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2024年7月12日金曜日

『合作探偵小説コレクション⑦むかで横丁/ジュピター殺人事件』

NEW !

春陽堂書店  日下三蔵(編)
2024年6月発売



★★★    戦前の轍は踏まず




「合作探偵小説コレクション」もすっかり戦後モードに入った。本巻収録作品は昭和20年以降に発表されたものばかり作家も編集者もみな学習したのか、戦前の連作・合作よりはだいぶスマートな内容になり、甲賀三郎のように最終回を押し付けられ、リレー小説の無責任さに怒る人も見かけなくなった。

 

 

「能面殺人事件」   青鷺幽鬼(角田喜久雄)

「昇降機殺人事件」  青鷺幽鬼(海野十三)

海野十三は本格物を書く素養を持ち合わせていない。敗戦後の彼は江戸川乱歩に「変態男」なんて言葉を放つほど、「本格にあらずんば探偵小説にあらず」的な声を上げていた同業者達に対し疑問を呈したこともある。青鷺幽鬼名義の二短篇は競作だが、仮に角田喜久雄と海野十三の二人が本当の意味での合作長篇に挑戦したとしても、角田単独作品のような本格探偵小説にはなり得ないんじゃなかろうか。

 

 

「三つの運命」

プロローグ 白骨美人  土岐雄三

骨が鳴らす円舞曲    渡辺啓助

鉄の扉                         紗原幻一郎

帆村荘六探偵の手紙     海野十三 

一人目の土岐雄三がお題を出す形で事件の発生を描き、残りの三名がそれぞれ個別に解決篇を受け持っている。

 

 

「執念」   大下宇陀児/楠田匡介

後述する「むかで横丁」とは対極にある宇陀児節全開のウェットなスリラー。どういう役割分担で書き上げたのかわからないが、安心して読めるのは確か。

 

 

「桂井助教授探偵日記」


第一話         幻影の踊り子         永瀬三吾

第二話     犯人はその時現場にいた    楠田匡介

第三話     謎の銃声               大河内常平

第四話     蜜蜂               山村正夫

第五話     古井戸                             永瀬三吾

 

第六話     窓に殺される             楠田匡介

第七話     愛神                                山村正夫

第八話     西洋剃刀                            大河内常平

第九話     遺言フォルテシモ           永瀬三吾

第十話     狙われた代議士            楠田匡介

 

第十一話    八百長競馬                       大河内常平

第十二話    洋裁学院                        山村正夫

第十三話    地獄の同伴者                    朝山蜻一

第十四話    妻の見た殺人         永瀬三吾

第十五話    アト欣の死                       楠田匡介

 

第十六話    訴えません                         永瀬三吾

 

T大助教授の探偵役・桂井龍介/新聞社員・阿藤欣五郎/欣五郎の妹・ネネ子/警視庁嘱託鑑識課員・和田兵衛、この四人を中心に展開する一話完結型の競作もの。例えば大河内常平だったら地の文を〝ですます調〟にしたり、また彼独特のスラングもふんだんに飛び交っていたりして、各人の個性が活かされた凸凹感の少ない仕上がり。なによりも思った以上に謎解きが重視されているのが良い。


これだけのボリュームがあるのだから、「桂井助教授探偵日記」だけで単行本一冊作ることは十分可能。一般層にも知名度のある作家が参加していないため、かつて大手の光文社が出していたミステリー文学資料館名義の文庫では難しいかもしれないけれど、横井司が先頭に立ち、正常な刊行を続けていた時分の論創ミステリ叢書あたりから単独でもっと早くに本作が出なかったのが悔やまれる。探偵小説復刊に関わる界隈はもはや死に体同然だし、春陽堂のこのシリーズを毎回楽しみに読んでいる人がどれだけいるか、なんとも心許ないからだ。

 

 

「むかで横丁」

発端篇   宮原龍雄

発展篇   須田刀太郎

解決篇   山沢晴雄

これは正統的なリレー作品。「合作探偵小説コレクション」の最初のほうの巻に入っていた戦前作家の連作に比べ、一作品として整っている点は評価できる。轢死者の屍が一人の人間のものではなかったり、出だしは悪くない。ただ『密室』という発表媒体の性格上、込み入ったパズラーを狙いすぎて本格マニアしか相手にしていない印象が強く、そこまで本格を好まない読者は拒否反応を起こすかもしれない。

 

 

「ジュピター殺人事件」

発端篇   藤雪夫

発展篇   中川透(鮎川哲也)

解決篇   狩久

「むかで横丁」とは違い、同じ本格でもこちらのほうがずっとスッキリしている。とはいえ、『藤雪夫探偵小説選 Ⅰ 』の記事(☜)にも書いたように、私は藤雪夫の国語力には大きな疑問を抱いているので、発端篇は別の作家にお願いしたかった。


「まァー」「こりゃー、いけねー」等、会話文に見られるヘンな長音符号の棒引き「―」が相変わらずイタイ。また田所警部というキャラクターが登場するのだが、この人は電話を掛ける際、自分で自分のことを「もし、もし、田所警部です」と言っているし(本巻494頁下段3行目)、他の登場人物にも同様の物言いが見られる。あのねー、自ら名乗るのにわざわざ自分の役職付けて言ったりしないよ。普通「もしもし、田所です」って言うだろ。藤雪夫の小説を読んでいると、こういうところが目に付いて閉口する。






(銀) この辺の戦後に発表された合作・連作群を楽しみにしていたので、整合性がとれていなかった戦前のものと内容を比較しても「ああ、やっと出てヨカッタ」という感じだ。全八巻完結予定でスタートした「合作探偵小説コレクション」も、いよいよ次がラストか。






■ 春陽堂書店 関連記事 ■



『亜細亜の旗』小栗虫太郎




















2024年1月13日土曜日

『犯罪の眼』楠田匡介

NEW !

同光社出版
1959年8月発売



★★★★    刑事二人、猟奇犯罪に挑む




時代の流れの中で人々の記憶からほぼ消え去ってしまった風習表現固有名詞の数々が、本書にはあちこち飛び交っている。幾つか拾ってみよう。

 

 鳩の街

戦前の帝都東京で私娼窟の街といえば玉の井だったが空襲で焼かれてしまった。その後、玉の井の業者達が移ってきて営業を始めた赤線地帯のこと。

 

 戦場でのコンドーム

なぜ戦地にコンドーム?これは本来の使用目的である避妊具としてではなく、川や海へ入る際に眼鏡や時計を濡らさぬよう、今でいうジップロックみたいな用途で、コンドームの中にしまっていたそうだ。

 

 坐棺

旧い日本の土葬といえども、寝棺での埋葬を思い浮かべてしまいがち。私などは坐棺といえば、即身仏になろうとする僧が閉じ篭る棺のイメージがあったが、家族に訊くと我が家の曽祖父までは坐棺で埋葬していたらしい。調べてみたら寝棺というのは火葬に適した形式であって、かなり昔の日本においては坐棺のほうが主流だったみたい。私の好むジャンルの小説には土葬のシーンがたまに出てくるので、これから注意して読んでみるつもり。




「四十八人目の女」
「謎の窒息死」
「浴槽の怪屍体」
「屍体紛失」
「幽霊の屍体」
「拳銃を持つ女」
「俺は殺さない」
「犯人は誰だ」
「首のない屍体」
「連続殺人」
「冷凍美人」




警視庁捜査一課の刑事・吉川と宇野のコンビが十一の事件を捜査、つまりそれぞれ独立した一話完結の短篇十一作によって構成されている。若い宇野(三十歳未満)は先輩にあたる部長刑事・吉川(四十二歳)の良き相棒で、いつも一緒に行動。またエピソードによっては ❛六歌仙の兄い❜ という綽名の『帝都日報』新聞記者・狼谷保秀が吉川・宇野コンビに絡み、スクープを狙って事件にガンガン首を突っ込む。

 

 

ハンカチで汗を拭き拭き、足を棒にして駆けずり回り、夜は馴染みの店で一杯。そんな泥臭い刑事像が描かれていても、鬱陶しい人情味の押し付けは無いから助かる。鮎川哲也の鬼貫警部ものほどトリック/論理が追求されるでもなく、なんだか猟奇犯罪実話のエキスを巧妙に創作探偵小説に取り入れている錯覚に陥ってしまいますな。

 

 

そんな訳で、推理の面白みよりは(この記事の冒頭にて述べたような)風俗面のほうが目立ってしまうけれども、シチュエーションこそ犯罪実話風とはいえ、吉川・宇野・狼谷の気のおけない軽口の応酬なんかもあって、創作ものでしか成し得ないノリは十分感じ取れる。
 
 

 

 

(銀) 東都我刊我書房の酷い復刊本で鷲尾三郎がさんざん愚弄されたように、楠田匡介も湘南探偵倶楽部の同人本にて、ありうべからざるテキスト改竄の被害を受けている。その一部始終は下段の関連記事より御覧頂きたい。




■ 楠田匡介 関連記事 ■




『マヒタイ仮面』楠田匡介  ★















 


2023年2月6日月曜日

『密室殺人』楠田匡介

NEW !

青樹社
1963年5月発売




★★★★★  今も復刊されていないトリック・ミステリ短篇集





 長篇推理小説と銘打っているけれど本書の中身は短篇集で、その殆どはトリックを軸とした内容。昭和2030年代に書かれた探偵小説を眺めれば、一線級になりきれず歴史の中に埋もれてしまった作家が様々いる。楠田匡介/鷲尾三郎あたりも鮎川哲也/高木彬光とは姿勢が異なり、キャリアの中で本格風なトリックがある作品は少数しか書いていないのに、昭和末期以降は再発される事がなく稀少扱いされ、彼らの旧い単行本を一部の本格ミステリ狂やら古本狂が妙に珍重するもんだから古書価が跳ね上がってしまった。それもトリック小説である/ないに関わらず、である。誠に滑稽で笑ってしまう。

 

 

「ストリッパーの怪死」「誰も知らない」「拳銃の謎」「奇怪な腕」

「灯殺人」「河豚の皿」「人肉製紙」「殺人スキー」

 

 

 本書収録作すべてレギュラー・キャラ田名網幸策警部が登場。とはいえ必ずしも田名網警部が最終的な謎解きをする訳ではない。書名どおり楠田匡介が密室殺人に取り組んでいるのはいいとして、状況を描写すべき部分が粗っぽくそれが少々気になる。やっぱ願わくば読み手に対して100%フェアじゃないとね。「ストリッパーの怪死」にて兇器に使われる家庭用製麺機なんか、今この短篇を現行本に収録するには、それ自体どういう形状なのかを注釈で説明する必要があるのかもしれない。

 

 

後半はトリック以上に悪趣味なグロを押し出した作も入っており「人肉製紙」は楠田の別の著書『人肉の詩集』(あまとりあ社)に収録されていた表題作を改題・再録したもの。「河豚の皿」にも殺人トリックはあるのだが、印象に残るのはフグを食する蘊蓄のほうで、どのトリック作品もこれぐらい丁寧仕掛けを描いてほしい。

 

 

楠田匡介は北海道の人だから「殺人スキー」に見られる北国の小ネタはよく書けているし、またパルプ工場勤めの知識も「人肉製紙」に十分注ぎ込まれていて、彼の十八番ともよべる脱獄ものがそうだが、自分の経歴がうまく活かされている時の楠田作品は輝きを増す。


ただ昔から江戸川乱歩が言っていたように、日本人は本格を書こうとする人に限って文章が拙くなる傾向がある。トリックに挑んでいる時の楠田はその欠点が露呈してしまうのが惜しい。本格ミステリ狂/古本狂は深く考える事もなく、どんな珍トリックだろうとありがたがるだろうが、かつて松本清張が探偵小説を批判する時によく口にしていた〝実際ありそうにもない無理矢理なからくり〟そして〝どぎついグロ〟といった点では、探偵小説プロパーではないリアリティを求める読者から拒否反応を示されそうな要素も孕んでいる。

 

 

 そんなこんなで不満な点もあるけれど、楠田匡介本人には何も非は無いのに湘南探偵倶楽部の悪質な同人本(2022年10月の記事を見よ)のおかげで、至極真っ当な常識を持つ世間の人々に対しあまりにも悪い印象を与えてしまったのもあるし、本書収録短篇はアンソロジーなんかで小出しにされる事はあっても、未だに纏めて現行本にはなっていない。他人様の作品の本を出す資格など1ミリもないボケた老害人種ではなく優秀な編者の手で近い将来この『密室殺人』も万人が読める日が来るよう、少し甘めながら★5つ。

 

 

 

(銀) 私が持っている『密室殺人』は再発の青樹社版なのでこちらを使ったけれど、本来は1959年刊同光社出版のものが初刊本。同じ紙型かな?





2022年10月20日木曜日

『マヒタイ仮面』楠田匡介③

NEW !

   



■ どういった理由で湘南探偵倶楽部は改竄を続けるのか?




 湘南探偵倶楽部が制作・発売した同人本『マヒタイ仮面』(楠田匡介)はテキスト入力時の誤字脱字があふれかえっているばかりではなかった。不幸にして、この本を買ってしまった方、あるいは底本である『小学六年生』該当号の古雑誌 or 複写コピーをお持ちの方は(そんな人はほぼいないと思うけれども)、それらを手元に置きながらこの記事を読んで頂くと、よりベターである。

 

 

 

前回の【② テキスト崩壊】の記事の中で私は『マヒタイ仮面』第六回にあたる6364頁の画像をupしておいた。その画像の右下を見ると「はじめて読まれる人に」という欄がある。これは〈前回までのあらすじ〉が簡単にわかるよう、初出誌『小学六年生』編集部が毎月冒頭に添えたものだ。

湘南探偵倶楽部版『マヒタイ仮面』を読むと、(第一回に無いのは当り前として)第二~五回/七回の〈前号までのあらすじ〉は本編と同じく、制作者が自らの手でテキスト入力している。
一方、第六回/八~九回/十二回の〈前回までのあらすじ〉は『小学六年生』原本からそのままスキャン・コピーされていて、第十回にはそれが無い代わりに豊福剛造一家/探偵役の漫画家・金近たかし/チビ連隊/死仮面の男といった主要キャラ紹介のスキャン・コピーが、残る第十一回はちょっと見ると原本からのスキャン・コピーだと勘違いしそうだが、文章は制作者が手入力したものだった。

 

 

 

さて、前回の記事にもupした文章だが第六回「はじめて読まれる人に」の部分だけズームアップしたものを読者諸兄のために、もう一度お見せしよう。三行目にはこう書いてある。
〝美江子、英子姉妹のゆくえがわからなくなったのだ。ついで剛造氏夫妻までが、緊張する警察陣をしりめに、何者かに連れ去られてしまった。〟

               

                                   


本作に登場する子供のメイン・キャラは、この本の制作者がテキスト入力した本編全文を読むと次の五人しかいない。

 

・豊福剛造・香絵夫妻の子供である木綿子/比奈子姉妹

・木綿子/比奈子とはいとこにあたる小松良夫/幸子兄弟

・チビ連隊メンバーのひとりである万病薬局の杏子

 

もうお気付きですね。上掲『小学六年生』の第六回「はじめて読まれる人に」欄に記してあった美江子/英子姉妹の名前が見当たらないことに。本書を何度見返しても物語の中に美江子/英子なんて登場人物は存在しない。そして第六回までの時点で誘拐される姉妹といったら豊福木綿子/豊福比奈子以外にはいないのである。これは作者楠田匡介や『小学六年生』編集部のミスでも何でもない。何故かって?第二回のラストに見られる、原本から直接スキャン・コピーされた(つづく)以降の煽り文にもこう書いてあるからだ。

〝死の面・・・・とうとう、美江子、英子きょうだいのへやにまでしのび込んできた、
あの不気味な面・・・・〟(☟の画像をクリック拡大して確認されたし)


            

 

それだけではない。同じく原本からスキャン・コピーされた第十回の〈主要キャラ紹介〉欄には〝清水薬局のヒロ子〟と書かれている。エエッ、万病薬局の杏子までもが・・・。このヒロ子という名前も間違いではない証拠に第八回〈前号までのあらすじ〉欄には〝豊福家の美江子、英子姉妹、それにヒロ子の三人は〟とハッキリ書いてある。つまりだ。意図的な改竄か夢遊病みたいな心地でテキスト入力をしたのか知らんが、湘南探偵倶楽部の制作者は美江子/英子姉妹の名前を木綿子/比奈子へ、清水薬局のヒロ子万病薬局の杏子へ、勝手に書き変えているとしか思えない。



      

             第十回〈主要キャラ紹介〉の一部

        原本も美江子を幸子と間違えている。やれやれ・・・。



         

             第八回〈前号までのあらすじ〉


 

 湘南探偵倶楽部のこういう改竄事例は他の本でもあった。去年の七月、当Blogで紹介した大下宇陀児のジュヴナイル作品『黒星章』→『黒星團の秘密』だ。その時の二つの記事のリンクを貼っておくので、よ~くお読み頂きたい。


①  春陽堂版(戦前)と靑柿社版(戦後)のテキスト異同

②  全体に細かく手が入れられた光文社痛快文庫版


 

 

『黒星章』は戦後になって、靑柿社という出版社から粗末な仙花紙本で『黒星團の秘密』と改題され、作者が時代の変化に合わせていくらかの改稿を施して再刊された。湘南探偵倶楽部はその靑柿社版『黒星團の秘密』を2018年に復刊しているのだけど、これが原本そっくりそのままスキャン・コピーした作りではなく、『マヒタイ仮面』同様に手入力でテキスト・データが作られていた。

そして上に挙げた『黒星章』→『黒星團の秘密』のテキストを比較した記事で説明したように、湘南探偵倶楽部はこの頃から本来ありうべからざるテキストを作りあげ、まことしやかに復刊していたのだ。こうなるともう『マヒタイ仮面』も人物名以外の部分も改竄されているのかもしれない。

ここに正真正銘、本物の靑柿社版『黒星團の秘密』テキストが閲覧できる「国会図書館デジタルコレクション」リンクも貼っておくから、湘南探偵倶楽部が復刊したほうの靑柿社版『黒星團の秘密』をお持ちの方は13頁を開いて13行目の四十八願という名の富豪の邸宅が、このリンク先にある本物の靑柿社版『黒星團の秘密』1211行目では玉置某となっているところ等を御自身の目で確認してほしい。


   国会図書館デジタルコレクション/靑柿社版『黒星團の秘密』大下宇陀児 (☜)

 

 

 

去年、大下宇陀児『黒星章』→『黒星團の秘密』の記事に着手した時にはまだ湘南探偵倶楽部を信じる気持が残っていたから「可能性は低いけど、もしかしたら靑柿社版のテキストにはヴァリアントが存在するのかもしれない」と書いておいた。しかし、今回の楠田匡介『マヒタイ仮面』でさえ明らかに(たとえごく一部とはいえ)内容改竄しているのだから、決してミスではない。確信犯だ。でなかったら、制作者の頭は相当ヤバイ状態にあるとしか考えられないではないか。

もしこんな風に書き変える必要があるのならば、なぜ理由を本の中に一言書いておかないのか。誠に失礼ながら、前回の記事で私が「頭がおかしいとしか受け取りようがない」と書いたのは、これだけの動かぬ証拠が上がっているからだ。

 

 

 

しかも『マヒタイ仮面』の新刊売価は驚くなかれ、なんと5,800円だよ。ボッタクリ価格な上に間違いだらけだと私以外の人からもこのリンク先を見よ指摘されている善渡爾宗衛の本並みだぞ。そりゃあ今、何でもかんでも物価が上昇しているさ。前回の記事で比較対象として掲げた横溝正史ファンの同人誌『偏愛横溝短編を語ろう』(2,500円)だって前に出ていた『ネタバレ全開! 横溝正史読書会レポート集』と比べて40頁増えて新刊売価が1,000円もアップしてる。

それが妥当な金額なのか私にはわからんけど、
あのミーハーな横溝ファンでさえテキスト入力はちゃんとやっているのに、
湘南探偵倶楽部がやっている事は著作権の侵害ではないのか・・・。
どのような目的でこんな事をしたのか、明らかにする義務が彼らにはある。


 

 

 

(銀) 湘南探偵倶楽部のアイテムは最初のうち内輪のメーリング・リストのみの扱いだったが今では盛林堂書房をはじめいくつかのミステリー専門古書店で販売されている。



楠田匡介の本名は小松保爾。現在の著作権継承者がどなたなのか残念ながら存じ上げない。大下宇陀児の著作権継承者は今もお元気なのであれば娘の木下里美さんから変更は無いと思われる。小松保爾氏の遺族そして木下里美さんとコンタクトが取れる方は、このようなやってはならない改竄行為が行われている事を大至急知らせてあげてほしい。



探偵小説の欲に目がくらんだ人間の頭の中はこんな風になっているんだろうか。
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲・・・・・ではなく、
金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金・・・・・と。





2022年10月18日火曜日

『マヒタイ仮面』楠田匡介②

NEW !

湘南探偵倶楽部叢書 臨増版4号
2022年8月発売



   テキスト崩壊



 前回の記事【① 湘南探偵倶楽部が販売してきたもの】からのつづきである。本日はいよいよ湘南探偵倶楽部が先月発売した同人本『マヒタイ仮面』(楠田匡介)の実態に踏み込む。
このところ彼らは楠田匡介の未刊ジュヴナイル作品を立て続けに刊行しており、今回はそれまでのサイズよりもグッとコンパクトなA5判に変更。全145ページ、梁川剛一の挿絵も収録。価格については次回の記事 にて記す。初出誌情報などは何も記載されておらず、ネットで調べたらこの作品は『少学六年生』昭和324月号から翌年3月号まで連載との情報があった。

 

 

 

 湘南探偵倶楽部が制作・販売する同人本は前回も書いたように、原本をそのままスキャン(コピー)して作られるのが主だったが、最近は自らテキストを打ち込んだ体裁の本も多くなり挿絵がある作品であればその部分を原本からカットアウト + 複写 + ペーストした紙面になっている。この『マヒタイ仮面』も同様。原本を1ページ1ページ丸のままスキャン(コピー)するのであれば見栄え的には問題無いが、PCを使ったテキスト・データ作りとなると、このレーベルの制作者は洗練された編集スキルを持っている人がいないのか文字組みが下手だったり、場面転換する箇所なら底本では改行して適当なスペースが空けられているはずなのに、それが全くなされていなかったり、旧漢字が意味もなく混じっていたり、はたまた漢字であるべき単語をひらがなのまま入力していたりと、非常に読みにくいこと甚だしい。

 

 

 

参考までに、これも最近横溝正史ファンの人達が自主制作した『偏愛横溝短編を語ろう』という同人誌があるので、それの紙面と『マヒタイ仮面』の紙面とを見比べてもらおう。画像クリックすると拡大して見ることができる。

       

               
              『マヒタイ仮面』の紙面



 
  
『偏愛横溝短編を語ろう』の書影と紙面

表紙だけでなく中のページもコーティングされているような良い紙質が使われており、
こちらはちゃんと校正がされ、誤字脱字なども無さそうに感じた。
『マヒタイ仮面』と同サイズのA5判/全104ページ/新刊売価2,000






Web上では伝わりづらいかもしれないが、『偏愛横溝短編を語ろう』の紙面はテキストが非常に読みやすく組まれているのに対し、『マヒタイ仮面』は文字間隔がギチギチで窮屈。もちろん、小説ではない前者と(ジュヴナイルとはいえ)れっきとした小説である後者を比べるのはフェアじゃないかもしれないが、どっぷり小説を復刊している盛林堂ミステリアス文庫あたりの紙面と比較してみても、湘南探偵倶楽部の本作りには素人っぽさが漂う。このようなPCの作業だと年齢が若い制作者のほうがテキパキ進められる傾向は確かにある。だがプロの出版人の仕事ではなくフツーの素人がやっている事なのだし、そこを問題にして責めているのではない。





同人本を作っている人のすべてが編集作業に秀でていたり良い印刷業者を使っている訳ではないから、本の見た目の多少の拙さには目をつぶるべきだろう。しかし、だ。この『マヒタイ仮面』のテキストの無惨なザマは決して他人様からお金を頂けるような代物ではない。いちいちページをめくり入力ミスを拾い出すなんて面倒臭くてイヤなのだけど、事実は事実として、このような本を買わされてしまう被害者が出ないよう世の中に伝えなければならない。善渡爾宗衛の作った本以上に発生している『マヒタイ仮面』の大量な入力ミスをここにお目にかける。


以下、上段の『マヒタイ仮面』の紙面上に入力されている文章。
下段のは正しい底本の、というか本来あるべき文章。
下線は私(銀髪伯爵)が記した。(私は底本となる『小学六年生』は一冊も所有していない)
頭を抱えるほどの数だから心して御覧頂きたい。

 

 

 

● は七日でまだ正月気分から     320行目

● 今日は七日でまだ正月気分から

 

 

● 「まあ、いいタクシーで帰ろう」     518行目

● 「まあいい、タクシーで帰ろう」

こういうミスは数えだすとキリがない。

 

 

● ころげ落ちたんです」     924行目

● ころげ落ちたんですか?」

この会話は木綿子の説明に対し警官が疑わしそうに問いかけている言葉なので、
語尾は〝ですか?〟でないとおかしい。

 

 

● してあったんです」「ですもの、ナンバーなんかで     108行目

● してあったんですもの、ナンバーなんかで

このように会話のカギカッコを置く位置ががメチャクチャだったり、〈、〉〈。〉など句読点の打ち方が間違っている箇所は全体にわたってあちこちに見られる。その他にも !(=感嘆符)が文字化けみたく ▢ となっている箇所もある。

 

 

● 「だれ一人いないが、    1119行目

● 「だれ一人いないが、」

 

 

● ギョとしたように     1124行目

● ギョとしたように

〝フフっ〟とされている箇所もある。
カタカナ小文字〝ッ〟の打ち方がわからないのだろうか?

 

 

● 1220行目から【死面(デスマスク)】という新しいチャプターが始まっているのに、改行さえされていない。

 

 

● あの時だって、まったまったくわからない話である。     1416行目

正しい文は何だったのか、さっぱり見当が付かない。

 

 

● さすが顔色を変えていた。     1423行目

● さすがに顔色を変えていた。

 

 

● さめてから聞いてみたが         1517行目

● 彼らの目がさめてから聞いてみたが

 

 

 「だっだってえ、     1610行目

 「だってえ、

 

 

● でたらめいうからさ ・ 幽霊が出るなんて・・・・・・」     172行目

● でたらめいうからさ。幽霊が出るなんて・・・・・・」

〈。〉でないとしたら〈、〉にすべきだろう。

 

 

● ずいぶんと古風なことを言って     189行目

● ずいぶんと古風なことを言って

 

 

● ミシリ・・・。と、また、     2212行目

なぜこの〝ミシリ〟という擬音に〝みしり〟とルビを振る必要があるのか?

 

 

● 《 っ。 っ。》     2314行目

28頁の記述からして、《フッ。フッ。》とするのが正しいと思われるのに・・・。

 

 

● 柱時計鳴る音もハッキリ聞いたわ」     289行目

● 柱時計の鳴る音もハッキリ聞いたわ」

 

 

● お世話にっております。どうぞ。」    297行目

● お世話になっております。どうぞ」

 

 

●  不平言う     3514行目

●  不平を言う

 

 

 「大原さん、会社?お父様だけ」(3527行目)という木綿子の問いのあとには大原運転手の返事が来るべきで、もしかすると一~二行分欠落している可能性もある(微妙)。

 

 

● とっくに此所には着いているはずである。     4218行目

● とっくに此所には着いているはずである。

 

 

● しい|んと静まり返っている。     447行目

● しいーんと静まり返っている。

 

 

● 考え込んでいた。とっ。少しずつわかってくるような     4524行目

地の文で〝とっ〟って何よ?

 

 

● みな殺しにする計画ためだったんです」     4724行目

● みな殺しにする計画のためだったんです」

 

 

● なにを夢見ていらっしゃる。     5716行目

● なにを夢見ていらっしゃる。

 

 

● 「あっ!と叫び声をあげた。     588行目

● 「あっ!」と叫び声をあげた。

 

 

● 獄門だがゆらいで竹竿が     6621行目

● 獄門台がゆらいで竹竿が

 

 

● 無気味さをいっそうにもちもちとくにかいしている。     755行目

???

 

 

● 「それより、あんたのことだわ?よ?」     768行目

● 「それより、あんたのことだわよ」

 

 

● 逃げ出す工夫をしなくっちゃ。     7710行目

● 逃げ出す工夫をしなくっちゃ。

 

 

● ないわけなでしょう。     782行目

● ないわけないでしょう。

 

 

● 三浦君がそう言っ。     7915行目

● 三浦君がそう言って、

 

 

● 見たことがある?と知らせてくれた。     8715行目

● 見たことがあると知らせてくれた。

 

 

● 五つの良夫をのぞく寝台の人は、     922行目

楠田匡介ジュヴナイルのレギュラー・キャラ小松良夫少年が五歳ってことはありえないし、
五つめの寝台という意味ではないのか?

 

 

● 殺人犯がこの船に今乗っているんですよ。     9513行目

この時点で小松良夫たちの一行はまだ寝台列車に乗っている筈なのに、
〝この船〟などと訳わからんセリフが飛び交っている。

 

 

● 明日の朝森入港まであと三時間です。     9517行目

● 明日の朝青森駅到着まであと三時間です。

 

 

● 杏子はノート取っている。     968行目

● 杏子はノートを取っている。

 

 

● 「あれっえ!」杏子ちゃんが悲鳴を上げた。     992行目

● 「あれえっ!」杏子ちゃんが悲鳴を上げた。

 

 

● 剛造氏が書いた肖像画あった。     10025行目

● 剛造氏が書いた肖像画があった。 

 

 

● 金田一耕助のような吃音が特徴の漫画家・金近たかしがチビ連隊に話しかける際にはいつもタメ口だったのに、【マヒタイ族】のチャプター(101頁~)になると、なぜか丁寧なですます調に変っているのが不自然。おそらくは104頁に登場する豊福鉱山の案内人の口調とごっちゃにしてしまっている。

 

 

● 日本のとがった木の枝     1055行目

● 二本のとがった木の枝

 

 

● かなり金近さんのグループを詳しいようだ。     1071行目

● かなり金近さんのグループを詳しいようだ。

 

 

● 尊敬の目で改めて見るのった。     1166行目

● 尊敬の目で改めて見るのだった。

 

 

● 行く方向示すものです。     1252行目

● 行く方向を示すものです。





(銀) これ程までにテキストが崩壊状態の本をシレッと売る者がいて、それを読みもしないかあるいは何も気付かずにワッショイしている莫迦が現実に存在しているのである。まあ楠田匡介のストーリー執筆、そして『小学六年生』編集部の校正無視ともどもやっつけ仕事な訳だから、上に挙げた事例のうち湘南探偵倶楽部の責任ではない箇所も、あるにはある。それにしたって、入力したテキストがこんなんなっているのに、どうして彼らはデータが打ちあがった時点で再度見直しをしたり、あるいは印刷業者から本が出来上がってきて売りに出す前に一冊でもチェックしようとしないのか?悪いけど頭がおかしいとしか受け取りようがない。


この擁護のしようがない数の入力ミスばかりか、湘南探偵倶楽部の本作りにはそれ以上の悪質な疑いが発覚している。その疑いとは? 


次回の記事  ③  へつづく。