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2023年3月21日火曜日

『闇に浮かぶ顔』伊東鍈太郎

NEW !

東都我刊我書房
2023年3月発売




    最早こいつらに本の制作・販売をさせてはならない




 いまだに自らを何ら省みる事もせず【校正無視】【校閲無視】のゴミ本をあつかましく売り続けている善渡爾宗衛/杉山淳/小野塚力。今度は翻訳者として知られる伊東鍈太郎の創作短篇集を出してきた。

 

「怪盗青環組」「闇に浮かぶ顔」「撮影所に来た死人」「死の舞踏」

 

収録された四篇とも昭和32年の雑誌『オール読物』に発表されたものらしいが、ミステリというよりドンパチ系のアクション犯罪小説でしかなく内容について取り上げるべき点は無い。せめて本書のテキストがごく普通に入力されているのならこちらも少しは良いところを探しもするが、盛林堂書房とズブズブのレーベル東都我刊我書房だからいつもどおり誤字脱字のオンパレード。本文レイアウトには後藤浩久とクレジットあり。

 

 

☽ 四篇全てにあるテキストの変な箇所をすべて拾うのもアホらしい。冒頭の「怪盗青環組」に発見される【校正無視】【校閲無視】な箇所のみを御覧に入れる。お断りしておくが下記に示すガタガタの日本語は全体でこれだけなのではなくて、たった一短篇の中にこれだけの誤字脱字が存在しているのだ。もちろん他にも、著者ではなく本書の制作者がやらかしたと思しき妙な送り仮名が満載で、まともに読める代物ではないのもいつもどおり。(下線は私=銀髪伯爵による)

 

8ページ10行目

アザのようなを認めた。       (✕)

アザのようなものを認めた。    (○)

 

9ページ11行目

が手足をキリッとしばられ  (✕)

夜警が手足をキリッとしばられ   (○)

 

14ページ6行目

昨日へ大型トランクをもった男が   

昨日ここへ大型トランクをもった男が   

 

18ページ3行目

これは女のかられる仕事ではありません  (

これは女のかかわれる仕事ではありません  

 

19ページ6行目

若い男女はちょっと意味ありげな絆をかわしながら

(意味わからん)

 

19ページ7行目

垂花模様の分厚いカーテンしに  (

垂花模様の分厚いカーテンごしに    

 

23ページ3行目

たゞさえ畸型な顔が  

たゞでさえ畸型な顔が   (

 

25ページ5行目

取とめがなかった。

(〝取留め〟とするかもしくは〝とりとめ〟だろ)

 

26ページ8行目

賀氏は二度よみかえしてから、  

甲賀氏は二度よみかえしてから、  (

 

27ページ17行目

しかし、数ヶ月来      

しかし、ここ数ヶ月来 (

 

28ページ16行目

甲賀氏主人もぱっと床に身をふせて       

甲賀氏も老主人もぱっと床に身をふせて (○)

 

40ページ4行目

鼻のつぶれた男が    

鼻のつぶれた男が   (○)

 

41ページ2行目

裁判長のように裁とうとしている    

裁判長のように裁こうとしている  (○)

 

42ページ7行目

これは何というこだろう!    

これは何ということだろう! (○)

 

というクソみたいな東都我刊我書房のテキスト入力ですわ。しかも、表紙の著者名は伊東鍈太郎としているのに奥付では伊藤鍈太郎になっている。善渡爾宗衛は巻末で〝伊藤鍈太郎(一九○一~一九六三)は、ペンネームに、伊藤鍈太郎、伊東鍈太郎、道本清一郎などがある。本名を、道本清一という。〟と書いている。病弱と孤独感により伊東鋭太郎が入水自殺した記事を紹介している藤元直樹の「伊東鍈太郎の死」という研究ブログを読むと善渡爾宗衛の上記の記述は間違いではなさそうだが、伊藤の筆名を使っていたのはキャリアの始めの頃であり、本書の奥付へ表紙とは異なる伊藤鍈太郎とクレジットするのはおかしいのではないか?

 

 

☽ なにより納得がゆかないのは200ページ弱でカバーも付いていない本の価格がなんで6,000円もするのか?それと少し前から気になっていたのだが東都我刊我書房の本には印刷会社がどこなのかが奥付に明記されていないのもかなり怪しい。試しにあなたのお手元にある他のミステリ関係の同人出版本を見て頂きたい。『Carr Graphic vol.1 Down of Miracles』等を出している森咲郭公鳥/森脇晃の本しかりヒラヤマ探偵文庫しかり、その本がどの印刷会社でプリントされたかクレジットされているのがごく当り前というもの。なのに善渡爾宗衛らの本にはそれが無いということは・・・。

 

 

ここまで校正・校閲を無視して更にぼったくり価格の上、印刷会社を明らかにしないというのは実際に発生している製本コストがバレてしまうと、彼らにとって都合の悪い理由があるからじゃないのか?これだけの悪行三昧な本に対し嬉々として何の疑いを持たない連中、加えてこんな本の販売に加担している連中も彼らと同罪だと考えざるをえない。

 

 

 

(銀) 島田龍氏の名前を断りもなく自分達の本の協力者に使用したり、あげくには左川ちかの本を出版しようとした島田氏を恫喝したり、善渡爾宗衛/杉山淳/小野塚力らの存在は文学チューチュー〈注〉と呼ぶのがふさわしい。次回の記事もこいつらの悪事について述べる予定。

 

 

〈注〉 少女の自立支援という名目を隠れ蓑にして一般社団法人Colaboが日本の公金を不当に搾取している事実を、暇空茜が「公金チューチュー」と名付けた事に倣った言葉。





2022年3月24日木曜日

『聖フオリアン寺院の首吊男』ジョルジュ・シメノン/伊東鋭太郎(訳)

NEW !

春秋社 シメノン傑作集
1937年5月発売



★★★  これに比べると乱歩の「幽鬼の塔」はよく書けている




伊東鋭太郎の翻訳による春秋社版がこの作品の日本で最も旧い訳書の筈。シムノンに触発されたか、江戸川乱歩は19394月より雑誌『日の出』にて「幽鬼の塔」の連載を開始した。世間では十把一絡げに「幽鬼の塔」はシムノンの翻案だと軽く扱っているが、実際両方の作品を読み比べてみると、著作権的な検証はさておき乱歩が自作に活かしたのは〝ある一部分〟であって、筋をまるごと頂戴した訳ではないんだなとわかる(勿論「幽鬼の塔」を先に読み、慣れ親しんできたせいもあるのだけど)。

光文社文庫版・江戸川乱歩全集第十三巻『地獄の道化師』に収録された「幽鬼の塔」を開けば、乱歩自身〝セントラル・アイディヤを借りているが翻案というほど原作に近い筋ではないので、シムノンに断ることはしなかった。〟と自作解説で述べているのが確認できよう。


【当Blog上のラベル(タグ)管理は、一般的に呼ばれている〝ジョルジュ・シムノン〟の発音で登録するが、この記事に限っては本書中で使われている〝シメノン〟あるいは〝メーグレ警部〟表記を用いて進めさせてもらう。】

 

                    

 

主人公が不審な人物の鞄をすり替えることで事件は動き出す。メーグレ警部が鞄すり替えをやっちゃうのは、上記で紹介した光文社文庫版乱歩全集第十三巻『地獄の道化師』の解説で山前譲も指摘しているとおり、公人の行動としてはどうも不自然。これならば乱歩が設定した猟奇趣味を持つ素人青年探偵・河津三郎のほうがずっと適している。また、その他の登場人物たちも「幽鬼の塔」のほうが気狂いじみていて何をしでかすかわからないアブナさに満ちているが、「聖フオリアン寺院」の登場人物にはアタマがプッツン切れていそうな火薬の匂いがしない。

 

 

 

「幽鬼の塔」での名場面のひとつ、鉄橋を走る汽車から河津三郎(甲賀三郎と言い間違えそうな名前だ)が突き落とされてしまうシーンと比べてみよう。本書でのメーグレは不意を突かれて水力発電の為に築かれた堰堤へと落とされそうになる。しかし伊東鋭太郎訳で読むと水門から堰堤へ流れ込む渦巻がどれほど激しいものなのか読者にはあまり伝わらなくて、メーグレの身の危険がちっとも感じられん。

また、「幽鬼の塔」の犯罪の動機は美しいミューズの死から来ているのだけど、原作で描かれる動機とかインテリを気取った男達の秘密結社グループがシェアしている思想は読み手にもう少しイメージしやすくしたほうが共感度(?)はアップしただろうな。本書の中でメーグレに目を付けられて身辺を嗅ぎ回られるのは、この面々である。

 

ルイ・ジュネエ ➤ 機械工(物語の冒頭、口中をピストルで撃ち抜き自殺)

ヨゼフ・ヴァン・ダアム ➤ 貿易商

モーリス・ベロアール ➤ 銀行監査役

ジェフ・ロンバール ➤ 石版商

ガストン・ジアナン ➤ 彫刻家 


                     

 


「聖フオリアン寺院の首吊男」は近年新しい訳書が出ていなくて、読むとすれば古書に頼らざるをえない。あまり良い訳とはいえない伊東鋭太郎の春秋社版を最初に読む人はまずいないだろうから大丈夫とは思うけど、もし原作を読むなら戦後の訳書を探して読まないとダメよ。はじめは本日の記事に水谷準訳を使うつもりだったが、どこへ行っちゃったかライブラリーで発見できず戦前の伊東訳を用いた。

 

 

 

(銀) 後出しのハンデがあるから比べちゃシムノンが可哀想だけど、日本人からすると乱歩作の「幽鬼の塔」のほうがずっと面白い。本当ならなるべくオリジナル・アイディア100%濃縮のほうが望ましいのだが、乱歩には他の日本人探偵作家にない語り口と演出の魅力があるからね。伊東鋭太郎訳は粗いので☆☆☆、「幽鬼の塔」は☆☆☆☆☆を進呈してもいい。



「幽鬼の塔」は世相の悪化で隠棲する直前の発表だから、乱歩の通俗長篇としてはこれまであまり顧みられない作品だった。大仰な仕掛けが無いぶんトリッキーな楽しみは望めないかもしれないが、明智小五郎の登場する通俗長篇のような矛盾が気にならず纏まり良く読める点は(「吸血鬼」なんかよりずっとよく出来てるし)もっと評価されてもいいのに。



乱歩の翻案ものでも鬼」はさすがに覇気が感じられないけれど「白髪鬼」「幽鬼の塔」そして「三角館の恐怖」は決して悪くないと思うのは小生だけか。なんか話がシムノンよりも乱歩中心になっちゃった。