昭和24年、この作家は川島郁夫の名で世に出て、昭和33年に本名の藤村正太へ筆名を変更。本巻は川島時代の作品群なので、ここでは彼の名を川島と呼ぶ。
初期に書かれたものは本格を目指したトリッキーな作風だというが、無理やりなどんでん返しを用いたり、どの作もゴタゴタしていて一本筋の通った読後の良い印象が残らない。「黄色の輪」「接吻物語」「盛装」「虚粧」「或る自白」「筈見敏子殺害事件」・・・・どれもこれも作者は七転八倒してアリバイや密室工作を拵えるのだが、終盤に余計な小細工をやりすぎるため、その作品における明確な線がぼやけてしまう。
「断層」のラストでの犯人のルナティックな狂人的行動など唐突で不可解。きっと彼も御多分に洩れず、江戸川乱歩の影響(特に初期短篇や「陰獣」)が強いのだろうと推測される。でも乱歩とは違い、結末の二転三転が有機的に活かされず、クドいだけなのが惜しい。
作品のヴァリエーションはそれなりにあって、「暴力」「その前夜」は設定が時代物のミステリだったり、「田茂井先生老いにけり」はユーモア仕立、戦争が一人の人間の性質を変えてしまう「或る特攻隊員」は非ミステリながらも力作で、ここでは小細工こそしていないのだが又も印象的なラストを作り損ねている。裁判のある盲点な制度を扱った「法律」も締め括りが弱い。小酒井不木風の生臭い戦慄医学ミステリ「液体癌の戦慄」「武蔵野病棟記」も雰囲気はすごく良いのに・・・。
(銀) 藤村正太名義になってからの著書だと、『孤独なアスファルト』『大三元殺人事件』『原爆不発弾』などよりも『ねぶたの夜 女が死んだ』とか短編集の『魔女殺人』『女房を殺す方法』みたいなもののほうが社会派臭さが無いのでまだマシかな。私自身、麻雀をやらないので麻雀ミステリをやられても・・・。