一昔前だと、こういう乱歩本の類いは山前譲/新保博久、あるいは本多正一によって企画・編纂されるのが常だった。それが今では中公文庫の編集部が・・・時代も変わったものだ。
江戸川乱歩が参加した対談・鼎談・座談の数は決して少なくないのに、それらは殆ど乱歩全集へ収められていない。私などずっと「乱歩の対談・鼎談・座談集を出してくれないかな~」と夢想してきたのだが(このBlogでも言いましたっけ?)、小説・随筆と異なり第三者の権利も絡んでくるためか乱歩著書として集成されず、どこかの雑誌・単行本に単発収録されるのみ。それを考えれば、本書がリリースされることで、これまでの停滞状況から一歩前進したと言えよう。
Ⅰ 座談
▶ 探偵小説座談会(1929年)
大下宇陀児/甲賀三郎/濱尾四郎/森下雨村
▶ 明日の探偵小説を語る(1937年)
海野十三/小栗虫太郎/木々高太郎/末広浩二
2015年~『「新青年」趣味ⅩⅥ/特集 江戸川乱歩・谷崎潤一郎』(☜)に再録
▶ 乱歩氏を祝う(1954年)
木々高太郎/戸川貞雄/城昌幸/中村博
▶ 探偵小説新論争(1956年)
木々高太郎/角田喜久雄/中島河太郎/春田俊郎/大坪砂男
1974年~『宝石推理小説傑作選2』(いんなあとりっぷ社)に再録
▶ 文壇作家「探偵小説」を語る(1957年)
梅崎春生/曽野綾子/中村真一郎/福永武彦/松本清張
1974年~『宝石推理小説傑作選2』(いんなあとりっぷ社)に再録
▶ 「新青年」歴代編集長座談会(1957年)
城昌幸/延原謙/本位田準一/松野一夫/水谷準/森下雨村/横溝正史
1985年~『復刻版新青年別冊』(国書刊行会)に再録
Ⅱ 対談・鼎談
▶ E氏との一夕 稲垣足穂(1947年)
▶ 幽霊インタービュウ 長田幹彦(1953年)
2016年~『怪談入門/乱歩怪異小品集』(平凡社ライブラリー)(☜)
他にも再録文献あり
▶ 問答有用 徳川無声(1954年)
1989年~『江戸川乱歩推理文庫64/書簡対談座談』(講談社文庫)
他にも再録文献あり
▶ 幸田露伴と探偵小説 幸田文(1957年)
2012年~『増補 幸田文対話(下)』(岩波現代文庫)に再録
▶ ヴァン・ダインは一流か五流か 小林秀雄(1957年)
1989年~『江戸川乱歩推理文庫64/書簡対談座談』(講談社文庫)
他にも再録文献あり
▶ 樽の中に住む話 佐藤春夫/城昌幸(1957年)
2016年~『怪談入門/乱歩怪異小品集』(平凡社ライブラリー)(☜)
他にも再録文献あり
▶ 本格もの不振の打開策について 花森安治(1958年)
2016年~『KAWADE夢ムック 花森安治 増補新版』(河出書房新社)に再録
厭人癖が強く内向的だった戦前の乱歩が、座談会に出ても口数が少ないのは当然。世の編集者が乱歩の対談・鼎談・座談をセレクト+再録するにあたり、それを気にして多弁で社交的になった戦後のトークばかり選んでしまうのも解らないではない。しかし人嫌いな乱歩のほうが好ましい私にとっては、どれだけ発言が少なかろうとも、重い腰を上げてそんな場に出て来ている彼の胸の内を深読みするのが楽しいし、他の戦前探偵作家たちにしても、時にはパブリック・イメージからはみ出すような実にinchmateなトークを交わしており、今となっては貴重(特に小栗虫太郎とか)。
今回のように文庫本一冊で収めるべく、数ある座談・対談・鼎談の中からバランスよくセレクトすれば、誰がやっても大抵こんな感じに落ち着くのだろう。とはいえ巻末に載っている「探偵小説に関する江戸川乱歩の主な座談・対談一覧」を見てしまうと、わりとよく再録されがちな戦後のものは極力避けてほしかった気もする。
先日の記事(☜)で、「もし城昌幸の短篇集を文庫で二冊出すのなら、いっそ彼の探偵小説短篇をコンプリートしたものを数冊刊行してくれたほうが嬉しい」と書いた。それと同じで乱歩の座談・対談・鼎談も完全網羅してほしいけれど、文庫でも単行本でも結構なボリュームになるから「売りにくい」と言って出版社の営業部は嫌がるかもしれない。でも、普通の探偵作家ならともかく大乱歩だからね。マイナー作家の小説復刊と比べてもトントン、いやそれ以上売れる可能性は十分ある。
『江戸川乱歩座談』、正直そこまで満足のゆくセレクトではなかったが、前半の座談パートには他で再録している本・雑誌の無いものが含まれているばかりでなく、内容としてもやはり面白いので★1つ加えた。