以前から気になっていた「ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション」。第二回配本は私の好みにあってそうな二作を収録していたので買ってみた。
まずは「カルパチアの城」。物語の骨子は単純、悪霊が住むという古城、既に死んだと思われていた男爵と歌姫の幻影がトランシルヴァニアの地を脅かす怪奇ゴシック譚。迷信と科学、跳梁跋扈する不可解な現象にトリックは存在するのか? ここには古典探偵小説に通底する探偵趣味もあり、レオン・ブネットによる当時のノーブルな沢山の挿絵がグッと読書の気分を盛り上げる。
続いて「ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密」。なんとウェルズの向こうを張ったヴェルヌ版Invisible Man。しかもこの作は息子のミシェル・ヴェルヌが改稿したヴァージョンが長い間流通していたらしく、本邦初訳で父ジュール・ヴェルヌのオリジナル・ヴァージョンを収めたとの事。
愛か占有かは読んで判断してもらうとして、ヒロインを巡る二人の男という設定など本書の二作は幾つかの共通項がある。姿が見えないのは悪の主役だけではない。どう決着がつくのか、特に後半は息もつかせず読み進めたが、この結末は・・・・??
註釈や作品背景など丁寧にフォローされているし装幀・造本も立派なのはよくわかるけど、最近の刷り部数の少なそうなハードカバー本によくある価格とはいえ、平気で5,000円近くもするのにはなかなか厳しいものを感じた。
というのは、最初帯を見て「美しきヴォーカロイド」などと煽り文句が書いてあったので嫌な予感はしていたのだが、いくらヴェルヌに現代的意義を見出したいとはいえ、解説やあとがきに初音ミクとか AKBを強引に持ち出してくるのってどうなのか?小説そのものは堪能できたのに訳者あとがきの無理くりな視点でこちらのテンションも急降下。「ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション」の他の巻もこの調子なのかね?訳者と解説者の場違いな論述さえ無ければ、こんな違和感を抱いたり価格設定にまで小さな疑問を持つこともなかったんだが。
昔のSFや探偵小説を再び世に出す新刊本の装幀に萌え絵・マンガ絵・アニメ絵をねじこんだり、どうして日本人ってクラシックな作品に全くそぐわない素材を押しつけないと気がすまないのかねぇ? 探偵小説好きの世界にもイタいオタクは多いけど、SF方面も(わかっちゃいたけど)まったく一緒だわ。
(銀) おなじみ、Amazon.co.jpレビューあるあるパターン。今回は否定的なレビューで痛い所を突かれると慌てて絶賛レビューを投稿してくるという、誰が見てもバレバレな〝サクラ〟をご紹介。
本書が発売されてわりとすぐ、★2つで私は上記のレビューを Amazonに投稿したのだが(当Blogに掲載したので現在はAmazonから削除済み)、その二日後には「音楽中心のレビュアーの方の、個人的な感想だけで二つ星【(銀)註:私のこと 】というのはさすがにバランスが悪いので、本書のいいところを書いておきます」というYAMANE なるレビュワーによる本書大絶賛レビューが押っ取り刀で投稿。
レビューなんて私に限らず誰が書こうが個人的な感想でしかないのだけれども、こちらの方は「自分の発言こそ、個人的感想なんぞのレベルよりもはるかに正しい」てな事をおっしゃりたいらしい。
調べてみたら石橋正孝/新島進の二名とも、日本ジュール・ヴェルヌ研究会で先頭に立ってヴェルヌの研究に励んでおられるようで、今回取り上げた「ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション」だけでなく、日本ジュール・ヴェルヌ研究会の会誌『Excelsior !』しかり、国内で出ているヴェルヌ関係の書籍に何かしら彼らの名が見受けられる。