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2023年2月28日火曜日

『別冊太陽/江戸川乱歩/日本探偵小説の父』

NEW !

平凡社 戸川安宣(監修)
2023年3月発売




     旧乱歩邸土蔵=幻影城なんて妄言を
             発している者がまだいるとは




 江戸川乱歩をフィーチャーした平凡社のムック本は過去にもあり、95年には『別冊太陽』で「乱歩の時代―昭和エロ・グロ・ナンセンス」と題した一冊を制作しているし、翌96年『太陽』6月号でも江戸川乱歩の特集をやっている。前者は乱歩を含む『新青年』黄金時代のカルチャーに焦点を絞った作り。今月発売された『別冊太陽/江戸川乱歩/日本探偵小説の父』は作家乱歩をトータルに俯瞰した内容ゆえ、後者の焼き直しと言っていい。表紙からして96年『太陽』6月号と同じ乱歩の写真を使っているので余計に紛らわしい。



          



ずっと乱歩を追いかけてきた人間にとって今回の『別冊太陽』には特筆すべきものは何も無い。強いていうなら、岩田準一が乱歩に関して描いた挿絵やスケッチの数々だったり(岩田家所蔵とクレジットがあるから使用されているのは原画らしい)、「孤島の鬼」の諸戸屋敷がある例の島のモデルではないかと最近云われるようになった南紀・九龍島の雄大な写真だったり、惹かれるのは一部のヴィジュアルだけで、よく見る顔ぶれが寄稿した文は殆ど、どこかで既に読んだようなものしかない。もともと『太陽』はヴィジュアルを効果的に見せるムック本なのだけど、どうかな~、この内容で乱歩ビギナーや一般読者は楽しめるのか、私には判断が付きかねる。

 

 

紙のメディア上で乱歩の特集というのは過去に何度も何度も何度も何度も目にしてきた。巻頭言で戸川安宣が呟いている如く、特集のパターンなんてやり尽くされている。乱歩以外の他の探偵作家の単独特集だったらこのスタイルの編集方法でも好事家は「おおっ!」と喰い付くと思うんだけど、さすがに乱歩/横溝正史/夢野久作、このBIG3だとキッツイですわな。

 

 

✺ 本書の中で一番問題なのがコチラ☟。初っ端6ページからしてこうだもん。

 

怪人乱歩の土蔵

蔵の中の幻影城

江戸川乱歩の終の棲家となった池袋の邸宅に、

蔵書が収められた土蔵がある。人呼んで「幻影城」。

 

〝人呼んで〟って、誰も呼んでないんですけどね。あの土蔵を何の根拠もなく「乱歩が幻影城と呼んだ」とする妄言を、懲りもせず繰り返しているのは藤井淑禎とか池袋界隈のごく数名のみ。今回立教大学江戸川乱歩センターは資料提供でしか関わっていないように一見映るけど、現センター長の石川巧や、元センター員で今はさいたま文学館学芸員になり企画展図録を通販で売らせないようにして転売を促進させている影山亮もこっそり本書に寄稿しているから、何も知らない平凡社の編集者に吹き込んだ犯人は彼らかもしれない。



現在さいたま文学館で開催されている企画展「金田一耕助さん!埼玉で事件ですよ」の図録が、以前の「江戸川乱歩と猟奇耽異」展図録同様に、通販で買えない人々を釣って定価以上の価格で転売されている。その出品者はいつも同じ人物(ヤフオクID:fuakl07037)。制作者が横溝正史について詳しくないらしく「たいした内容ではない」との声あり。決して買うべからず。



世の中には学習能力が完全に欠如した人間がいる。旧乱歩邸土蔵を「幻影城」と呼んでいる件、平井憲太郎氏が黙認してるんで、調子こいて訂正しないつもりなんだな。彼らはさして乱歩の事など好きじゃないから、こんな妄言を発したくなるのだ。もし夢野久作や杉山家に対して斯様なありもしないでたらめを広めた日には、杉山満丸氏だったら絶対にキツめの注意をすると思うんだが。いずれにせよこの本、Not to buy

 

 

 

(銀) 宮本和歌子による、「屋根裏の散歩者」を乱歩が書き上げた鈴鹿の岩屋観音についての頁に写真が二葉入っていて、もっと現地の風景を見たかった。いっそのこと、聖地巡礼じゃないけど、乱歩及び彼の作品にゆかりのある全国の土地の写真集にしてしまったほうがフレッシュな風を取り入れられたかもよ。戸川安宣監修ってなってるけど、頼まれたから仕方なく名前を貸してやっただけだよね?じゃなかったらシャレにならんわ。

 

 


2021年5月5日水曜日

『ぼくのミステリ・コンパス』戸川安宣

NEW !

龜鳴屋
2021年4月発売



★★★★    龜鳴屋の作る本は素晴らしい




1978年から1992年まで月一ペースで『朝日新聞』に連載された国内外ミステリ・コラム。それは鮎川哲也がまだ現役で『沈黙の函』や『死びとの座』を発表していた時代。基本的にこの十五年間に発表された新作ミステリを取り上げている項が多いけれどクラシック・ミステリにも言及していたり、時には業界への苦言など話題は広範囲。私はこの時代の新作を自分の読書対象とはしていないから例えば逢坂剛なんて一冊も読んだことは無いが、そんな人間が読んでも十分楽しめる内容になっている。





むしろ私にとって重要なのは、これが金沢でひとりコツコツ愛情のこもった本を作り続けている個人レーベル龜鳴屋からのニュー・リリースであること。通常の文庫の背を少し高くしたようなハードカバー仕様に誂えていて、なんとなく戦前の改造文庫を思わせもする、わかる人にはよくわかる美しい装幀。それに加えて、前回の『雪割草』の記事にて書いた角川文庫のティッシュ・ペーパー並みに薄いpoorなページとは月とスッポンの上品な紙質が嬉しい。読み進めていたら〝投げ込み〟まで挟まっていて、その内容は初出コラムの「コンパス」を当時担当していた草薙聡志の、著者・戸川安宣からの手紙に対する返信の形態をとったエッセイ〈「コンパス」の想い出〉だった。草薙といい戸川の巻末あとがきといい連載時の裏話がこれまた面白くて「へえ~」と頷かされる。

 

                   



本書はところどころに注釈が付いてはいるのだが、今の時代だと解りにくミステリ以外の単語もあるから90年代以降に生まれた読者の為にここでフォローしておきますか。まず覆面作家トレヴェニアン『シブミ』を扱った64頁の項〈『将軍』以上の日本描写〉における『将軍』って何?と疑問に思う人もいるだろう。これは1980年アメリカNBCが制作した有名なTVドラマで、徳川家康が江戸幕府を制定する直前に日本へやってきたイギリス人・三浦按針を題材に使い、オリジナルの物語に仕立てたもの。日本でもオンエアされ、かなり話題になった。

主役の按針(ジョン・ブラックソーン)を演じたのはリチャード・チェンバレン。舞台が日本なので島田陽子・三船敏郎・フランキー堺・高松英郎・金子信雄ほか日本人俳優の出演が圧倒的に多い。角川映画『犬神家の一族』の四年後だから、まだ島田陽子に時代のニーズがあった頃だし近年CSにて再放送されたので久しぶりに観たけど、ガイジンの眼を通して見た日本人像が笑えて(ストーリー自体はシリアス)、つまらん大河ドラマなんぞよりずっと面白かった。

 

 

105頁の原・石毛というのは、のちに監督になってグータッチを定着させた読売巨人軍の原辰徳そして元西武ライオンズの石毛宏典のルーキー時代の話。この二人の名は本書巻末の人名索引にもちゃんと載っているが、こういうコラムに引用されるほど人気があったのよ。もっともその後の選手時代の原はいつもここぞという時に打てない四番バッターだった印象しかない。あと356頁はピンク・レディじゃなくてピンク・レディーね。どうでもいいけど。

 

                    


本書の評価を☆4つにしているとはいっても、それは上記でも述べたとおり私の興味範囲外のミステリ作品に関する書評が多いので、それらの作品を読んでないのにああだこうだと発言する資格は私には無い・・・という意味から☆1個分差し控えたのであって、執筆・制作サイドにマイナスされるような落ち度は何もなし。龜鳴屋の仕事だけならば満点。だいぶ前に発売された倉田啓明譎作集『稚兒殺し』みたいな本をまた出してほしい。

 

 

 

(銀) 本書は限定613部だそうなので興味のある方は早めに龜鳴屋HPへどうぞ。それにしてもハードカバーで613部作って価格が2,200+税か。個人レーベルにしては多めの部数かもしれないけど、良心的な価格だなあと思う。これに比べて盛林堂書房の出す新刊本は部数が200300部ぐらいのソフトカバー本(カバー付き)で価格が3,0003,500円あたり。サイズが文庫より大きくなったり、カラーページ中心の本になるともっと値段は高くなる。

 

 

本の制作に関する内部事情はそれぞれ異なるとはいえ、盛林堂は黒っぽい探偵小説の古本に対し状態が悪かろうがおかまいなしに非常識な高値を付けて売っている印象が強く、そこまで超レアではなかった古本まで相場を軒並み吊り上げようとしているようにも思えるので、龜鳴屋の本に見る丁寧な造りと価格を鑑みると、「盛林堂の新刊はゴリゴリに利益を乗せた価格で売ってるんだろうなあ」とつい詮索したくなる。でも盛林堂はテキスト打ち込みやデザインとかを第三者に発注しているから、その点で龜鳴屋以上に人件費コストはかかっているのだろうが。





2020年12月21日月曜日

『ぼくのミステリ・クロニクル』戸川安宣

2016年11月23日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

国書刊行会  空犬太郎(編)
2016年11月発売



★★★★★    人  柄



読み終えて思った。ゴリ押しとか妙なアクの強さとか、そういったものが戸川安宣にはなく、本やミステリや人や仕事に対してごく自然体に向き合い、でもそこにはキリリと一本、筋が通っている。普通だったら出世をしてそれなりの役職に就いたならもう現場仕事はやらないもんだが、それでもやっぱり本を作ったり、小さなミステリ専門書店の番台に立ってしまう氏がいる。



これは戸川の個人史、東京創元社史でもあり、日本におけるミステリ書籍出版史でもある。またミステリでも海外もの/国内もの/その他の分野や出版業界の内側まで、あらゆる方向へ向けて語り尽くされ、しかもそれが薄っぺらい総論・エピソード拾いになってないのが凄い。聞書き本なのに巻末には註と索引が用意されている。
どこもかしこも重要な話ばかりなので、あえて今後出るであろう書評では採り上げなさそうな、でも私が心に残った箇所を挙げるとするならば・・・。

 

                   


決して著名な存在ではないけれど、戸川の後輩であり部下に当たる東京創元社編集者の松浦さんという人の逸話なんかグッとくる。創元推理文庫のあの分類マーク廃止を提案、翻訳家がビビったり時には怒らせるレベルの、そこまでしなくても・・・と思うぐらい真っ黒になるまで鉛筆でゲラ・チェックをし、連夜の激務に疲れても朝の出勤は遅れない人物らしい。

 

 

のちに煮詰まってしまって会社を辞めたあとずっと何もしていないという行末は、まさにプロ魂が真っ白な灰に燃え尽きた感がある。こんな人達の働きがあってこそ日頃我々はいろいろな本を楽しませてもらっているのである。ちょっとだけ世渡りが下手な(失礼)松浦さんのことを戸川は「東京創元社にとって宝物のような編集者」と讃える。こういう同僚への視点の持ち様が今日まであらゆる人脈を築く源となり、一編集者ならぬミステリ・マスターとしての成功へ結び付いたに違いない。


                    



昨今はプロフェッショナルな存在がこの業界から絶滅しようとしている。本の中にミスや誤りがあっても「あって当然じゃん」みたいな開き直りの風潮さえ目にする。先日も書店で知人に教えられた事だが、『金田一耕助映像読本』(洋泉社)というムック本は3刷まで出ているので2回も訂正できる機会をもちながら、162頁「鍾乳洞殺人事件」の書誌データはいまだに間違えたままだという。



ちょっと調べればなんでもない事なのにサブカルだからとか素人の甘えなのか、もはやケアレスとはいえないこんなミスを何度も繰り返したら、出版界ではない普通の企業だってクライアントや上司にどれだけ怒られるか・・・説明の必要はなかろう。「本を売って人様からお金を頂く」とはどういうことか、本書をじっくり読んで猛省しろ、青二才ども。




(銀) 今まで面白い探偵小説本を沢山作ってくれて、本当に戸川安宣には感謝している。
特に、価格が三十万円にもなってしまった江戸川乱歩『貼雑年譜』の完璧なレプリカ版を発売にまで漕ぎ付けたのは狂気の沙汰(最上級の賛辞の意)だった。



このレビューを当blogへ移すので改めてAmazon.co.jpの本書レビュー欄を見たけど、そこには長文のわりには自己陶酔してて中身が何も無いレビューや、本書の公式発売日2016年11月17日に早々と投稿されている(つまり本をろくに読んでいない)イカサマ・レビューが。私の書いていたレビューも大概は雑だったけど、相変わらず掃き溜め状態だなAmazonのレビュー欄って。



しかしねえ、木魚庵とかの金田一耕助ミーハー本ならともかく、
まさかあれだけ信頼していた論創社の本にまで10行上で述べている苦言を呈しなければならない時がくるとは夢にも思ってもなかったよ。