2023年11月11日土曜日

『梅花郎』黒岩涙香

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大川屋書店
1942年6月発売



★★★★    毒女の企み





これはフランスを舞台にした物語です。
梅花郎とはなんだか〝真珠郎〟みたいな名前ですけれど、べつに彼は社会へ復讐するため世に放たれた人間バチルスでも何でもないノーマルな青年紳士でして、夜会の折に知り合った村津家の令嬢・小枝に恋心を抱いており、また小枝のほうも梅花郎を憎からず思っています。

 

 

小枝には初音という腹違いの姉がいるのですが、こいつが小枝とは全く対照的なビッチで腹黒いことこの上なく、時には男さながら馬を乗り回し、自分の欲しいものならどんな手段を使ってでも手に入れようとする、名状しがたき毒女に他なりません。

 

 

さて梅花郎ですが、骨牌で勝利し大金を得た無二の友・蝉澤が目の前で何者かに銃殺された為、警察は完全に梅花郎を殺人犯だと決め付けます。監獄行きは免れますが、梅花郎を新しい情人にしようと舌舐めずりしている初音はその事件以来、まるで蛇のように彼にまとわりつき始めるのです。

 

 

ここにもう一人、油断ならぬ放蕩者・森川子爵を紹介しておかなければなりません。森川はギャンブルの不正を指摘され、梅花郎を逆恨みしています。初音は梅花郎を手中に収めるため、この森川をも利用して小枝を陥れようとするのですが、ここから先は(現行本で流通していないので古書を探すしかありませんが)どうぞ小説をお読み下さい。

 

 

 

目を剥くようなトリックや意外性は見られませんし、梅花郎が濡れ衣を着せられるからといって法廷劇に向かう話でもありません。小枝嬢の下女・撫子の活躍にやや頼りすぎているよう感じさせられる点なんかは、黒岩涙香が原作の筋にアレンジを加えてもよかったんじゃないかなと思いますが、終盤に来て一旦クライマックスを迎えつつ、さらにもう一波乱起きる二段構えの展開が待っています。古めかしささえ苦手じゃなければ、一気に読めるサスペンスは持ち合わせている作品です。

 

 

 

(銀) 「梅花郎」は涙香作品の発表順でいうと「海底の重罪」と「片手美人」の間に位置しており、まだ二十代前半での執筆。そんな若さも影響しているのか、この辺の作品は(魚に例える訳じゃないけど)活きの良さが伝わってくる。