続く昭和12年『ぷろふいる』誌での海野十三を司会とした、乱歩・小栗虫太郎・木々高太郎の座談会が無類に面白い。それぞれの自作や海外探偵作家を論じ合ったり、今後の作品の方向性を引き出そうとしたり。中でも虫太郎が「チェスタートンのやうに易しく言へることを諄々難しく云ひ廻すなんて作家は・・・」と洩らすくだりは爆笑もの。「お前が言うか!」みたいなツッコミどころだ。
乱歩・横溝正史・西田政治の連句「『桜三吟』についての考察」での村上裕徳らしい着目点と解読は存在感がひとつ抜けている。小説よりもむしろ映像などの副産物やコスプレのほうが大好きで一日中 twitter しかしておらず、正史ファンとは名ばかりの角川ブーム・オタとはネタの扱いひとつとっても100万光年の開きがある。夢野久作未発表草稿「大下宇陀児・江戸川乱歩会見印象記」や、乱歩の男色研究の友・岩田準一による創作短篇収録とその解説も良し。サブ特集は潤一郎だが、せっかく最新の中央公論新社版全集が配本中なのだから、それに触れてほしかった。
ヴォリュームが増してゆくのは嬉しいが各記事・原稿の質に差があって、やや散漫な感じもなくはないし、12号以前のバックナンバーの方がキュッと纏りがあった気がする。で、リクエスト。いまだ巻頭で取り上げられていない甲賀三郎・大下宇陀児・木々高太郎を特集してもらいたい。評論の俎上に載らない/載せにくい三人だけど、そろそろ本誌でも扱われていい。心待ちにしている。
(銀) 覚えている人は少ないかもしれないが〈論創ミステリ叢書〉には前身があって、それは〈ミセレニアス・コレクション〉という名称だった。『新青年』研究会が仕掛けた最初の本は88年の『「新青年」読本』(作品社)だったかな。その後、彼らが叢書の形で出したものといえば90年代前半に博文館新社からリリースされた〈新青年叢書〉。これは第一期の全五巻を出して完結している。
その数年後に改めて企画されたのが〈ミセレニアス・コレクション〉。02年末に出た『「新青年」趣味 Ⅹ』にはこの叢書の趣意書が掲げられているので、興味ある点を紹介しておこう。
●「毎度お馴染みの傑作選」ではなく、「著名作家の落ち穂拾い」でもない。
● 対象となる具体的な作家は、石浜金作/海野十三/大倉燁子/片岡鉄兵/国枝史郎/甲賀三郎/小酒井不木/辰野九紫/濱尾四郎/久山秀子/正木不如丘/水谷準/三津木春影/森下雨村/渡辺啓助などが挙げられている。第一回配本は『濱尾四郎未刊行随筆集(仮題)』を予定。
〈ミセレニアス・コレクション〉は『「新青年」趣味 』のように同人出版扱いで出す予定だったのかもしれないが、その企画を論創社が引き受けたので、これなら全国の書店にも流通できる。こうして仕切り直したものが〈論創ミステリ叢書〉として03年秋にスタート。コンセプトはほぼそのまま引き継がれているものの「あれ?」と思ったのは、「落ち穂拾い」というコンセプトを最初は否定していること。のちに横井司は「論創ミステリ叢書には落ち穂拾い的な意味合いもある」と発言していたけどね。
〈ミセレニアス・コレクション〉のうち国枝史郎と三津木春影のように、末國善巳の監修による姉妹叢書として作品社から出された作家もある一方、予定リストから消えていった作家もいる。〈ミセレニアス・コレクション〉趣意書で挙げられていた予定作家のうち石浜金作/片岡鉄兵/辰野九紫の三名はいまだ他社においても単独著書としての新刊は出ていない。また論創ミステリ叢書の最初の頃、刊行予定一覧に入っていたサトウ・ハチロー/川田功/川上眉山もいつの間にか影も形も無くなっている。この辺になると、さすがに論創ミステリ叢書で出したとしても読者のストライク・ゾーンからは遠そうだし、止めて正しい選択だったと思う。