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2024年11月30日土曜日

『夢をまねく手』宮野村子

NEW !

盛林堂ミステリアス文庫
2024年10月発売



★★    初版乱丁




本書に関し発売後まもなく盛林堂書房から「全冊に乱丁あり」とお詫びの告知。何事?と思って最初に届いた乱丁版を読んだら「犯人さがし探偵小説 ダイヤの謎」(250頁275頁)が本来のページ順になっていない。落丁じゃないから、そのまま読もうと思えば読めなくはないのだが盛林堂側は逸早く対応、無償で購入者全員に修正版が配布された。もともと乱丁版を何部作っていたのか分からないけれども、修正版の製本コストに加え、別途発生する送料を考えれば、渋沢栄一/福沢諭吉がラクに数十枚出て行くレベルの出費になる筈。

 

 

普通の版元なら大いに同情を寄せてしかるべきトラブルなれど、なにせ相手は盛林堂。校正無視のムチャクチャなテキスト入力で作られた駄本を悪質なボッタクリ価格で売り捌く善渡爾宗衛/杉山淳/小野塚力らと手を組み、島田龍の左川ちか書籍刊行を妨害する、ブラック集団の総本山だ。気の毒だが、これまでやってきた悪行のバチが当たったとしか言いようがない。もっとも、あの手この手でさんざん泡銭を儲けてきたんだし、小野純一からすればこれっぽっちの出費など痛くも痒くもなかろうて。

 

 

今回は宮野村子未刊作品のうち、ジュヴナイルをコンパイル。
修正版の奥付には〝二刷〟を示す表記が何も無い。
今後、事情を知らず中古本で誤って乱丁版を買わないよう、注意されたし。

 

「ダイヤにのびる手」「おしのはと時計」「姿なき使者」

「夢をまねく手」「ダイヤの謎」

 

収録作品数こそ多いとはいえ、それなりに読めるのは上記五篇程度。少女小説ながら「ダイヤにのびる手」「おしのはと時計」に出てくる日本の統治下にあった大連のように、エキゾティックな土地を舞台にしているものは味わいがあって良し。こんな風に外地・内地問わず、時代の空気感を積極的に取り込んでいたら、より奥行きのある作品が増えていたかもしれない。「夢をまねく手」は八回連載長篇のわりに枚数が少なく、各登場人物の性格付けも然程ハッキリしていないため、桃色真珠にまつわる島のエピソードしか頭に残らない。

 

 

ここから先は、ほぼ懸賞・コント・クイズものばかり。

 

「仲よし」「ママの家出」「清風荘事件」「モンコちゃん」「首なし人形事件」

「バラ盗み競争」「美しき毒蛇」「消えた真珠」「ゲレンデの銃声」「死の舞踏」

「月夜の砂山」「声なきことば」「少女とトラ」「天狗の木」「ベルの死」

「のどじまん大会の乱闘」「雪の上の足跡」

 

 

これらの他愛無い掌編群は軽く受け流しておけば十分。ただ、本書を読んでひとつ思ったことがある。十代読者を意識しつつ文学派グループの宮野村子が〝砂を袋に詰めて凶器にするような〟超初級トリック作品を書いたって、彼女の良さは全然活きてこない。もし宮野が腰を据えて少女小説を書くのならば、無理して謎解きの小細工に拘らずとも、変な喩えかもしれないが吉屋信子っぽいストーリーで攻めたほうが面白いものが出来たんじゃなかろうか。〝女の心情〟を描かせたら右に出る者はいないんだからさ。

 

 

あと目に付くのは70頁にも及ぶ森英俊の解説「宮野村子と戦後のブーム」。同人出版の巻末解説にしては異例のボリュームである。森も最近、即売会や「日本の古本屋」にて二束三文で拾ってきた状態の悪いレア本のヤフオク転売をやっていないようで、暇を持て余しがちだからこんなに長文の解説を書き下したのか?

 
 

 

 

(銀) 動物に対する宮野村子の冷酷さは今回も健在。「仲よし」に登場する大型シェパードのビルケはとんだ濡れ衣を着せられるけれど、それ以上ダメージを負わされることは無く、ハッピーエンドに終わって一安心。

 
 
森英俊が解説に書いているのだが、昔はジュヴナイル本の発売時、出版社サイドが仕掛ける販促の中で、〝伝書鳩ひとつがい〟を読者にプレゼントする企画なんてのがあったらしい。マジか?いくらその時代、伝書鳩が流行っていたからって、生きている鳩をどうやって当選者に渡したのだろう?クッククック鳴いている〝いたいけな鳩〟を箱詰めにして郵送した日にゃ、少年少女達の元へ届く前に死んじゃうよ~。







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2022年10月14日金曜日

『毒虫』宮野村子

NEW !

盛林堂ミステリアス文庫
2022年10月発売



★★★★    そろそろ長篇も




まだまだ続く盛林堂ミステリアス文庫の宮野村子未刊作品集。本書の半分近くは雑誌『宝石』に発表されたものだし、それほど残りカスな感じは無い。その辺は制作者が最初のほうに良いものを集めすぎて後から出す本はクズばかりにならないよう塩梅しているのかもしれない。収録順は時系列に並べられている。

 

 

 

 「花の死」

戦前作を除くと、わりとキャリアの初期(昭和24年)に発表されたもの。この頃はまだ宮野叢子名義。戦争で身寄りの全てを失い、一人で生きていかなければならない冬子。仕事を求めて職業安定所に足を運んでいた冬子の前に現れた、上品で鄭重な老婦人の目的とは?てっきりドイルの某短篇翻案かと思いきや、また別のドイル短篇みたいな様相を一瞬呈しかけ、結局 (マナーとして伏字にしておく)の悲劇だった事がわかる。 を扱った短篇を集めて一冊のアンソロジーができるぐらい、日本探偵小説にはこのテーマがちょくちょく使われている。

 

 

 

❖ 「切れた紐」

これはもう探偵小説というより悲惨小説と呼んだほうがふさわしく、悲惨小説のアンソロジーがもしあったら是非入れてもらいたいほど救いの無いストーリー。本作に登場する不幸な娘・ナミに近い素材をかつて夢野久作も手掛けたことがあって、彼の作品は淡々とドライかつシニカルな視点で書かれていたが、宮野村子の場合はナミの母・お幾の心情が当時者としてドロドロに曝け出されているため、久作作品と対比してみるとその違いが興味深い。「切れた紐」は久作の某作よりずっと枚数が多いので、クドさも大盛り。

 

 

 

❖ 「轟音」

財産が目当てで片足が跛のハンデを持つ美根子と結婚した竜二。その財産もすっかり使い果してしまい、非情な竜二にとって美根子は最早邪魔な存在でしかなかった・・・。鮎川哲也だったらこのシチュエーションならきっと凝ったトリックをこさえるだろうし、大下宇陀児だったら子供をうまく動かしただろうな・・・と思う。その辺にちょっと食い足りなさが残った。

 

 

 

❖ 「一つのチャンス」

宮野には珍しく女性誌『新女苑』に書いた一篇。読者層を意識したのか、事件は舞踏劇「香妃」が開催されている歌舞伎座で発生。毒入りチョコレートのロシアン・ルーレット。

 

 

 

❖ 「花の肌」

事業に成功して金には困らない中高年男性が甘く柔らかい香りを放つ若い女に夢中になり、強引に再婚。しかし同居している(前妻の残した)長女が若妻に敵意を持ったり、些細な事から若妻に対して男は嫉妬と疑惑を持ち始めたり・・・といったありがちなパターンの展開は皮肉な末路を辿って、因果応報なThe Endへ。

 

 

 

❖ 「玩具の家」

中河家の人間関係や犯罪発覚の顛末よりも、明夫少年におみやげとしてプレゼントされた積木の玩具が私は気になってしょうがない。さまざまな形の木片を組み立てるこの玩具、数色のペンキというか塗料が付属していて、子供が好きな色に塗り変えられるというが、こんな塗料を小さな子供に持たせたら部屋の中がベトベトに汚されてしまうんじゃないんかい?

 

 

 

❖ 「護符」

宮野は少女時代を満洲の大連で過ごしたという。その頃、実際耳にしていた話なのか、それともフィクションなのかは判らないが、満鉄(南満洲鉄道株式会社)の社員を登場させている。これを当時リアルタイムで書いていたら日本人批判など絶対に許されなかっただろう。ここからクライマックス?というところでブツンと終わってしまうのが疑問。

 

 

 

❖ 「神の悪戯」

ウブな峰子は真面目な青年・行雄とつきあっているが積極的な恋愛行動を執れずにいる。そこへ学生時代の友人・千枝子と再会、若くして上流夫人になっていた千枝子は生来の我儘かつ歪んだ性格が増長しているらしく、峰子のカレである行雄に手を出したり、ホモの男達がホストとして集っている秘密クラブ「黒い薔薇」へ無理矢理峰子を連れてゆく。一応〝倒叙〟な結末ではあるけれど、千枝子や「黒い薔薇」に表現される汚れた世界とのバランスが不均等というか、うまく溶け合っていない感じがした。

 

 

 

❖ 「毒虫」

本書のタイトルにされてはいるが、それほど飛び抜けた佳作でもない。毒虫というのは言うまでもなく〝ゆすり〟を働く者の形容。

 

 

 

 

(銀) 巻末には「現在も宮野村子の著作権継承者を探しています。ご存じの方がいらっしゃいましたら、編集部までご連絡を頂けますと幸いです。」とある。宮野は新潟生まれだと云われており、裕福だったかどうかはわからないが平均水準以上の家庭で育ったと思われる。けれど晩年は視力を失い立川の老人ホームに入っていたようで、施設に入っていたから寂しい最期を迎えたと決めつけるのはよくないが、津野家の親族はもう完全に絶えてしまっているのだろうか。それとも盛林堂の人間が著作権継承者を探しきれていないのか・・・。正当に作家の印税を受け取るべき人がおらず、古本ゴロばかりが私腹を肥やすなんて絶対あってはならない事だ。

 

 

盛林堂書房はあと二冊(一冊は子供向けの作品集)宮野の単行本を出すつもりらしい。既に未刊作品短編集が四冊出ているから、マンネリ防止のためにもそろそろ「血」「流浪の瞳」など既刊長篇をかましてみるのも悪くない。が、店主小野純一によればそれらの既刊長篇をもし仮に復刊するとしても、現在の未刊作品短篇集を出し終わった後にしたいそうだ。そりゃそうだろうな。彼らにとっては長篇を復刊することで、5ケタの高値がまかりとおっている宮野村子既刊本の古書市場価格が下がってしまう状況は決して望んでいないだろうから。





2022年1月5日水曜日

『幽霊の接吻』宮野村子

NEW !

盛林堂ミステリアス文庫
2021年12月発売



★★★★   現(うつつ)に戻す罪の深さを



❆ 盛林堂の宮野村子も巻数を重ね、さすがにクオリティが落ちていくのかなと思われたが、『無邪気な殺人鬼』『童女裸像』といったこれまでの三冊の中では一番良かったかもしれない。前二冊以上にバラエティ感に富み、探偵小説にうるさくないフツーの読者にも読み易くて、同人出版としては商品性高いんじゃないの?

 

 

 

❆ それでは今回も一作ずつチャッチャッと紹介していこう。まずは江戸川乱歩「心理試験」の前半部分をアダプトしたような「罠」。殺人をやり遂げた後の発覚部分はあっさり短め、宮野村子にしては感情移入を控え〝お仕事〟モードに入って書いたような一篇。

 

 

次の二つは作者の最も得意とする、女ごころの複雑怪奇さに翻弄される男を描いたもの。まず「夜の魚」。街の仲間達にも知れているほど健一は春美に気があるのだが、彼にとって春美は〝上手(うわて)の上手(うわて)〟な存在。蒼い敗北感に苛まれ、健一は姿を消す。半年後、街に戻ってきた健一は少し大人びた変化を見せるのだが、その事が皮肉にも春美にダメージを与え・・・。



「心の記録」は短篇ながらも枚数の多い力作。
内縁の妻を絞殺した罪で裁判中の原健一(「夜の魚」の健一とは無関係)。あまりにも素直に供述する健一に対し、裁判員達は「被告にはまだ語られざる何かがあるのではないか?」と決め手に悩む。健一の人生には消そうにも消せない暗い残像があった。

物心つく前に、母親は彼を捨てて去っていった。祖母が健一を引き取ったものの体を壊し、不幸なまま一人この世に残すくらいならと祖母はタオルで健一の首を絞めようとしたが、それはあやうく未遂に終わる。最終的に健一の面倒を見てくれたのは家出した母の従姉妹夫妻で、その明るい森本家にはさく子という健一の姉代わりになる娘がいた。だが戦争によって、ふたりの運命は弄ばれてしまう。

前半では裁判員が推理/斟酌する健一の内面を、後半は健一自身のトラウマ、そして悲劇に至るまでの道程を描いた多面的な物語。奇しくも木々高太郎が書いていてもおかしくないような出来である。


 

 

「黒眼鏡の貞女」は主人公の設定がユニークで、按摩さんのような〝めくら〟に近い視力しか目が見えない女の薄幸を書くのかと思ったら、彼女は執念深い仕返しを企んでいた。同様に雑誌発表時のページ数が限られていたからなのか、エンディングが慌ただしいのがちょっと。「怪奇探偵 運命の足音」は現代の商業出版なら腰が引けて収録を絶対見合わせるだろう。ポリコレ・クレーマーはこのタイトルに〝怪奇〟という単語が付いているだけで「けしからん!」とカッカするんだろうな。汚れなき愛情が描かれているのに。

 

 

主人公の〝あたし〟は姉・波奈子と共に喫茶店を経営しており、彼女達は弟代わりになりそうな可愛らしい少年給仕の章二を雇っている。ある日、仮面のように表情の無い顔をした奇妙な人物が店にやってきた。その男は「紫夫人」の怖ろしき使者だったのだ。これは〝人攫い〟というものがありがちだった昭和前半の香りが漂うスリラー。 

妾の息子として生まれ育った伸夫少年。隣人の三千代は夫の不貞と冷たさに、鉛を飲むような毎日を送っている。そんな三千代は伸夫に自分の息苦しさを打ち明ける。「恐ろしき弱さ」というこの作品のタイトルはちょいと安直だったかも。                            

 

 

「幽霊の接吻」は幽霊話なのか、イタズラなのか、微妙なオチをつけたハート・ウォーミングな読み物。「二つの遺書」はシリーズ・キャラクターである広岡巡査はじめ警察の面々が温かさを見せるその分だけ交番に捨てられた幼児ミエ子の救われなさが余計に際立ってくる。いや探偵小説的な見所はそこじゃなくて轢死トリックなんだけどね。最後の「あやかしの花」にも兇器隠蔽トリックが使われているが、この兇器は警察が現場を捜査に来たら、いくらなんでも見落としはしないだろ?と、ピュアな私は突っ込んでしまうのだった。

 

 

 

(銀) 小説そのものは面白かった。盛林堂の本じゃなかったら★5つにしたよ。

なんだろう、宮野村子にトリックは最初から期待していないけれど、彼女なりにトリックに取り組んでいる作品があると、そのトリック自体は独創性が高くなくても、やっぱりちょっと嬉しくなるね。地の文章がイキイキしているだけに。




2021年4月25日日曜日

『童女裸像』宮野村子

NEW !

盛林堂ミステリアス文庫
2021年4月発売



★★★★   この作家に従来見られなかった
           「童女裸像」における少年目線の青い性




『無邪気な殺人鬼』に続く宮野村子未刊作品集第二弾。
改めて掲載誌一覧を見るとマイナー雑誌への発表多し。以下、カッコ内は初出年度。


 

   「狂い咲き」(昭和24年)

『無邪気な殺人鬼』はなかなかエグい作が入っていたが、本書もいきなりヒステリーにまかせて猫を殺すという、動物愛護にうるさい人が読んだら激怒しそうなシーンからスタート。美津江は人並み外れた美しさを持ちながら、度が過ぎて傲慢かつ奇矯な女に育ってしまった。後半の展開を読んでも、果して読者は美津江にシンパシーを感じるだろうか。 

 


   「かなしき狂人」(昭和25年)

タイトルに〝狂人〟とあっても、こちらにはまだ哀切がある。
終戦から三年後突然復員してきた正春だったが、酒に溺れてすっかり荒れた性格に変貌。
正春の母に仕えるユキは今に起こるかもしれない凶事に脅える。



   「草の芽」(昭和27年)

探偵趣味は無いが、『無邪気な殺人鬼』収録の「運命の使者」とも通じる温かさを覚える一篇。主人公・お重は生活こそ困らねど、とっくに夫はこの世を去り息子・弘一も戦死。女の悦びとも縁遠くなっていたのだが、部屋を貸してほしいと突然やってきた老人に世話を焼きつつ、愛情を抱き始める。この頃宮野村子はまだ30代半ばの年齢だが、孫に「お祖母ちゃん」と呼ばれるような初老女の面倒見の良い性分がよく書けている。

 

 

    「山の里」(昭和31年)

若い時分、命がけで愛していた妻が、自分が目をかけていた若い男と密通したため両者もろとも射ち殺した過去があるという赤沼。酒場を辞め山中の村でそんな赤沼と一緒に住み始めた絹枝。この作品を読んで、どっちに非があるとアナタは思いますか?ぶち殺される狐。ここでも動物に容赦ない宮野。

 

 

    「蝋人形」(昭和33年)

地方新聞の部長をしている敬治は街娼ルミと出会う。まるで蝋人形のような冷やかさを持つ彼女を囲おうとして、戦争で不具者になってしまい人目を嫌って隠遁生活している旧友・勝也の家に匿わせる。男性探偵作家にはよくピグマリオン嗜好が見られるが、この作の蝋人形はどうなる?

 

 

    「狂った罠」(昭和35年)

たいした趣向でもないけれど香りを用いた殺人トリック。そのためにシェパードが利用される。動物に対して、もうやりたい放題じゃん。


 

   「雨の日」(昭和38年)

⑧  「花の影」(昭和37年)

宮野村子には珍しく、この二作どちらにも広岡巡査というキャラクターが出てくる。両方とも『別冊週刊漫画TIMES』という雑誌に発表したせいだろうか。あと「花の影」にも冒頭の「狂い咲き」にも〝種子〟という登場人物の名が見られるが、特に関係はなさそう。この本、発表順に並べているのに「花の影」だけ「雨の日」より後に載っているのはなんで?

 

 

   「童女裸像」(未発表「宮野村子」名義)

これのみ中篇で、生原稿を高木彬光が預かったままになっていたもの。同じ未発表原稿でも、『無邪気な殺人鬼』収録の未発表作「死者を待つ」よりこちらのほうが良い。少年の眼を通して描かれる少女の透き通った裸体から匂い立つ青い性なんていうのはいつもの宮野には見られない題材。男性作家が書きそうな肉のエロティシズムとは少し違って、どちらかといったら精神的なな性表現。



戦争前、とても可愛がってくれた深見義行のもとに、自分は愛する三重子殺してしまったかもしれないと言って頼ってきた淳。しかし、弁護士であり少年時代の淳をよく知っている義行は、どうしてもそれを信じることができない。三重子の死の真相は?淳の脳裏に今もハッキリ残っている子供の頃の清らかな三重子の裸体はなぜ汚れているというのか?

折角余韻を残すエンディングで終わるのに、本書のテキストを打ち込む人間がそこでまたミスをしており興醒め。

淡くほのぼとの → (✖)

淡くほのぼのと → (〇)




(銀) 宮野村子の新刊が読めるのは嬉しいけれども、前回の解説を書いたのが彩古(古書いろどり)で今回は野地嘉文。盛林堂書房の本だとこういう奴等に御鉢が回ってくるから嫌だ。解説執筆を頼むべき適任者はもっといるだろうが。



その解説の中で野地は宮野村子を酒豪扱いしているが、実際どうだったんだか。
その都度どういう状況にあって、宮野がどういう飲み方をしてたのかわからんし。
でも山田風太郎との一件(2020年7月7日当blog記事を見よ)を読む限り、
飲み過ぎて「抱いて」と絡んでくるような女性のことを酒豪とは普通言わんけどな。




2020年9月3日木曜日

『無邪気な殺人鬼』宮野村子

NEW !

盛林堂ミステリアス文庫
2020年8月発売



★★★★     女はそれを我慢できない





すっかり古本ゴロの巣窟みたいになってしまった盛林堂書房の文庫だし、解説は喜国雅彦一派の彩古(古書いろどり)だし、あまり積極的には取り上げたくないのだが宮野村子なので・・・。収録されたのは過去に単行本未収録だった八短篇と生前未発表だった一短篇。「トリックって、そこまで重要なんですか?」てな感じの、芯から文学派の人なんで、どっぷり ❛ ♀ ❜ 目線で描くドロドロの人間心理スリラー全開。




   「死後」

これのみ紅生姜子名義の昭和13年作。掲載紙が『科学ペン』というのも彼女にしては異色。科学雑誌掲載なのに、死後の世界を主張する病身の少女・芳子に掴まれた妙子の咽喉に指の痕が消えなくなる・・・という怖い話(?)。

 

   「運命の使者」

扇情的な犯罪が起きる訳ではないが、しんしんと雪が降りつもる大晦日の夜を静かに過ごす小家族の日常は、(さびれた地方では今でもそうなのかもしれないが)昭和50年代以降我々が失ってしまった日本人の慎ましい年越しの在り様をしんみりと描いている。

 

   「無邪気な殺人鬼」

水商売の女手ひとつで育てられた、幼く純真な少女マリコ。娘の無邪気さとは対照的に親として世間並みのの愛情を注げない、乱れた生活の母との間に思いもよらぬ惨劇が・・・・。そこまでやるか、宮野村子よ。

 

   「冬の蠅」

サディスティックにも近い高慢さで周囲の人間を不幸に追い込む元ブルジョアの冬美。この女もいわゆるアプレゲールの一種と見るべきか。 

 

   「白いパイプ」

家に訪ねてきた訪問者の怪しい形跡から妻への疑惑を持つ夫。本書の中で珍しく救いのあるオチにホッとする。この短篇に事件なんて何も起きないのに、彩古は「フーダニットの興味」などと的外れなことを解説に書いている。



 

   「時計の中の人」

これでもかとばかりに繰り出される、敗戦後の鬱々とした物語。どこまでも不幸を背負った男・貞雄、三角関係の泥沼からなんとか貞雄を救おうと藻掻く伯母・あき、穢れを知らない少女・奈々子のイノセントさ。この三者のコントラストが余計に悲しい運命を際立たせる。

 

   「吸血鬼」

いつもの ❛ 情念 ❜ ものとは違って、現実味から離れた御伽噺みたいなロマネスク・スリラー。

 

   「善意の殺人」

不倫ネタを用いているのでまたしても女の怨念が・・・という展開を先読みしてしまうが、この作にだけは、やや錯綜した謎がある。

 

   「死者を待つ」

名編集者・原田裕の旧蔵品の中に残っていたらしい未発表作。そういや原田の家から放出されたものを何人かの転売屋がヤフオクに出品していたのは知っているが、彩古もぬけぬけとその中に混じっていたな。集中豪雨と土砂災害を素材にした本作は、相変わらず天災が多い令和時代でも有効かもしれないが、素人の私から見ても、あと少し文章の隅々へ推敲が必要だと感じた。




(銀) いや~宮野叢子好きの自分でさえ、コッテリした感情を押し出す作品が連続するものだから、さすがに読んでて重かった。種類は異なるが、朝山蜻一のエグい作品を読んだ直後と同じぐらいに疲れたかもしれん。変格や文学派に甘い私でさえこうなのだから、「論理性が無ければ探偵小説じゃない」「ベトついた人間関係の話は苦手」という人は到底受け付けないかも。覚悟して読まれたし。


商業出版じゃないとはいえ盛林堂の本も度々校正の杜撰さを目にする。ボーッと遊び半分に作業しているんじゃないのか?


● 38頁10行目 「ほんとに発狂してしまったのです。」

● 100頁12行目の後に無用な数行分のブランクがある。




2020年7月15日水曜日

『宮野村子探偵小説選Ⅱ』宮野村子

2011年1月16日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

論創ミステリ叢書 第39巻
2009年4月発売



★★★★★     女の情念




宮野叢子から宮野村子へと改名したのは1950年代半ばを過ぎた頃だと云われている。私は叢子と書くほうが好きなのだが、本巻のタイトルには宮野村子と記されているので、ここでは宮野村子名義で通して話を進める。ちなみに本名は津野コウという。

 

 

女流探偵小説家は数えるほどしかいないが、私ならこの人を推す。紅生姜子の名で処女作「柿の木」を発表したのは戦前の探偵小説同人誌『シュピオ』だが、活躍し始めたのは終戦で満洲から引き上げてからのこと。のちにデビューする仁木悦子あたりと比較しても、探偵小説の本来持つネットリとした肌合が魅力。作品の質にもムラがなく心理描写に長け、登場人物の境遇・性格に作者自身がかなり投影されている。女の情念、畏るべし。

 

 

この論創ミステリ叢書で一作家複数巻の場合『 Ⅱ 』よりも『 Ⅰ 』、すなわち執筆後期より前期が良作であるケースが多い。だが宮野村子の場合そんなことはなく、本書『 Ⅱ 』には1958年の傑作短篇集『紫苑屋敷の謎』をまるごと収録。よって力作たる中篇「鯉沼家の悲劇」を収録した『 Ⅰ 』も良いけど、あえて今回は『 Ⅱ 』を紹介した。他「愛憎の倫理」「ヘリオトロープ」「廃園の扉」等を含み、十八短篇のうち十一作が単行本初収録。

 

 

戦後「文学派」グループのひとりなのでトリック・メイカーみたいな味は薄いが、師匠格の木々高太郎よりも物語力は優秀。もともと七冊しか著書がなく、岩谷選書『鯉沼家の悲劇』をたまに安価で見かける以外は軒並み古書価が高い。風格のあるキラー長篇を12作書いていれば、もうワンステップ成功できた筈。新たな現行本で宮野村子をもっと読みたい。

 

 

 

(銀) レビューの中でも書いているが、戦後の木々高太郎寄りな「文学派」の中ではかなり好きな作家であるわりに淡白な紹介をしてしまい反省している。もっと熱っぽく語ればよかった。一冊の中にボリュームのある長篇がドカッと鎮座していればレビューもその内容についてじっくり書きやすいのだけど、短篇が多くなると作品の数だけ言及する量がやたら増えるため、一纏めにあっさりした物言いで片付けざるをえなかった。今度彼女の新刊が出たなら、濃い感想を是非書きたい。

 

 

と言ってみたものの、業界ではこの『宮野村子探偵小説選』二冊で腹一杯になってしまったかのように、その後宮野の新刊が出るという噂さえ耳にしない。古書価が高いということは私だけでなく他にも評価している人がいるから・・・だと思いたいが、つまらん内容でも「本自体をめったに見かけない」という取るに足らない理由だけで高騰するのが探偵小説の古書の世界だしな。