2020年11月2日月曜日

『横溝正史自選集3/八つ墓村』横溝正史

2012年11月23日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

出版芸術社
2007年3月発売




★★★★★  2000年以降流通している『八つ墓村』のうち
       唯一正しいテキストの本は相変わらずコレだけ




意外に思われるかもしれないが、横溝正史没後『八つ墓村』を販売してきた出版社は角川のみ。だがその独占状態にかこつけて、テキストは改悪された状態のまま、現行の文庫に至っている。それに危機感を抱いたからかどうかは判らないが、2007年に出版芸術社が出したベスト・オブ・横溝ともいうべきこの『横溝正史自選集』は本来あるべき正しいテキスト校訂がなされている。

 

 


では角川版の『八つ墓村』は何が改竄されているのか?ごく一部だが記そう。角川ブームの真っ只中で流通していた黒背(緑304)あたり迄はまだマシなのだが、1996年豊川悦司主演映画「八つ墓村」公開時に出た単行本からテキスト改悪が明白になる。例えば、


本書57頁上段4行目「どん百姓扱いに」(○)  角川「馬鹿に」(×)

本書131頁下段21行目「醜い兎口」(○)  角川「兎口」(×)

本書281頁下段1行目「犬殺し棒」(○)  角川「棍棒」(×)


更に、正しい各章の見出しは本書のとおり「発端」「尋ね人」「無気味な警告」・・・と続いてゆくのだが角川は編集部が勝手に章立てを捏造し「発端」「第一章 尋ね人」・・・としてしまっている。他にも細かい改竄はあるのだが、長くなるのでこれだけにしておく。

 

 

言葉狩りもそうだが、わざわざ章立てを改竄する理由が全くわからない。そしてこの状態のまま現行角川文庫は解説さえもない。明らかにケアレスミスではなく恣意的な改悪。角川書店版は全く信頼性のないテキストなのだ。だから『八つ墓村』を、いや横溝正史を初めて読む方は角川文庫を買ってはいけない。欠陥商品なのだから。

 

 

愛蔵本である本書には正史のポートレート頁や解説、遺族(亮一・宜子・瑠美の御三方)による語り下ろし座談、『八つ墓村』について正史が語るエッセイが附録資料として掲載されている。1951年の単行本化以来削除されてしまっていた箇所も初めて復元された。「危機を孕んで」〜「狐の穴にて」あたり(例えば本書251頁付近)を過去の『八つ墓村』本と比べてみるとよい。

 

 

映画・ドラマしか知らないという不幸な方にも是非本書で「八つ墓村」を読んでほしい。映像ではいつも削除されてしまうが、原作ではヒロインの一人として里村典子が活躍し、主人公・田治見辰弥と森美也子は鍾乳洞の中で乳繰りあったりなどしない。上記のテキスト比較に関し、創元推理倶楽部秋田分科会及び掛谷治一郎氏の研究結果を参考にさせて頂いた。深く御礼を申し上げたい。




(銀) Amazon.co.jp上の横溝正史アイテムに関するレビューにて「あそこがおかしい、ここは間違っている」てな具合に、自分がマニアなのをアピールしている阿久津なる投稿者がいる。

正史について私の書いたレビューの存在がよほど目障りな様子で、毎回私がなにか投稿すると、ニューリリース・アイテムでもないのに後からストーカーのようにせっせと投稿して、あれこれ書いていらっしゃる。いつも何がしかの否定をすることで頭がいっぱいなのに、本書のレビューでは「誤植が多いだの、語句の書き換えが多いなどという偏屈なマニアの枝葉末節にこだわった、たわごとは参考意見にとどめるべきである」とあって大笑いしてしまった。私以上にこの人物のほうが、よっぽど他のレビューで枝葉末節なことを書き散らかしているようにしか見えないけれど。



Amazonにレビューを投稿する輩なんて、所詮この程度の人間しかいないんですよ。日本でAmazonがスタートしてから最初の頃はまだ(私は本/音楽/映像商品などの分野しか覚えていないが)役に立つ感想を書くちゃんとした人がいたものだが、2010年を過ぎたあたりから、真っ当なレビューを書いていた人一様に誰も皆投稿しなくなっていった。時間や労力のムダだと見限ったのだろう。人様の役に立ったかどうかはわからないが、かつては自分も投稿する側の立場だったからよくわかる。