昭和38年の本ゆえテキストは現代仮名遣い。2000年以降は例えば藍峯舎の本に見られるような意図的に旧仮名テキストで制作された新刊もあったりするのだが、そんな戦前風の得も言われぬ洒落た雰囲気を醸し出す目的でわざと旧仮名遣いにするという考えは昭和~平成前半ではまだ、一歩間違れば単なるアナクロで時代錯誤な表現に受け取られる惧れがあったり植字の作業も面倒だったりで、それを実行しようとする人はほぼ居なかったのではないか。そういう世の中の傾向がなければ、本書は旧仮名遣いで出されてもおかしくはなかった。
収録作品はいわゆる怪奇幻想ショートショート、戦前の作から戦後の作まで混在している。僅かに例外こそあれ、殆どの作品において登場人物たちはハッキリした苗字/名前を持たされていない。城の神秘の世界の中で名前なんていうものは無用の長物でしかないのだ。
「艶隠者」「その夜」「ママゴト」「古い長持」「根の無い話」「波の音」
「猟銃」「その家」「道化役」「スタイリスト」「幻想唐艸」「絶壁」「花結び」
「猟奇商人」「白い糸杉」「殺人婬楽」「その暴風雨」「怪奇製造人」
「都会の神秘」「夜の街」「死人の手紙」「模型」「老衰」「人花」「不思議」
「ヂャマイカ氏の実験」「不可知論」「中有の世界」
跋(江戸川乱歩)
あとがき
桃源社が出していたその頃の新刊を眺めれば、江戸川乱歩が昭和36年に出した自伝『探偵小説四十年』は定価が一,三〇〇円もする。参考までに、桃源社から同時期刊行されていた大乱歩生前最後の『江戸川乱歩全集』(ソフトカバー仕様)一冊あたりの定価が二六〇円。それと比べて城の『みすてりい』の定価は約三倍強、『探偵小説四十年』の定価は五倍。贅沢な本は一部のセレブリティーだけに許された特権なり。