城昌幸の短篇集は、同じ作品があっちの本にもこっちの本にも入っている重複収録が多い。平成以降にリリースされた書籍で、「若さま侍捕物手帖」などの時代小説やジュヴナイル『ハダカ島探検』を除くと彼の探偵小説関連本は次の三冊があり、そこに収められている作品を書き並べてみた。複数の本に亘り収録が重複しているものは色文字で示している。
ↇ 『怪奇製造人』(国書刊行会
〈探偵クラブ〉 平成5年
「脱走人に絡る話」「怪奇製造人」「その暴風雨」「シャンプオオル氏事件の顛末」
「都会の神秘」「神ぞ知食す」「殺人淫楽」「夜の街」「ヂャマイカ氏の実験」
「吸血鬼」「光彩ある絶望」「死人の手紙」「人花」「不思議」「復活の霊液」
「面白い話」「猟奇商人」「幻想唐艸」「まぼろし」「スタイリスト」「道化役」
「その夜」「その家」「絶壁」「猟銃」「波の音」「ママゴト」「古い長持」
「異教の夜」「大いなる者の戯れ」
ↇ 『死人に口なし』(春陽文庫
〈探偵CLUB〉) 平成7年
「死人に口なし」「燭涙」「復活の霊液」「人花」「もう一つの裏路」「三行広告」
「大いなる者の戯れ」「間接殺人」「操仕立因果仇討」「想像」「見知らぬ人」
「二人の写真」「その暴風雨」「怪奇の創造」「都会の神秘」「神ぞ知食す」
「夜の街」「切札」「殺人淫楽」「ジャマイカ氏の実験」「シャンプオール氏事件の顛末」
「秘密を売られる人々」「七夜譚」「東方見聞」「薄暮」「妄想の囚虜」「鑑定料」
「宝石」「月光」「晶杯」
ↇ 『城昌幸集 みすてりい』(ちくま文庫
〈怪奇探偵小説傑作選4〉) 平成13年
第一部 みすてりい
「艶隠者」「その夜」「ママゴト」「古い長持」「根の無い話」「波の音」「猟銃」
「その家」「道化役」「スタイリスト」「幻想唐艸」「絶壁」「花結び」「猟奇商人」
「白い糸杉」「殺人婬楽」「その暴風雨」「怪奇製造人」「都会の神秘」「夜の街」
「死人の手紙」「模型」「老衰」「人花」「不思議」「ヂャマイカ氏の実験」
「不可知論」「中有の世界」
第二部
「脱走人に絡る話」「シャンプオオル氏事件の顛末」「秘密を売られる人々」
「妄想の囚虜」「宝石」「月光」「晶杯」「七夜譚」「神ぞ知食す」「此の二人」
「罪せられざる罪」「吸血鬼」「良心」「宝石匣」「恋の眼」「宝物」
「七人目の異邦人」「面白い話」「夢見る」「ハムレット」「宿命」「もう一つの裏」
「桃源」「影の路」「分身」「実在」
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さて、当Blogでは過去に何回か城昌幸について記事にしている。
その際、彼が生前に発表した短篇集の中から、特に理由も無く私が選んだ二冊がこちら。
書名をクリックすると別ウィンドウで立ち上がります。
(『婦人警官捕物帖』は趣きが異なるので今回の対象から除外)
リンク先の記事を踏まえ、本日の主題となる昭和22年の単行本『夢と秘密』に入っている作品も見て頂く。この色文字の短篇は、上記『怪奇製造人』もしくは『みすてりい』のどちらかに収録されている。
ↇ 『夢と秘密』(日正書房) 昭和22年
「寶物」「面白い話」「最後の夢」「七人目の異邦人」「東方見聞」「その二人」「鑑定料」
「寶石」「月光」「神ぞ知食す」「夜の街」「晶杯」「祕密を賣られる人々」「七夜譚」
色文字になっていない短篇も、その殆どは冒頭に挙げた国書刊行会版『怪奇製造人』/春陽文庫版『死人に口なし』/ちくま文庫版『城昌幸集 みすてりい』のいずれかで読むことができる。『夢と秘密』所収「その二人」と、ちくま文庫版『城昌幸集 みすてりい』所収「此の二人」はタイトルが似ていてまぎらわしいが、これらは別の作品だ。
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城の探偵小説短篇も数に限りがあるとはいえ、こうしてみると無駄にダブリが多い。別に「一作たりとも重複させるな」とか、そんな無茶は言わないけれど、10月に創元推理文庫から発売されるという城昌幸・短篇集二冊(藤原編集室・編)の内容が、またも桃源社版『みすてりい』+α、牧神社版『のすたるじあ』+αと聞いて、どうにも私は首を傾げてしまう。
確かに桃源社版『みすてりい』は城自ら気に入った短篇をセレクトした、傑作選の名にふさわしい本だけど、あれはちくま文庫版『城昌幸集 みすてりい』にそっくりそのまま再録されていた訳でしょ?ただでさえ重複が多いのに、また桃源社版『みすてりい』をベースとした新刊を出すって、商売として上手いやり方とは思えないな。
上段の収録内容比較をよく見てもらいたいのだが、『夢と秘密』に入っている「最後の夢」なんかは、平成以降の本には一度もセレクトされていない。さらに『夢と秘密』と同じ昭和22年に刊行された単行本『美貌術師』(立誠社)所収の九短篇「美貌術師」「自殺倶楽部」「運命を搬ぶ者」「大いなる幻影」「妖しい戀」「夢の女」「影の運命」「嘘の眞實」「おまん様の家」に至っては、本日の記事にて紹介しているどの城昌幸の本にも入っていない。酷い出来で読むに値しないというならともかく、なぜ新刊で読めるようにならないのか理解に苦しむ。
こういうのって読む側の利益を無視した、編者間/出版社間での不毛な縄張り争いでもあるのかねえ。あるいは東京創元社が藤原編集室に「その作家の代表作をゼッタイ押さえておかなきゃ、昭和前期の日本探偵作家の本は出さしてやらないよ」とか言ってプレッシャー掛けているとか。いつもおんなじ作品ばかりでなく、色々なものを読めるようになったほうが、ユーザーは喜ぶと思うのだが。
(銀) いっそ『大坪砂男全集』みたいに、城昌幸の探偵小説短篇を全てコンプリートする本を企画したほうが良かったかも。多く見積もっても、文庫四冊分あれば十分網羅できるだろ。でも今、紙のコストが高くなっているから、きっと東京創元社のお偉いさんが「城昌幸ひとりに四冊も出せるか!」とガミガミ怒って却下するだろうけど。
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