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2023年6月17日土曜日

『肌色の街』森田雄蔵

NEW !

光風社書店
1970年10月発売



     陥  穽

 

 

テキストの入力がムチャクチャな同人出版の新刊を毎回買って喜んでいるアホ丸出しの自称ミステリ・オタよりまだいくらかマシな例ですが・・・。

どんな内容か知りもしない古書を見つけたはいいけれど、自分の脳センサーが「こりゃ買ってもヤバイぞ」と伝えていて、それなら大人しくやめておけばいいのに、ミステリっぽいワードが散見されるから、ついつい欲が勝って購入。いざ読んだらとんだ落し穴に嵌まっていた・・・そんなオマヌケ話を一席。



『あたしが殺したのです』の時は森田雄三、本書『肌色の街』は森田雄蔵として発表。ちなみに生前の彼は日本推理作家協会メンバーでもあった。

 

 

何年前だったか失念してしまったが、古書店に立ち寄った際、たまたま出くわしたこの本。一応『あたしが殺したのです』を書いた人の作品だし、なんとなく手に取ってみた(その時の光景はなぜかしっかり覚えている)。目次を開けば「ああ麝香臭の女よ」「火葬場はデラックス」とあって、長篇だけどシリアスな内容じゃないのは確か。文章にしても〝キマリというのは、お泊りのことです。身体を張って獲得した代償の金額を意味します。〟などと書かれておりコレジャナイ感がプンプン漂ってくる。だが生憎その日は他に買いたい本が全然見つからず・・・。

 

 

しつこくページをめくってゆくと〝自殺か他殺か判らない〟〝蝶々とボクの肉体関係は誰も知らないはず〟〝推理の根底となる証拠〟〝開けっぴろげの家だから、密室ではないと設定もしがたい〟〝染香には、蝶々を殺害する動機がないものでしょうか〟そんな断片が目に飛び込んでくるではないか。これはもしかして艶笑ミステリなのか?島久平や宮本幹也にだってその手の作品がある・・・とりあえず買って読んでみるか。そんな思いが脳センサーの警告を遮ってしまって、結局レジに持ってゆき会計を済ませた私だった。

 

 

さて、後日この本を読んでみると・・・人のいい料亭の男主人が禁を破って身近な芸者と懇ろになってしまうも、その女がガス中毒で死んでしまい、自殺か他殺か謎めく要素こそ終盤まで引っ張るわりには、なんてこたぁない全編のんびりとした只の花柳小説。森田雄蔵は雑誌『愛苑』に「現代 芸妓風俗史」なんて連載もしていて、そっち方面のほうが御執心だったのか。だったら〝推理〟とか〝探偵〟とか〝密室〟なんてワードを無闇に使わんといてほしいわ。

下町風情豊かな芸者の世界だったり、ちっとも煽情的でない明朗ミステリが好きな人なら楽しめるかもしれませんが、私にとっては風俗ミステリと受け取ることもできず、稀に見る大ハズレでありました。その日の収穫が何も無いからといって、自分に必要の無い本をセコく買ってしまうのは品性あるオトナのする事ではありませんね。

 

 

 

(銀) 巻末に載っている(本書の版元)光風社書店広告ページには川上宗薫の著書がズラリ。要するにそういう事なのだろう。もっともその後には柴田錬三郎/中田耕治/高橋泰邦らの本も載っているが。 

 

 

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『あたしが殺したのです』森田雄三  ★  比類なきつまらなさ  (☜)






2023年2月18日土曜日

『あたしが殺したのです』森田雄三

NEW !

河出書房新社
1961年7月発売



     比類なきつまらなさ
   



❦ 直木賞受賞作家である木々高太郎が昭和38年に立ち上げた同人文芸誌『小説と詩と評論』。その主宰を木々より引き継いたのが森田雄三。木々が明治30年生まれで森田は明治43年生まれ。大阪圭吉より二つ年上の世代になる。世間では〝森田雄蔵〟名義で通っているみたいだが、今回取り上げる『あたしが殺したのです』のクレジットは〝森田雄三〟なので、当Blog内でのラベル(=タグ)は〝雄三〟表記で扱おうと思う。




『小説と詩と評論』ってガチで芥川賞や直木賞を欲しいと思っている人間が集まる場じゃなかったっけ。森田の立場も、言うなれば〈ゲージュツ性〉を重んじる文学派である筈。そのわりにはこの長篇、ストーリーにヤマが無いし、単にヘンテコな小説でしかないじゃん。若い頃は『新青年』を愛読していた森田からすれば、好機到来とみて変格ものに取り組んだつもりだったのかもしれないが、結論から先に言えばここまでどうしようもないイカモノにはなかなかお目にかかれない。そんなレベルの珍作奇作怪作、つまるところ駄作。この人の文章、上手いと思えないのも問題だし。

 

 

 

❦ 内容に触れる前に、この画像をクリックして見て頂きたい。

本書の目次ページなのだが、ひとつひとつの小見出しが奇妙に長く、読む前から「何これ?」感を発し、読者をとまどわせる。 

 

K坂病院。院内はドロドロした人間関係が裏で渦巻いているらしい。主役といっていいであろう婦長は深夜、ある状況下になったら豊かな髪を振り乱しピンクのネグリジェを脱ぎ捨て、死臭漂う霊安室で一種のトランス状態に陥る。江戸川乱歩作品なら〝一寸法師〟と表現されそうな小男の雑役夫・無名瀬茂呂(むなせもろ)には、指先のテクニックをもって(まるで乱歩の「盲獣」のように)婦長をトロけさせる愉しみがある。この小男が次々とけしからん行為だったり残忍な殺人淫楽にふけるのかと思いきや、怪しのアイコンはむしろ婦長のほうだったりして・・・。

 

 

 

❦ 猟奇的だろうがエログロだろうがサドマゾだろうが、小説は面白ければ素材は何でもいい。とにかくこれはちっとも面白くない。ネタバレに気をつかう必要もないんだろうけど、タイトルにリンクしてくるキャラクター背景は現代の大手出版社ならきっとビビるに違いないし、(度が過ぎる)ポリティカル・コレクトネスに必ずひっかかりそうな匂いがする。乱歩が本作の推薦文を書いているのは北川千代三『H大佐夫人』の例もあるからまだわかるとして、宇野浩二までもがどうして宣伝に協力したんだろう?どんなにヘンタイ度が濃くとも、せめて木々高太郎の代表作「睡り人形」みたいな普遍性(?)が欲しい。

 

 

 

(銀) これだったら栗田信「醗酵人間」のほうがまだリーダビリティがある。私は森田雄三という人について詳しくないので、彼がなぜこんな小説を書いたのか、どなたか御存知の方は教えてもらえませんか?