のフリン、オショーネシー、ムグーガンといったいずれ劣らぬ強面のめんめんと五番街へ繰り出し、ライリー主任警視の蒸気オルガンで一同そろって『ミンストレル楽団 英国王を歌う』を合唱した時のことを。警察が浮かれ騒ぐ時はね、男爵、市民の身の安全など、あってなきが如しですよ


「そういえば」フォン・アルンハイムが評した。「昨夜は警察が浮かれ騒いでおったね」


「ミス・レイニー相手に演出したささやかな芝居をさして、そうおっしゃる?」

 


これ以外にも旧訳と新訳の異同はありそう。上記における和爾訳での白文字部分を宇野利泰が訳さなかったのは何故か?この比較だけだと新訳のほうが漏れなく処理しているように見えるが、和爾桃子の訳する日本語がどうにも読めたものではないのは、これまで度々指摘したとおりだ。それゆえこの記事には旧ヴァージョンの宇野利泰訳を使わせてもらった。訳者のみの問題で★の数を大きく減らしてたらバンコランとジェフ・マールがかわいそうでさ。

 

 

 

 

(銀) 旧訳『髑髏城』の翻訳テキストに省略されている箇所がある事は『ジョン・ディクスン・カー〈奇蹟を解く男〉』の「ジョン・ディクスン・カー書誌」3ページに記載してある。それならそれで省略せずに訳したのなら創元推理文庫新訳版は解説にでも、旧訳で省かれてしまった箇所を全てリストアップして見せるぐらいのサービスがあってもよかったのに。




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2023年12月14日木曜日

『劇画アワー/ゴルゴ13』(1971)

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BS-TBS
2023年12月放送



➊ 正確な全オンエア・データが知りたい




原作の連載スタート以来、TBSによって初めてアニメ化というか映像化された「ゴルゴ13」のロスト・テープが約半世紀ぶりに発掘された。アニメと言っても正確には動画じゃなく、アフレコで音声を入れてはいるが、一場面一場面ごとの静止画を連続して見せるスチールアニメである。あの時代の映像コンテンツを日本のテレビ局がからきし保存できていないのはいつものことだけども、動画じゃないぶん映像の絵柄が(当時のさいとうプロが描いた)原作の絵柄に非常に近いのがポイント高いし、これなら私も絶対観たい。今月1211日から18日まで、BS-TBS深夜3時台にて現在放送中。(TVerでも視聴可)

 

 

今回再放送されるエピソードは以下の22回分のみ。このあと数ある不明な点を考察してゆくが、五十年前にTBSが放送したこの『劇画アワー/ゴルゴ13』のエピソードがこれで全部だとは考えにくい。では下段に記載するオンエア内容一覧を見て頂きたいが、括弧内は原作だと連載第何話にあたるのかを示したもので、当時のオンエアの順番ではない。この記事をupした時点ではまだ「ゴルゴ in 砂嵐」までしか放送されていない。


 
 

1211日(月)AM3:004:00

「白夜は愛のうめき」Part1Part2(第6話)

「狙撃のGTPart1Part2(第12話)

 

1212日(火)AM3:004:00

「猟官バニングス」Part1Part2(第14話)

「ブービートラップ」Part1Part2(第7話)

 

1213日(水)AM3:004:00

「檻の中の眠り」Part1Part2(第5話)

「ゴルゴ in 砂嵐」Part1Part2(第10話)

 

1214日(木)AM3:004:00 放送予定

「シェルブール0300Part1Part2(第27話)

WHO?Part1Part2(第15話)

 

1215日(金)AM3:304:00 放送予定

WHO?Part3(第15話)

「スタジアムに血を流して」Part1(第17話)

 

1216日(土)AM3:304:00 放送予定

「スタジアムに血を流して」Part2Part3(第17話)

 

1218日(月)AM3:003:30 放送予定

「殺意の交差」Part1Part2(第16話)

 

 

一回につき約十分の短い尺。Wikipediaを見る19714月から7月にかけて平日(月~金)23時台にTBSで放送されていたそうだが、『THEゴルゴ学』をはじめ私の所有しているゴルゴ本を見ても、このアニメに関する詳細なオンエア・データは載っていないので分からない事だらけ。最低でも実質三ヶ月は放送されたとして【月~金5回】×【月四週】×【三ヶ月】、かなり少なく見積もっても60回ぐらいは放送された?

 

 

 

 

公式研究本『THEゴルゴ学』によれば、原作「ゴルゴ13」が『ビッグコミック』にてスタートしたのは1969年初頭(wikipediaでは196811月になっている)、このアニメのオンエアが始まった19714月に発表されている原作エピソードというと第41話「そして死が残った」あたり。原作第1話~第50話までを仮に〈ゴルゴ初期〉と呼ぶならば、TBSはかなり早い段階から劇画「ゴルゴ13」に目を付けTVアニメ化したと言えよう。

 

 

いま再放送されている映像を観ても、第◯回なのかを表示するナンバリングは無いし、上記一覧の放送順が当時の放送順なのか疑わしい。原作の発表順を無視してアニメ化を進めた可能性も無くはないが、原作では例えば第10話「ゴルゴ in 砂嵐」/第19話「ベイルートVIA」/第20話「最後の間諜虫(インセクト)」にて言及される❛虫(インセクト)❜のように、初出時には登場する時期が離れていても、話が連続していて再び登場するキャラクターがいたりするので、混乱しないよう本当はこのアニメも第1話「ビッグ・セイフ作戦」からほぼ原作どおりに制作されていたのではあるまいか。ただそうなると、何故BS-TBSが上記の順番で再放送しているのか理由が皆目掴めないのだけども。

 

 

今回発掘された映像の内訳からして、(原作でいうところの)最も連載が先に進んでいるエピソードは第27話「シェルブール0300」。そして通常は1エピソードにつき二回分を使っての放送ながら、「WHO?」と「スタジアムに血を流して」は原作でそれほど長い話でもないのに三回分を使っている。上段のケースとは逆に、19714月の月初から7月の月末までフルに日数を使って放送したと考えてみると、約80回はオンエアした換算になるが、いったい原作第何話まで進んだところでこのアニメは終了したのか私は知りたい。ていうか、もうこれだけしか残存してないのだろうか?他の回もどこかに眠っていないかな。

 

 

さっき原作第50話までを〈ゴルゴ初期〉と呼んでみた。個人的に第50話までのエピソードで是非アニメ版でも観てみたいのは、初めてGの右手が震える謎の症状が起こる第34話「喪服の似合うとき」と、原作全話の中でも傑作として上位にランキングされる第37話「AT PIN-HOLE!」か。ルーツ編第一作「日本人・東研作」も観てみたいけれどこれは第59話だし、このアニメ版に取り上げられたかどうかは微妙。

 

 

 

 

(銀) 『劇画アワー/ゴルゴ13』の話は本日限りのつもりだったが、語り尽くせていない話題が残っているし、番組もあと四日分まだ観ていないので、近日中に続きをupする予定。
 

 
原作にて深みのあるエピソードが増えてくるのは、実は第50話以降。最初の頃のゴルゴはやけによく喋ったり、些細な事で驚きの表情を見せたり、まだまだキャラクターが固まっていない。「檻の中の眠り」は脱獄ものの嚆矢、「白夜は愛のうめき」はGに特別な感情を抱いた女が狙撃現場を目撃して結果Gに殺されてしまうパターンの嚆矢になり、のちに何度も繰り返されるフォーマットの根幹を改めてこのアニメで再確認することができる。 



(☜)につづく。
 

 

 

 

   ゴルゴ13 関連記事 ■ 

 

『ゴルゴ13/㉗芹沢家殺人事件』さいとう・たかを

★★★★★

「すべて人民のもの」あたりまでのダイナミックな質感のゴルゴが好きだった (☜)






2023年12月11日月曜日

『シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット』モーリーン・ウィテカー/高尾菜つこ(訳)

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原書房
2023年11月発売




★★★★  著者がシリーズに好意的すぎるきらいは若干あるが
                それでも内容は読むに値する




 発売前のinfomationを見て購買欲をそそられるも、グラナダTVシリーズ全話あらすじ紹介に故ジェレミー・ブレット氏の情報を少々加えただけみたいな、〈ありがち〉かつ〈陳腐な内容〉だったら私には不要だし、現物を書店で手に取り「これなら読んでみてもいいかな」と確認した上で本書を購入した。

 

 

■ この評伝は当初Jeremy Brett: Playing a Part として発表されたもので、そのうちグラナダTVシリーズに関する章だけを抜粋・再編集し別途リリースされたJeremy Brett is Sherlock Holmesを翻訳した日本語版だ。近親者から提供されたプライベートなジェレミーphotoと、ドラマの中で名探偵ホームズに成り切っているジェレミーのスチール写真、良い塩梅でセレクトされたそれらのヴィジュアルが、在りし日の名優の歴史を彩ってくれる。本書の副読がてら、私が1989年にロンドンでジェレミー・ブレットの舞台『The Secret of Sherlock Holmes』を鑑賞した記事(☜)もリンクを張っておく。

 

 

素のジェレミーは意外にガッシリした体格なので、ホームズを演じるにあたり鋭さを表現できるよう体を絞り、入念に髪の毛をオールバックに撫で付けるだけでなく、眉を整え青白い顔色にメイクして演技に臨んでいたという。なによりドイルの原作を常に現場に持ち込み、ドラマが原作から逸脱しないよう誰よりも気を配った彼のattitudeは実に立派。

 

 

いつもこのBlogで言っているけれど、小説を映像化する時TVであれ映画であれ、小説家の作品を使わせてもらっている立場なのに、なんで映像屋は原作どおりに作ろうとせず、余計な改変ばかりやりたがるのかねぇ?「原作を一字一句たりとも変えるな!」とまでは言わないが、原作に忠実に制作するコンセプトでスタートしたドラマの筈が、監督や脚本家が要らぬ演出をしたがるので、ジェレミーはドイルの正典をスポイルしてしまわぬよう心を砕かねばならなかった。彼の立場からしたら、それもストレスだったに違いない。




 

 

■ 過去の映像作品と違い、ホームズと対等な友人であるべくワトソンの存在意義に注意を払っているのは好ましい。それだけに第3シリーズ以降、ワトソン役の俳優が変わってしまったのが惜しまれる。エドワード・ハードウィックだとワトソンにしては若干老けているよう私の眼には映るので、できれば初期ワトソンを演じたデビッド・バークには降板しないでほしかったな。

 

 

■ ジェレミー・ブレットはシリーズ途中で体調を崩したような印象があるけれど、実は若い頃にかかったリウマチ熱の後遺症による心臓への負担、そして精神的疾患である双極性障害、この二つの爆弾を最初から抱えている。当シリーズは莫大な予算をかけたドラマゆえ、主役の背負うプレッシャーが尋常ではないのと、最愛の妻ジョーンが1985年に癌で病死したのもあり、第3シリーズ以降ジェレミーのコンディションが精神的にも肉体的にも少しづつ悪化してゆくのは避けられず。

 

 

シリーズの後半、原作に忠実というコンセプトを破綻させてまで体調の優れぬジェレミーにホームズを演じさせる愚行は、もう笑顔ひとつ作れないほど病に体を蝕まれている晩年の渥美清を無理矢理カメラの前に立たせ続けた1989年以降の「男はつらいよ」とダブるところが多くて、やりきれない。 

そもそもジェレミーの体調とは関係なく、ホームズの兄マイクロフトを演じたチャールズ・グレイは〝もみあげ〟が長すぎてシドニー・パジェットの描くマイクロフトにちっとも似ていなかったし、原作でレストレード警部が顔を見せるべきエピソードなのに彼が出てこないこともあったり、ジェレミー・ブレット・ホームズの輝きの陰で、さしものグラナダTVシリーズでも百点満点を献上できぬ欠点は多々あったのだ。

 

 

著者のモーリーン・ウィテカーはジェレミー・ブレットに心を寄せ過ぎて、シリーズの問題点に触れていない訳では決してないけれど、あと少しだけ沈着冷静なマインドで批評してほしかったと思う。本書にはジェレミーをはじめ出演者/スタッフらの発言と共に、当時の各メディアが書き立てた絶賛の声も多数紹介されているが、英米Amazonレビュー欄の投稿文まで引用するのはさすがにやりすぎ。それと巻末にグラナダTVシリーズの制作/放送データは載せたほうが、特に若く新しいファンは有難かっただろう。

 

 

 

(銀) 小説の映像化に関連する話題だと、私の場合どうしても厳しめの感想にならざるをえないとはいえ、この本を最後まで楽しんで読めたのは間違いない。それにしても原作にて長篇でもない作品を二時間スペシャルにしたりとか、いくらマンネリを防ぐためとはいえ、本気でそんな無茶を視聴者が喜ぶとでも制作サイドは考えていたのか、私には理解しがたいことばかり。




2023年12月8日金曜日

『孔雀屋敷』イーデン・フィルポッツ/武藤崇恵(訳)

NEW !

創元推理文庫
2023年11月発売



★★★    王道ミステリをあまり期待する勿れ




フィルポッツの作品はそのすべてがミステリの王道を歩んでいる訳でもないし、普通小説ながらミステリ的な要素を含んでいる、みたいなものがミステリとして扱われていたりもする。本書も「フィルポッツ傑作短篇集」と謳ってはいるが〝推理〟を求めすぎると大きく失望させられることになる。

 

 

まず「孔雀屋敷」。ヒロインのジェーン・キャンベルは亡父から〝千里眼〟的な能力を受け継いでおり、過去に起きた悲劇の現場を(夢の中ではなく)実際その目で偶然見てしまう。主人公がタイムスリップして昔発生した事件の謎を解く趣向のミステリもあるが、私はそのような(時空間を行き来する)作品はミステリとしては好みじゃない。本作はヒロインが一時的に過去の惨劇の幻影を見るだけなんだけど、それでもこんな非現実性はちょっと・・・ね。

 

 

つづく「ステパン・トロフィミッチ」、これは力作だと思う。フィルポッツは人物描写や風景描写に長けていると評価される作家だが、ここでも貧しいロシア人の悲惨さがガッツリ書けておりページをめくるたび引き込まれてゆく。ただ内容的には戦前の日本でいうところのプロレタリア小説に近くもあり、ミステリとしての興味は終盤に出てくる兇器のみ。

 

 

「初めての殺人事件」は何も印象に残らなかったのでスルー。それにしてもここに収められた六短篇のうち、半分はタイトルに魅力が無いなあ。もう少しメリハリのある作品名、思いつかなかった?




 

 

本書の中では最もミステリ色がハッキリ出ていて、「三人の死体」は◎。海を越えてロンドンへ犯罪捜査依頼が届き、語り手がバルバドス島へ向かうものの、結果を出せず撃沈。彼の提出した報告を基に、上司である私立探偵事務所長マイケル・デュヴィーンが最終的に推理を組み立てるプロットは、フィルポッツ代表作「赤毛のレドメイン家」そのままではないが、探偵役二段構えの妙を楽しめる。

 

 

「鉄のパイナップル」の主人公は些細な事に対する強迫観念が度を越しており、その病的なキャラは現代人とも通ずるところが多く、人物造形はよろしい。しかしミステリとして読むのなら、この終わり方は消化不良。

 

 

腹違いの兄弟ジョシュアが悪の道に墜ち、運命の巡り合わせでジョシュアに憎まれてしまうジョン・ロット。ジョシュアの影におびえるジョンのサスペンスを描いた「フライング・スコッツマン号での冒険」も途中までストーリーの流れは悪くないのに、結末がイマイチなのが残念。それにこの作品、タイトルが内容にフィットしてないのもよくない。

 

 

いたずらに読み易さばかり強調するからか、それとも作品の時代性や適切な日本語を理解していないからなのか、味の無い文章に翻訳してしまう輩が多い昨今、武藤崇恵の文章は「他の訳も読んでみたいな」と思わせてくれるものだった。

 

 

 

(銀) 武藤崇恵の訳文とは対照的に、創元推理文庫のフィルポッツ本のカバーを担当している松本圭以子のイラストは、ミステリに添える絵にしては雰囲気が柔らかすぎる。彼女のイラストはもっとメルヘンチックな小説のほうが向いてるのでは?






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