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2024年4月23日火曜日

『スパイは裸で死ぬ』島久平

NEW !

久保書店
1971年3月発売



★★★     人間蒸発株式会社





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チンピラ「やい、ズベ公。てめえは何者だ。」

玉子「しゃべりません。捕虜は所属官姓名を名のれば、あとは黙秘権を認められます。ジュネーブの戦争条約で決められています。」

チンピラ「なにが戦争条約や。捕虜は捕虜や。野郎ども、このアマを裸にムイてまえ」


 


チョビひげ社長「おい、処女探偵、こっちを向け。おまえ、本当に処女か」

玉子「そればっかりは堪忍して・・・・・・」

チョビひげ社長「あかん。おまえかて、どうせ一度は散る花やないか。いさぎよく覚悟さらせ」

玉子「わかりました。覚悟します・・・・おかあちゃん、許して、うちは今夜、尊い処女を失います」

 

 




 

以前の記事(☜)でも触れたように、島久平の作品の多くは関西テイストどっぷりな、品の無いエロと笑いをまぶしたハードボールドやアクションもので占められており、そこに探偵小説的な要素を求めてもしょうがない。この「スパイは裸で死ぬ」は、カマトトぶった口振りで人をおちょくり、七変化の変装術を見せる探偵社員・仁切玉子(〝ニギリ・タマコ〟と読む。この名前が何を意味しているかは、本作を読んで確かめて頂きたい)、そしてドスの利いた殺し屋お伝こと高橋伝子、この二人の美女を中心に物語は展開する。

 

 

 

最初のうちはお伝と玉子、どちらが主役なのかよくわからない。お伝の属する人間蒸発株式会社の東京支社長が暗殺され、外国資本の殺し屋連盟が日本の裏社会を狙っているなど、彼女達の身に降りかかる抗争の実情が見えてくるのは、全体の折り返し地点あたり。激しいカー・アクションがあったり潜水艦まで現れる後半よりも、お下劣な肉弾戦で笑わせる前半のほうが、ワタシ的には面白い。

 

 

 

フィクションの世界にまで各種ハラスメントやポリコレを掲げて「あれもダメ、これもダメ」とほざく現代の偽善者どもを嘲笑うかのような、昭和のやさぐれ感が爽快やねえ。この種の島久平の作品は、間違っても大手出版社から復刊されることはあるまい。本日の記事の最上段に取り上げたセリフのような、ヨゴレな趣きのエロと笑いを普通に表現できていた時代のほうが、ずっと風通しがよくて健全だったわ。 

とは言っても、毎日こういう小説ばっかり読まされた日には、すぐ厭きてしまうのも事実。たまに読むのが新鮮でイイ。

 

 

 

 

(銀) こうした島久平の作品を読んでいると、ある意味では小林信彦「唐獅子株式会社」シリーズの先駆と考えられなくもない。もちろん小林は関西人ではなく、彼の小説における関西弁は稲葉明雄らによって入念にレクチャーされたものだ。コテコテのファンキー度は根っからの関西人・島久平に及ぶべくもないし、また、ここまでお下劣な小説を書く度胸(?)を小林は持ち合わせてはいまい。







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2023年7月17日月曜日

『人魚の舌』島久平

NEW !

復刻叢書1
2012年5月発売



★★★★   コテコテな関西人の血

 

 

戸田和光による島久平作品を収めた自費出版本の一冊目『人魚の舌』が刊行されてから、もう十年が過ぎたのか。島久平だけで二十二冊の本が制作されたとはいえ、出回ったのはごく限られた部数だろうし、書名だけでもここに列記しておきたい。たしか送料込みで、一冊あたり1,100円だったと記憶する。



①『人魚の舌』②『死にます』③『金銀捕物帳』④『死神館の恐怖』⑤『見えない女』

⑥『泣いて笑って、殺せ!』⑦『怪犯人赤マント』⑧『任侠一本刀』

⑨『女はナメろ、男はバラせ!』⑩『春画地獄』⑪『日曜は待てない』⑫『もしもし探偵』

⑬『殺人婦賦』⑭『白龍姫』⑮『立て立て、這え這え』⑯『お先へごめん』⑰『無の犯罪』

⑱『不義密通組合』⑲『俺は殺されんぞ』⑳『マンマ、マンマ』㉑『忍法フ棒一』

㉒『H・H・H』

 

 

中島河太郎は『日本推理小説辞典』の島久平の項で、「作者は根っからの本格派であり、同時にコミカルな文体を得意としたので、次第にその双方がからまった作風へ転じた」と述べている。

戦後の日本探偵小説界は江戸川乱歩の本格嗜好派と木々高太郎の文学嗜好派が対峙し、島は前者に属していた。だからといって彼の作品の多くが本格ものかといえば全然違う。『島久平名作選 514』(河出文庫)に入っている短篇は本格の手順を踏んでおり、長篇「硝子の家」「密室の妻」もシリアスなタッチで楽しめるけれど、その手のものは島のキャリアのほんの一部でしかない。改めてそれを我々に気付かせてくれるのが上記の二十二冊なのかも。

 

 

いつもの事で、ミステリ識者がそれまであまり注目されていなかった日本の本格風作品にスポットを当てると、その作家の旧い著書を(本格ものでもなんでもないようなものまで)手当り次第に貪る現象が起こり、古書価が高騰する(諸悪の根源はミステリ専門古書店の値付けにあるともいえるが)。島久平もそんな悪しき風潮によって一部の人々に持ち上げられてきた。例えば生前の著書『女にホレるな』『スパイは裸で死ぬ』『そのとき一発!』『ダブルで二発!』、どれを読んだところで(言っちゃあ悪いが)真面目に論じるような内容ではない。

 

 

斯様な風潮に毒されていた人からすれば、戸田和光が刊行した一連の島久平復刻叢書はさぞガックシきただろうな。だって彼らの求めるバキバキの本格ものはどこにも見当たらないのだから。戸田はシンプルに、島久平単行本未収録作品を纏めたい一心で、この叢書を手掛けたのだろうと私は想像する。上記の二十二冊を順番に読んでいくと、初出媒体の泥臭いカラーに左右された作品→下世話なエロ・スリラー/時代小説/ジュヴナイルなどがゴッタ煮状態になっていて、ひたすら猥雑なエネルギーが溢れているばかり。

 

 

本書に収められた「人魚の舌」は昭和27大阪の『国際新聞』に連載された、ハードボイルド系に属する短めの長篇。傾向として、ハードボイルドものは上記二十二冊の中に頻繁に出てくる。島本人は当初本格っぽさも持たせたかったようだが、トリッキーな伏線が最後になってしっかり回収されるようなプロットは日々の連載ではなかなか難しかったらしくて、ありきたりな出来に終わっている。

島久平作品を色々読んでみて、この人にカッチリした構成の小説を求めるのは間違いなんじゃないの?と割り切ってしまうのは私だけかな。心に残るのは各作品の方向性以上に、関西人特有のガヤガヤした感じとでもいおうか・・・・たとえ登場人物が関西弁を喋ってない作品でもそんな空気が伝わってくるし。

その他、「前の席にいるやつはだれだ?」と「陰謀屋X」の二篇を併録。

 

 

どう贔屓目に見ても高評価できる内容ではないが、島久平作品は聞き馴染みの無い関西の媒体に発表されているものが多く、それらのマイナーな初出誌をよく見つけ出したものだな、と感心。この叢書は背の部分に書名と作家名が印刷されてなくて、本棚から見つけ出す際にやや不便ではあるけれど、どこぞの連中と違って価格は良心的。☆4つは作品ではなく編者・戸田和光の仕事に対して。




(銀) 商業出版では『島久平名作選 5-1=4』が出たっきり、論創ミステリ叢書でもミステリ珍本全集でも何ひとつ島の本はリリースされていない。「知っているのは死体だけ」あたりは復刊されるかなと見ていたがそれもなし。今後島久平の現行本がもし出たとしても、内容の出来を鑑みると、上記二十二冊の島久平本の中からセレクトされる作品はほぼ無さそうな気がする。