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2022年9月26日月曜日

『川野京輔探偵小説選Ⅲ』川野京輔

NEW !

論創ミステリ叢書 第128巻
2022年9月発売



★★   まがりなりにも出版人の端くれならば
            校正ぐらいちゃんとしろ論創社編集部 




本巻278頁に載っているエッセイ「放送局と私」の中で川野京輔は〝世間によく、ブンヤ物と称する新聞記者物があるように、ラジオ、TVを舞台にした放送局物と云うジャンルを作り上げたいという野心も持っている〟(ママ)と書いており私は苦笑した。この人の探偵小説はそういった設定で書かれているものがあまりに多く、ちょっとカンベンしてほしいぐらいなのだが、御本人がそれほど意識的であったのなら、もう諦めるしかない。






またSFSMというエッセイでは、〝昭和二〇年代後半の風俗雑誌「奇譚クラブ」「裏窓」「風俗草紙」「風俗科学」などに掲載されたSM小説の中には探偵小説と呼べるようなものが多くあった。変態性慾は犯罪か、あるいはそれに極めて近い距離にあり、それをテーマにすれば、それだけで探偵小説といってもいいだろう。少なくとも戦前ならそうである。〟(ママ)とも語っている。

失礼を承知でいうと、川野作品には(小説だけじゃなくラジオドラマでも)❛オンナ好き❜ な性分が滲み出ていて、こういう人のほうが私は親しみを感じるし、逆に恋愛ひとつしようともしない令和の日本人のほうが間違いなく病んでいる。学生時代の投稿癖が抜けないまま、社会人となってからも楽しみつつペンを執り続けた人。そんな川野京輔は永遠のアマチュア作家と言えよう。

 

 

 

本巻に収められた創作探偵小説はこちら。
「暴風雨の夜」「コンクール殺人事件」「犬神の村」(中篇)「手くせの悪い夫」
「二等寝台殺人事件」「そこに大豆が生えていた」「御機嫌な夜」「警報機が鳴っている!!
「愛妻」「公開放送殺人事件 ~一枚の写真~」(未発表中篇) 

その他に単行本一冊分満たすには数が足りなかったのか、非探偵小説な読物が十三篇。
但し「剃刀と美女」はエロネタ探偵小説として扱ってもよかろう。
こういった作品で穴埋めすることを読者は喜んでいるのかどうか私にはわからない。
本巻をはじめ『川野京輔探偵小説選 Ⅰ/Ⅱ』を読むと、探偵小説以外のジャンルにおいても著作を様々残しているのが確認できる。川野にとって本業はNHK、執筆は副業であり、興味の対象をあちこちに向けて、(筆で生活費を稼ぐというのではなく)趣味として書きまくった。

 

 

 

だが探偵小説の出来を求めた場合、どうなのか?
彼の作品はどれも『宝石』のような探偵小説の主戦場でガチに戦えるほどアイディアも文章力も優れてはおらず、重篤な探偵小説読者以外の人々へアピールする訴求力に乏しい。上段に挙げた本巻収録の創作探偵小説にしても、危惧していたほど放送局ものばかりでなく川野なりのヴァリエーションがあるのはよかったのだが、「犬神の村」は単に長篇「猿神の呪い」のプロトタイプでしかなかったりする。昔、中国地方の山村にはびこっていた憑霊を原因とする差別=村八分に関心を向けさせるのはいいとしても、作ごとに何かしら変化は欲しい。

 

 

 

過去の記事に書いてきたように、やっぱり川野京輔にとって誇るべき作品は決して小説ではなくラジオドラマだ。エッセイ「ラジオドラマをアーカイブスへ」を読むと、本名の上野友夫名義で演出しNHKに残したラジオドラマ436本の音源はNHKアーカイブスへ寄贈したそうだ。それは大変嬉しい話だけれども、肝心のNHKがそれらの作品をWEB上でストリーミングできるようにするなり、NHKラジオの中で再放送するなり、活用してくれないことには宝の持ち腐れでしかない。

そのNHKも無駄なBSKチャンネルは残すくせに、現在二つあるBSチャンネルは一つに削減し、地上波のEテレもやめてしまうなど縮小路線へと傾いているのだから、我々が上野友夫演出作品を聴けるようになるのは果していつになるのやら。

 

 

 

(銀) 誰も何も言わないのをいいことに濫造しまくりの論創海外ミステリ。
それとは対照的に、テキストの雑さを銀髪伯爵から突っつかれるものだから、すっかり年に二冊程度しか出なくなってしまった論創ミステリ叢書。本巻も今年の二月に出た『飛鳥高探偵小説選Ⅵ』以来な訳で、一冊出すのにこれだけ時間を取っているのだから、ちっとは真面目にテキスト校正に取り組んでいるのかと思ったら、やはりダメだった。
 

 

 

奥付クレジットを見ると本巻の本編校正は横井司が担当していて、その部分はいいのだけれど、横井の担当ではないと思しき【解題】は相変わらずテキストの打ち間違いが多い。今回【解題】欄の正誤表を本の中に挟み込んだり、論創社の公式HPにupしてはいるが、たかだか15頁程度のテキストにて九箇所も間違いが生じているのだから、横井司以外の論創社編集部の人間がやっている仕事はやっぱり酷いと言わざるをえない。『川野京輔探偵小説選Ⅰ』の【解題】担当だった小谷さえり同様、今回も河瀬唯衣という聞き覚えの無い女性の名がクレジットされていて、論創社編集部/黒田明のペンネームであることは見え見えのバレバレ。




当Blogでも以前取り上げたことがある論創社の刊行物『近代出版史探索』(小田光雄)における校正の問題を、先日SNS上で指摘している方があった。























そのツイートに対する黒田明らしき論創社からの返答がコレ。















「誤植や誤情報につきましては読者様からご指摘を受ける事もございますので参考とさせていただいております。」って、まるっきり自覚の無い他人事みたいな物言いだな。この論創社のツイートを見て、数日前に会見を開いた旧統一教会の勅使河原秀行本部長と福本修也弁護士の白々しさを思い出した。あのさあ~「一箇所たりともミスすんな」なんて無茶は言わんから、せめて私の気付かないようなところでミスするとか、一冊の本で五箇所以内のミスに収めるぐらいの仕事はできんものかね?論創社の本造りの粗さに気が付いている人はただ沈黙しているだけで、上段にて紹介したazzurroさん以外にもきっといる筈だぞ。






2022年3月9日水曜日

『江戸川乱歩(作)上野友夫(演出)【連続ラジオ小説】魔術師』

NEW !

NHKラジオ第一
1979年12月3日~12月29日放送



★★★★★   シリーズ中、一番の出来といったら



前作『黄金仮面』がリスナーに大歓迎され、スタッフもこの路線に手応えを感じたようで、広川太一郎を明智小五郎役に据えた当シリーズは年末のレギュラー化が決定。全十五回放送から全二十回へ一週間拡大されたぶんドラマの展開にゆとりができ、当時の流行歌を含む昭和初期の時代背景紹介も(話の邪魔にならぬ程度に)豊潤になった。

二作目ともなるとツボを心得たもので登場人物に対する各声優陣のキャラ付け、場面場面における効果音や短い劇伴素材など、よりキメ細かに演出されているのがわかる。そして、つい聴き流してしまいそうな部分ながら、玉村妙子/花園洋子といった令嬢達が演じられる際、戦前のセレブな日本女性の喋り方をそれっぽく体現できているところなど、そこはかとなく耳をそばだててしまうのだ。

 

 
 
『魔術師』の音源は数年前までネット上にupされていたのだが、今回探してみたら削除されていた(だから、こういうのはあるうちに聴いとかなきゃ)。たまたま本作は1979年の初回放送時、全回カセット・テープに録音していたこともあり、運良く記事にすることができてヨカッタ。

なにせ困るのはカセット・テープを再生するデッキの経年劣化。この記事を書く為に『魔術師』を録音したTDK120分テープを聴き始めてみると、最初のうちは大丈夫だったのが、だんだんキュルキュルと変な音がし始めて、なんとか最後まで聴くことはできたものの、私のカセット・デッキの寿命はもはや無きに等しい。誰かがなるべくコンディションの良い音質で『魔術師』upしてくれるといいのだけれど。

昔このラジオ・ドラマを録音していた人は皆、カセット・テープが手元に残っていたとしても、再生機が無いので聴くに聴けず、それゆえネットにupしたくてもできないに相違ない。LDとかVHSとかカセット・テープとかオールド・メディアを〝ないがしろ〟にするから、再放送だけでなくソフト化さえ見込めない過去の良質なコンテンツは次々と失われてゆく。クソッタレ。

 
 

 

それでは『魔術師』の全サブタイトルと主要な声の出演者を。

第一回「3の数字は殺しの予告」

第二回「獄門舟が隅田を下る」

第三回「何を笑うか西洋道化師」

第四回「まさか、明智が死のうか」

第五回「8の記号は殺しのナンバー」


 

第六回「悪魔の棲処は幽霊塔」

第七回「その時洋子は蒸発した」

第八回「美女解体は鹿鳴館」

第九回「恋は闇路というけれど」

第十回「恋の逢瀬も束の間に」


 

第十一回「地下室へどうぞ」

第十二回「君よ死の踊りを踊れ」

第十三回「殺しの罠は出口にあった」

第十四回「二つの顔を持つ男」

第十五回「悪魔の呪いは地上に残る」


 

第十六回「またも殺しの笛の音が」

第十七回「闇の中で待つ男」

第十八回「真紅の部屋に犯人が」

第十九回「殺人魔術の仕掛人」

最終回「女は最後に変身する」
 
☽                           ☽      

 

 声の出演 

 

語り手         中西龍

 

明智小五郎      広川太一郎

浪越警部       木下秀雄

 

玉村善太郎        巌金四郎

玉村一郎        青砥洋

玉村二郎                   高橋亨

玉村妙子       吉野佳子

 

福田得二郎        前沢迪雄

花園洋子       神保なおみ

 

牛原耕造       庄司永建

玉村幸右衛門       巌金四郎

奥村源次郎        庄司永建

 

文代         倉野章子

奥村源造       庄司永建


主題歌は三船浩「恋は魔術」。挿入歌は無し。

 

                           ☽      

 

進一少年の役は声優を特定できなかった。
『黄金仮面』の時と違ってサブタイトルは原作の章題に準拠しなくなり、サブタイトルを文字にして一覧にするとなると、音源から聴きとらねばならない。ところが、中西龍の語り方は独特の雰囲気を出すため、各回のサブタイトルを言う時に語尾がよく聴き取れない場合がある。この『魔術師』においても、何度注意深くヒアリングしても、第四回は「・・・死のうか」であっているのか確証が持てないし、最終回は「・・・変身する」と私は受け取ったけれど「翻心する」でないとは言い切れない。演出担当の上野友夫(=川野京輔)もしくは「NHK番組発掘プロジェクト通信」のwebサイトが正確なデータを教えてくれればなあ。

 
 

 

『黄金仮面』→『魔術師』→『吸血鬼』→『人間豹』→『地獄の道化師』→『化人幻戯』と続く当シリーズ。原作の評判が良いのはやはり最初の二作なので【連続ラジオ小説】でも人気が高いのは『黄金仮面』か『魔術師』となるのだろう。主題歌だけなら『黄金仮面』が一番良いのだがドラマの出来で選ぶのであれば『魔術師』がもっともバランスの良い完成度に仕上がっていると私は思う。そもそも「魔術師」という長篇は原作からして密室トリックが弱いとか、厳重警戒が敷かれた玉村邸に忍び込んで一郎に罠を仕掛けたり花園洋子を拉致できたのは一体誰なんだ問題があったりするのに、それでも面白く感じさせるのだから実に不思議な作品だ。





黄金仮面の久松保夫、人間豹の尾藤イサオ、悪役キャラはいずれも文句の付けようが無いぐらい原作どおりのイメージに演じてくれており、その中でも魔術師・奥村源造を演じた庄司永建は(牛原耕造/奥村源次郎の演じ分けも含めて)本当に素晴らしい。明智と文代/明智と妙子それぞれのシーンは原作に適度に色付けしてあるが、文代のセリフで「愛しています」を言わせ過ぎなところも。だって魔術師一味は海上の怪汽船へ明智を拉致してきて、文代はその時初めて名探偵に会ったばかりなのに、明智の怪汽船脱出シーンで「愛しています」と告白するのは、心の中で惹かれているとはいっても、ちょい早すぎるんじゃないの?などと言いつつ、本作がシリーズのベストであるのは間違いない。 




(銀) 文代役は『魔術師』で演じてくれた倉野章子でそのまま継続してもらいたかったのに、この後声優が二転三転。上野友夫によれば、動かせないレギュラーである中西龍や広川太一郎とスケジュールが合わなかったんだって。余談だが倉野章子は角野卓造夫人でもある。



『黄金仮面』では山村正夫解説があったが、あれがあるとドラマの流れを止めてしまうし、なによりも「蜘蛛男」の発表を昭和3年と言ったり、「文代」を「ももよ」と言ったりしていたので、無くして正解。




2022年3月3日木曜日

『江戸川乱歩(作)/上野友夫(演出)【連続ラジオ小説】黄金仮面』

NEW !

NHKラジオ第一
1978年12月11日~12月29日放送



★★★★★  【連続ラジオ小説】にて広川太一郎が演じた
        懐かしい名探偵明智小五郎シリーズの第一作



NHKに入局し、ラジオ文芸部の演出家として多くのラジオ・ドラマを制作してきた川野京輔こと上野友夫。【連続ラジオ小説】の枠で彼は江戸川乱歩の作品を毎年ドラマ化。本日取り上げる『黄金仮面』より前にもNHKラジオ第一で『黒蜥蜴』(声の出演:唐十郎/李麗仙)を放送していたが、名探偵明智小五郎=広川太一郎として定着するシリーズはここから始まった。放送時間帯はAMラジオの月曜~金曜215分から2120分。




乱歩作品を映像化したところで、原作の素晴らしさの再現など望むべくもない。理由は簡単。彼の小説はあの語り口に類い稀なる魔力が込められているのに、TVドラマや映画だと、その部分はすっかり失われてしまうのだから、面白くなる道理が無いのだ。その点、上野友夫はこの【連続ラジオ小説】で乱歩の〝地の文〟における語りを極力活かし、1928年生まれである中西龍アナウンサーの語りも探偵小説に〝うってつけ〟だったから、凡百の映像とは違って原作らしさと戦前の時代の雰囲気が楽しめた。

 

 

 

毎年12月、乱歩作品が【連続ラジオ小説】にて放送されることを本作初めて認識した人が多かったのか、『黄金仮面』以前の音源を録音している人は非常に少ない気がする。私もまた『黄金仮面』については第十回と最終回しかカセット・テープに残せていない。愚かなるNHKは私の観たい(聴きたい)番組に限ってどれもこれも保存しておらず、当シリーズの商品化はおろか、NHKラジオで再放送されることもなく、そうなると余計に年を重ねるにつれ、もう一度全ての回を聴きたくてたまらなかった。

ところがなんと、探偵小説の神様(?)のお導きか、こむこむさんという方がネット上に『黄金仮面』をupして下さっているのを発見!!あまりに嬉しくて仕事を放り出し、懐かしのラジオ・ドラマに聴き入ってしまったのである。(こむこむさんに感謝! 但し残念ながら第六回と第十回は欠落せしむ)

 

 

 

すべての回のサブタイトル、及び主要な声の出演者を記しておく。

第一回「金色の恐怖」

第二回「金色の守宮(ヤモリ)」

第三回「浴槽の美女」

第四回「ALの記号」

第五回「鎧武者」


 

第六回「(ネットにupされていないので不明)」

第七回「月光の怪異」

第八回「死体紛失事件」

第九回「赤き死の仮面」

第十回「ルパンは何処に」


 

第十一回「開けセザーム」

第十二回「アトリエの怪」

第十三回「白き巨人」

第十四回「大爆発」

最終回「勝負はいずれに」 

殆どのサブタイトルが原作の章題に準拠しているので、おそらく第六回のサブタイトルは「恋の魔力」ではなかろうか。そして第六回のストーリーに本来入るべき、小雪を殺して逃亡した賊を追う途中、明智小五郎が仮病を使ってトンズラするくだりは省かれているものと想像する。



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◖ 声の出演 ◗


語り手          中西龍

 

明智小五郎          広川太一郎

浪越警部                      木下秀雄

 

鷲尾正俊侯爵           巌金四郎

美子姫                           川口京子(*)

小雪             友部光子

大鳥不二子          川口京子(*)

エベール               須永宏

 

黄金仮面           久松保夫

 

特別出演           山村正夫



(*)のかわぐち きょうこ氏は漢字表記がこれで正しいのか、確かなデータが得られなかった。また、声優名を記さなかった登場人物もいるが、数少ない人数で掛け持ちして演じていることが多いため、やむをえず省略している(例えば川村雲山や川村絹枝など)。読者諒せよ。



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数十年ぶりに聴いたもんだから、本物の山村正夫が解説の為に数回出演しているのなんて、すっかり忘却していて驚いた。探偵作家同士の付き合いがあり、川野京輔が頼んだのだろうか。広川太一郎演じる明智シリーズの第一作だし、放送一週目の第一回から第五回までは、演出サイドも声優サイドもまだ型が定まってない感じがする。

それと二点文句を言うとしたら、大鳥不二子が恋人に呼びかける時「アルセーヌ」「ルパン」「黄金仮面」と呼び名をコロコロ変えるのはイヤだ。せめて「あなた」で統一してほしかった。あと天理教の教師・木場(広川太一郎)は剽軽なイメージじゃないんだけどな。『黄金仮面』は全15回ゆえ余計な肉付けも無く原作どおりの進行とはいえ、もうこの時から原作の書かれた年代に国内で流行していた歌(「すみれの花咲く頃」ほか)を劇中で流している。




歌といえば、主題歌「黄金仮面」挿入歌「悪魔のように」を唄う三人組女性ユニットのギャル。黒木真由美・目黒ひとみ、そしてもう一人の石江理世は1978年に脱退しているそうだから、この頃にはもう中世古明代にメンバー・チェンジしていたのか。いやそれよりも、ネットを見て意外だったのは、この二曲のアレンジを「ビーイング」設立者として後年有名になる長戸大幸が担当していたとは。人に歴史あり。【連続ラジオ小説】の次なる乱歩作品『魔術師』以降、主題歌・挿入歌はどれもムード歌謡っぽいものばかりになってしまうけれど、「黄金仮面」はノリのあるポップ・チューン、「悪魔のように」はしんみりしたバラードであり、その点でも『黄金仮面』は華やかなイメージがあった。




(銀) ネット上にUPされた音源はいつまでもある訳じゃなく突然削除されたりするので、興味のある方はなるべくお早めにチェックされたし。どうせだったらこのシリーズ、明智の登場する通俗長篇第一弾「蜘蛛男」から始めてもらいたかったけど、明智の出番がかなり後のほうになるから上野友夫は着手しなかったのか。惜しい。それにしても【連続ラジオ小説】を当Blogで取り上げたからには、次作の『魔術師』も記事にしないといかんだろうなあ。



放送期間中、聴取者に配布された番組主題歌・挿入歌の楽譜画像を見るには、
下記にある  〝川野京輔〟ラベル(タグ)をクリックし、『猿神の呪い』の記事をご覧あれ。





2020年11月7日土曜日

『猿神の呪い』川野京輔

2014年6月4日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

新風舎
2003年4月発売



★★★★★   意外に面白かった昭和30年代伝奇スリラー




街の古本屋で見つけた本だが、2003年の刊行時にはすっかり見落としていた。川野京輔の本名は上野友夫。1954年、NHK入局。彼の業績は『推理SFドラマの六十年』にて知ることができる。数々のミステリー・SF/ラジオドラマを手掛けながら作家としても活動した異色の経歴を持つ。本作「猿神の呪い」は1960年、島根新聞にて半年間連載したレア長篇で、初の単行本化。

 

 

■ 松江のラジオ局プロデューサー郡英之は、自分につきまとう怪しい影に不安を感じていた。そんな郡は大学時代の同窓である猿田春彦と再会する。島根・仁多郡の奥深い集落に居を構える猿田家は代々、子供が生まれるとその当主が必ず死ぬという。春彦の頼みを聞いて郡英之は猿田集落へ向かうが、そこは陸の孤島と化した忌まわしき呪いの地だった・・・。 ■

 

 

著者の本業を主人公に投影、当時赴任した地方のローカリティをふんだんに盛り込み、ロマンスもありつつ不穏なムードで物語は進む。怪猿・ミイラ・サディズムと著者の筆は暴走し、結末で暴かれる怪猿と宝物の謎は「なんじゃそれ?」と笑ってしまった。現代なら絶対難癖をつけられそうな表現もあるのに、最後まで掲載した島根新聞は偉いもんだ。

 

 

内容はいわゆる伝奇スリラー。同時代の大河内常平あたりと比べたら、文章は整然としている。江戸川乱歩、あるいはそれ以前の村山槐多に見られる「怪の物」(あやしのもの)風テイストもあり、好事家ならそれなりに楽しめると思う。『たそがれの肉体』『コールサイン殺人事件』等の旧い単行本は既読だけど、それ以外の川野京輔の探偵小説ってどうなのだろう、是非発売してほしいところだ。ちなみに版元である新風舎が経営破綻しているので、本書の重版は望めない。

 

                    


上野友夫名義の仕事では、7582年頃のNHKAMでオンエアされていた江戸川乱歩や横溝正史のラジオドラマがなんとも懐かしい。下手なTVドラマや映画より格段に優れていたので、こちらも商品化を熱望する。このレビューを書いている時点では御本人も健在らしく、やるなら今しかない




(銀) 上記のレビューを書いた後に『川野京輔探偵小説選』Ⅰ・Ⅱが刊行、『推理SFドラマの六十年』も再発された。川野の探偵小説は放送局関係といった似たような設定が多く、あくまでマニアが読む対象以上の内容ではないかな。

いくら論創社が川野の小説をプッシュしようが、彼の最も誇れる仕事といったらラジオドラマ、これに尽きる。明智小五郎を広川太一郎が演じ、当時局アナだった中西龍の語りが乱歩の名調子そのままの雰囲気で実に素晴らしかった連続ラジオ小説がそれだ。そのうち「黄金仮面」「魔術師」「吸血鬼」「人間豹」の分の、希望者にプレゼントされていた番組主題歌/挿入歌の楽譜を今でも保存しているのでご覧あれ。



   「黄金仮面」楽譜     「魔術師」「吸血鬼」「人間豹」楽譜


歌詞を書いている杉野まもるは川野京輔の別名。この四作 +「地獄の道化師」「化人幻戯」だけは欠落無く良い音質でもう一度聴きたいなあ。どうして当時ノーマルのカセットでいいからテープに全話を完全録音しておかなかったのだろう・・・。商品化してくれるのが一番嬉しいけど、ラジオドラマのソフトって難しそうだし、今はRadikoという便利なものがあるので、あらかじめ抜かりなく事前告知をした上で再放送してくれないかな。川野翁ご本人からNHKへ強権を発するってのは無理ですか?