2021年11月18日木曜日

『怪談/獨逸篇』小松太郎/菅藤高德(訳)

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先進社 世界怪談叢書
1931年3月発売



★★★★    函の下から見つめている黒猫の目




戦前の西洋怪談翻訳アンソロジーで、次の五作品を収録している。


 

 「笑ふ猶太人」

ハンス・ハインツ・エーヴエルス/作   小松太郎/譯

 

 「トフアルの花嫁」

ハンス・ハインツ・エーヴエルス/作   小松太郎/譯

 

 「蜘 蛛」

ハンス・ハインツ・エーヴエルス/作   菅藤高德/譯

 

 「標 本」

グスタアフ・マイリング/作       小松太郎/譯

 

 「月夜狂」(原題 世襲領)

エ・テ・ア・ホツフマン/作       菅藤高德/譯

 

 

「笑ふ猶太人」はエンディングの見せ方にそれほど強いインパクトが無かったり、「月夜狂」は中篇並みにページ数がたっぷりあるわりには最も短い「標本」より退屈だったり、内容として全ての作品が優れている訳ではないと私は思うのだが、好事家の間ではクラシックな怪談本の名著とされていて、その理由は装幀にあり。

 

 

左上の書影をクリックしてもらって、どの位わかってもらえるか定かではないが、ハードカヴァーの本体オモテ表紙と全く同じように函のオモテにも黒猫の姿があしらわれ、函における猫の目の部分はその形のままにくり抜かれているので、本体を函に入れた時に本体表紙の猫の金色の目がギョロリと目立つような、なんとも洒落たデザインに仕上がっているのだ。挿絵と装幀担当者のクレジットは三岸好太郎。本書は〈世界怪談叢書〉の第一弾として刊行され、あと『英米篇』『仏蘭西篇』がある。

 

 

 

このアンソロジーの内容とは関係のない話だが、巻末に載っている先進社発行図書目録についても触れておこう。先進社というのは短い間しか実働しておらず、「先進社大衆文庫」というシリーズから出された江戸川乱歩『名探偵明智小五郎』と甲賀三郎『神木の空洞』の古書を、ちゃんとカヴァーが付いている状態で見つけるのはほぼ絶望的といえるほど残存数は少ない。

そんな「先進社大衆文庫」の紙型を数年後に福洋社という名の会社が流用、本来カヴァー付きの文庫だったものを外装/装幀を全く無視し、函入りハードカヴァー本として再発している。そのいかがわしい福洋社版までもが、上記の二冊は数万もの値で取引されているのだから困ったものだ。

 

 

のちのち誰かの役に立つかもしれないし、本書巻末に載っている「先進社大衆文庫」のリストをここに書いておく。実際、全ての本が刊行されたかどうかまでは調べていない。探偵小説関係は上に述べたとおり、乱歩と甲賀だけ。

 

1『かげらふ噺』        大佛次郎

2『女來也』            吉川英治

3『淸川八郎(上巻)』          三上於菟吉

4『刃影走馬燈』          佐々木味津三

5『名探偵明智小五郎』          江戸川乱歩

 

6『神木の空洞』                    甲賀三郎

7『獄門首土藏』             行友李友

8『生死卍巴』            国枝史郎

9『遊侠男一代』                     林 和

10『荒木又右衞門』           直木三十五

 

11『旅鳥國定忠治』            土師清二

12『淸川八郎(下巻)』         三上於菟吉

 

 

 

(銀) 先進社〈世界怪談叢書〉については、2020912日の当Blog記事で取り上げた『怪樹の腕~〈ウィアード・テールズ〉戦前邦訳傑作選』でも紹介されている。