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2024年2月3日土曜日

『蒼社廉三/軍隊ミステリ集』蒼社廉三

NEW !

大陸書館(honto/大日本印刷 POD)
2024年1月発売



★★★★    独 壇 場





つい「蒼社廉三って戦記専門の作家だろ?」と勘違いしてしまうぐらい、この本は〈メカのパーツ〉や〈戦場で飢えを凌ぐため口にせざるをえないトカゲの食感〉といった細かいディティールがつぶさに書けているのだけど、それ以上に否応なく、軍隊に属する事で人間性を失った或る種の日本人の浅ましさ/醜さが、ドロリとした後味を残すほどに陰鬱。

単に〝民衆を戦争に駆り立てた大日本帝国への怒り〟だけが基幹だったら、こちらも読む意欲が失せてしまうけれども、〈戦時下の人間模様〉と〈探偵小説に必要なフックやサスペンス〉が過不足なくブレンドされているので、戦争というシチュエーションに特化したわりには手堅くリーダビリティのある短篇集になったと言って差し支えない。二段組なのでボリューム感もある。

 

 

 

一説によると、作者のキャリアのうち戦記ミステリの占める割合はそこまで多くもないらしい。生年は1924年(大正13年)。自分から志願して入隊したのか赤紙による強制召集なのかは不明だが、高校を卒業後すぐ兵隊になっており、一概に想像の産物とも思えぬリアリティは実体験から得たものだと考えれば納得がゆく。生き地獄のような戦争が終わったあと、幾つもの職を転々とし、最後の最後に行き着いたのが探偵小説/SF/時代もの問わず、どんなジャンルでもこなす貸本小説作家だったのだろうか。

 

 

 

「屍衛兵」「酸素魚雷」「Uボート」「草原に死す」「消えた兵隊」

「ガ島に死す」「太平洋に陽が沈む」「もずが枯木で鳴いている」

 

 

 

飛び抜けた駄作も無く安定したアベレージの中で、私が好きなのは「Uボート」。日本と共同戦線を張るドイツのUボートが、多島ゆえ複雑な構造を持つ瀬戸内海の来島海峡で沈没した疑いがあり、広島・呉の海軍作戦本部はサルベージ船を派遣するのだが、原因不明のトラブルが続き、調査は難航。古来より伝わる海難伝説を絡めつつ、計画的な犯人の目論みを織り込んでいる点がgood

 

 

同じく海洋ネタで、潜水艇を利用した人非人の所業に誰もが口をつぐむ中、たったひとりの兄を失った弟が秘匿された核心にジリジリ近付いてゆく「太平洋に陽が沈む」も楽しめた。どうも私は朝山蜻一「海底の悪魔」しかり、青黒い海の底に秘められている謎を描いた作品に不思議と惹かれるタチらしい。但し(詳細は書けないけれど)、最終的に謎は暴かれても、主人公の運命には救いのないパターンが本書は多く見られる。戦記ミステリならではの特徴かな。

 

 

 

小説の内容にはとても満足できただけに、「酸素魚雷」の大事なクライマックスで〝鞄(カバン)〟と表記すべき漢字が〝靴(くつ)〟になっていたり、「屍衛兵」の文章では〝栗原大尉が心配そうに訊ねたの、どうしたことか、中尾中尉は、子供が照れたようにはにかむと、慌ててその紙包をポケットに入れた。〟となっていたり、本の前半部分のみに限られるその数は少ないものの、すぐ目に付いてしまうような疑問のテキスト入力箇所が相変わらず見つかって、折角良い本なのになんとも勿体ない事だ。

 

 

 

ミステリ珍本全集『殺人交響曲』に収められていたSFものより、本書に入っている戦記ミステリのほうがずっと読み応えがある。遺した作品のすべてが戦記オンリーではなくとも、ここまで拘って日本が自滅したあの愚かな戦争をモチーフにしている例は探偵小説のカテゴリーでは他に無いし、長篇「戦艦金剛」そして本書を読み、〝このジャンルは蒼社廉三の独壇場だなあ〟と認めずにはいられない特異性が備わっている気がした。

 

 

 

 

(銀) 年明けの13日に、hontoが今春をもって紙の本の扱いを止めてしまうニュースを取り上げた。そのあとhontoを閲覧してみると、『蒼社廉三/軍隊ミステリ集』の発送可能日が【13日】になっている。POD(プリント・オン・デマンド)とはいえ、これなら最低でも一冊分は既に出来上がっている本を在庫している状況の筈。クローズも近いことだし、数年ぶりにhontoで本書を注文してみた。

 

 

そうしたところ、注文日を含む四日後の午前11時過ぎになるまで発送メールが来ず、発送方法はヤマト運輸のネコポスが使用されていたが、荷物の追跡番号がヤマトの追跡サイトにやっと反映したのは、その日のかなり遅い時間。【13日】と表示されていても実は在庫を持ってなくて、イチから製本したのならば仕方ないが、おそらくそうではなかろう。

 

 

在庫のあるものなのにすぐ発送してもらえない点ではプライム登録をしていない場合のAmazonよりも遅い。これではどうしてもユーザーは離れていってしまう。ネットでhontoの評判を調べてみると、数年前にはまだ「発送が遅い」と不満を漏らす意見も寄せられていたようだったが、最近のコメントはひとつも見つからず。もう文句を言う人さえいなくなっていたとしたら寂しい話である。

そしてまた一昨日(2月1日)には、日本郵便がゆうパック/レターパックの速達さえ4月から遅くなると告知している。実店舗の書店が着実に減っている上、追い打ちを掛けるように2024年問題とやらで、あらゆる荷物の輸送が遅くなるようでは、通販であろうとなかろうと本を買う人が今以上にいなくなってゆく悪循環は、もはやどうやっても避けられまい。

 

 

 

   蒼社廉三 関連記事 ■










2020年12月30日水曜日

『殺人交響曲』蒼社廉三

2016年4月3日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

戎光祥出版 ミステリ珍本全集⑪ 日下三蔵(編)
2016年3月発売




★★★★  「戦艦金剛」は初出誌ヴァージョンにて収録




一応の代表作といえる「戦艦金剛」1967年の徳間書店初刊本テキストではない雑誌発表時の原型中篇版を収録してくれたのは嬉しい。誰からも嫌われている軍曹の艦内密室死を描くこの作が一番ズッシリくる。長篇版と中篇版を比べてもキャラとあらすじはほぼ変わっていない。

 

 

既存の蒼社廉三の単行本のうち、(私が)まだ読んだことのなかった「殺人交響曲」は楽譜に纏わる暗号などそのタイトルどおり音楽ミステリ長篇といえようが、(比べる相手が悪いけれど)例えば横溝正史「蝶々殺人事件」ほどに本格調ロジックの組み立ては無く、絡み合った人間模様のスリラーを超えるものではない。

 

 

もうひとつの長篇「紅の殺意」。戦後の黒く汚れた川口工業地帯、こちらも車の轢死を発端に泥臭い刑事達が九州・広島まで謎を追う。以前読んだ時にはもっと面白かった気がしたものだが、あれも古本の魔力だったか。唯一猟奇的な秘密を期待させる「紅い色」狂の意味があまり効いているとは言えず、最後の犯人発覚にはそれなりの意外性はあるとはいえ、レアものを過剰に有難がるオタはまだしも、フラットな感覚の読者には目鼻立ちがボヤけ地味に受け取られるだろう。

 

                    


そして SF短篇 ×4。これがなんと近未来社会で大気が侵され、人間が地下生活を送るというものがあったり、まるで70年代迄の手塚治虫や松本零士が描きそうな作品のイメージが、これまで古書を読んで感じてきた蒼社廉三のそれとは180度真逆で、どうにも違和感がありすぎる。



100以上の短篇を書いていながら、「戦艦金剛」のような戦記ものはその内二割なのだという。いかにも戦後貸本小説に見られる〝何でも屋作家〟の様相だが、最低限の決まった方向性がないと大衆にはわかりづらいし、この一冊を読んだだけで蒼社廉三を前向きに「器用な作家だなア」と受け取る人はあまりいないと思う。

 

                      


ところで私の書いたミステリ珍本全集のAmazonレビューに対して「悪意がある」と言って罵倒ツイートしている日下三蔵の信者がいるようで(どういう人間なのかは twitterの〈キーワード検索〉欄で〝銀髪伯爵〟と検索すればすぐにわかる)。場末のAmazonレビューにいちいち怒って何が得られるのか知らんけど、私は関係者がAmazonに仕込んだサクラなどではないし、身銭を切って本を買い最後までそれを読んで、良かったものは手放しで褒め、そうでないものにはそうでないとストレートに書く。



あれもこれも全て満点にしていたら、レビューとして何の訳にも立たない。新しい(もしくは)若い読者が探偵小説を読んで、良い感想も悪い感想もガンガン出てくるようにならなければ、それこそ馴れ合いという菌で腐りきった汚水溜めと選ぶ所がない。




(銀) 蒼社廉三には多くの短篇があると云うので『探偵雑誌目次総覧』の蒼社廉三の項で「戦艦金剛」以外の小説を数えてみると「屍衛兵」「砂漠地帯」「太平洋に陽が沈む」「もずが枯木で鳴いている」「スターリン・グラード」「Uボート」、これだけしか載っていない。発表誌はいずれも『宝石』『別冊宝石』。彼が小説を沢山書き飛ばしたのはきっと怪しげなマイナー雑誌が断然多いのだろう。


                    


探偵小説本の編集業に尽力している人達と違って、古本を買い占め探偵小説本の古書相場を吊り上げるのが目的の、喜国雅彦に代表される古本ゴロ集団の一人である日下三蔵は以前から信用できなかった。ミステリ珍本全集の仕事にもいぶかしい点があって、それをレビュー上で指摘したまでのこと。



そして長年私が感じてきた日下の胡散臭さがモロに表出したのが(当Blogでも度々触れてきたが当該記事はようやく近日up予定)鮎川哲也『幻の探偵作家を求めて 完全版』。下記にて紹介する日下三蔵信者が「悪意がある」などと言ってくるような指摘をわざわざ私がしなくとも、自分の仕事に対するズサンさを日下自ら見事に立証してみせたのが、不幸にもあの名著だった。


                    


私の罵倒ツイート書いてたのはなんていう奴だったっけ・・・さかえたかしと千野帽子か。本を批判されたというので著者/編者/関係者が怒って私に直接何か言ってくるのであれば、それはまだごくごく自然な反応だが、何の関係も無い只のアホなネット民にとやかく言われる筋合いは無い。どんな放言をしていようが twitter ばかりしている人間にろくなのはいない。




きっと他人に余計な減らず口ばかり叩きつつ、自分はくだらない事でキレる、みたいな毎日を無駄に過ごしてるんだろうなと思って、こいつらの twitterを覗いてみた。案の定、千野帽子は主張がどうの論破がどうのとホザいている。こういう連中は自分というものを最初から持ってないんで、彼らにとっての尊師様・日下三蔵とか著名な誰かの影に群れていないと発言ひとつも出来ないし、顔の見えないネットではなく対面で顔を突き合わせたら急に黙ってしまうような意気地の無いビビリでしかない。



自分では日下と同じような主張をSNS上でしているつもりなんだろうが、千野の云う事にゃ「ホントに見ず知らずの人にすごい言葉の暴力を投げる人っているんだなあと思う」だとさ。自分のしている行為をあたかも他人がしているかのようにひけらかしてるんだな。ちくま文庫で千野に解説を書かれてしまい、世間から「こんな奴が推している作家なのか」と思われて、さぞイメージダウンしたであろう獅子文六が気の毒。