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桃源社
1963年12月発売
★★★★★ 手に持った時の独特な本の重み
先日は凝った装幀の本にスポットライトを当てるべく先進社/世界怪談叢書『怪談 獨逸篇』を取り上げたが、今日は城昌幸のこの本をピックアップ。城と言えば城左門名義による戦前の詩集からして、第一書房・三笠書房・版画荘あたりの瀟洒な本作りをする出版社を起用していた書物のスタイリスト。本書は彼の作家人生後期を代表する一冊である。
現代の函入りハードカバー本では感じられないずっしりとした重みがあり、函・堅表紙・帯だけでなく見開きから紙面上の文字に至るまで、全ての色合いが微妙なバランスの水色で統一されている。
昭和38年の本ゆえテキストは現代仮名遣い。2000年以降は例えば藍峯舎の本に見られるような意図的に旧仮名テキストで制作された新刊もあったりするのだが、そんな戦前風の得も言われぬ洒落た雰囲気を醸し出す目的で、わざと旧仮名遣いにするという考えは、昭和~平成前半ではまだ、一歩間違えれば単なるアナクロで時代錯誤な表現に受け取られる惧れがあったり、また植字の作業も面倒だったりで、それを実行しようとする人はほぼ居なかったのではないか。そういう世の中の傾向さえなければ、本書は旧仮名遣いで出されてもおかしくはなかった。
収録作品はいわゆる怪奇幻想ショートショート、戦前の作から戦後の作まで混在している。
僅かに例外こそあれ、殆どの短篇において登場人物たちはハッキリした苗字/名前を持たされていない。城の神秘の世界の中で、名前なんていうものは無用の長物でしかないのだ。
「艶隠者」「その夜」「ママゴト」「古い長持」「根の無い話」「波の音」
「猟銃」「その家」「道化役」「スタイリスト」「幻想唐艸」「絶壁」「花結び」
「猟奇商人」「白い糸杉」「殺人婬楽」「その暴風雨」「怪奇製造人」
「都会の神秘」「夜の街」「死人の手紙」「模型」「老衰」「人花」「不思議」
「ヂャマイカ氏の実験」「不可知論」「中有の世界」
跋(江戸川乱歩)
あとがき
(銀) この『みすてりい』という本の当時の定価は八〇〇円。本書の巻末には「桃源叢書」と題された、桃源社刊行物の中で高額な豪華本にあたるアイテムが紹介されている(澁澤龍彦『黒魔術の手帖』『毒薬の手帖』『世界悪女物語』、大場正史/訳『千夜一夜の世界』『好色文学入門』)。これらの定価もやはり八五〇円
~ 一,〇〇〇円といったところ。
桃源社が出していたその頃の新刊では、江戸川乱歩が昭和36年に出した自伝『探偵小説四十年』は定価が一,三〇〇円もする。参考までに、桃源社から同時期刊行されていた大乱歩・生前最後の『江戸川乱歩全集』(ソフトカバー仕様)一冊あたりの定価が二六〇円。それと比べて、城の『みすてりい』の定価は約三倍強、『探偵小説四十年』の定価は五倍。贅沢な本は一部のセレブリティーだけに許された特権なり。