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雷雨になりそうな長閑な村のバザー会場。劇作家リチャード・ディック・マーカムは犯罪学の権威で、あのギデオン・フェル博士とも懇意らしいハーヴェイ・ギルマン卿なる男に「君のフィアンセのレスリー・グラントは過去に三人の男を葬った毒殺魔だ」とショッキングなことを言われて動揺する。
ディックには元カノのシンシア・ドルーという女性がいて、面倒な三角関係にも悩まされるので、てっきり恋人二択問題で突き進むのかと思いきや、終盤、真犯人の発覚は意外や意外の展開に。多くを書けないが、ひとりの人間(普通の成人からかなり身長の小さな子供まで)が出入りできない状態であれば、それはパーフェクトな密室と呼べるのかといえば、そうとばかりも言えないのが本作のポイント。
あと私の気になった点、その一。謎の根幹に直結するものではないが、第二次大戦中のイギリスの村では日が暮れてから家庭で電気を点灯するため、コインをいちいち投入しているのが現代人からすると面白い風習だ。
その二、こちらはもっと重要な疑問。フェル博士とハドリー警視がディックにハーヴェイ卿の死を発見した流れを尋問するシーンでの、ディックの発言をよ~く読んでみて頂きたい(本書ではそれが何ページにあたるのか、ここでは書かないでおく)。たとえ事件発生が早朝未明だったとしても、ディックが弾丸の飛んだ光景を述べる証言はフェル博士の推理を導き出すのにいささかアンフェア気味ではないかしらん?
それと郵便局で殺害される、ある人物はとんだ〝とばっちり〟を受けてなんともお気の毒。
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とまれ本作は『皇帝のかぎ煙草入れ』『貴婦人として死す』に次いで書かれたもので、大袈裟でおどろおどろしい舞台を設定せずプロット+トリックで勝負しており、原文自体がそうなのか、仁賀克雄の翻訳が上手かったのか、読みにくかったり訳者の日本語の選び方がトンチンカンな事は無くて、メイントリックの隠し方だけでなく文章的にもGood。
カー信者は本作を超A級とまで評価してはいないようだが、カー本人の評価は高く、十分A級と呼べる一品。
(銀) 本書は「世界探偵小説全集」シリーズの中の一冊であり、同じ国書刊行会の「探偵クラブ」シリーズもそうだけど、内容は素晴らしいのに今でも在庫の残部があるというのは若干価格が高めだからかな。
でも海外ものを扱う前者は各巻に月報まで付けて全45巻も出したのに対し、後者は全15巻と1/3の量にしか満たない。時々知りたくなるのだが、日本の出版界では海外ものと日本もの、どちらの探偵小説の書籍が売れてるのだろう?上記の例だけざっくり見れば、海外もののほうが需要が多いように思えるけれど。