2016年7月28日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
平凡社ライブラリー 東雅夫(編)
2016年7月発売
★★★★ 乱歩教授、真夏の怪談講座
怪談文学の雄・東雅夫による乱歩本。かつて2005年に角川ホラー文庫より発売されるも、映画のタイアップだったせいで短命に終わった『火星の運河』の再編・拡大版。
冒頭に「火星の運河」「白昼夢」「押絵と旅する男」の傑作三短篇を、戦前の平凡社版『江戸川亂歩全集』を底本にして収録。旧仮名遣いこそ本来あるべき正しい表現で、遠雷のような乱歩のドロドロ太鼓を存分に堪能できる。
そして随筆パートを「懐かしき夢魔」「怪談入門」に分け、前者は乱歩自身の〝 怖いもの 〟への尽きせぬ想いを、後者は国内外の怪談小説をモーパッサン・ウェルズ・マッケン・ラブクラフト・萩原朔太郎・谷崎潤一郎・香山滋ほか多数、駄菓子屋でラムネを飲むようなどこか懐かしい味わいの語りで紹介。これは平井太郎(乱歩の本名)教授による極上の怪談講座といって差し支えない。巻末には、怪談に纏わる3つの座談(三島由紀夫・佐藤春夫・長田幹彦ほか)。
著作権が切れ、各出版社が紙・電子書籍でやたら乱歩本を濫造するも、従来からの乱歩読者には残念ながらこれはというものがない。本書はその中でも数少ない良いもので、乱歩世界を的確に表現している中川学のカバー絵を含め、乱歩や怪談小説にこれから踏み込もうとするビギナーにお薦めするにはぴったり★5つなのだが、既存の乱歩本をあれこれ揃えている方々には目新しい(=単行本初収録)コンテンツがひとつもないのが惜しい。強いていうなら、名義貸しでなく珍しく乱歩本人が翻訳したといわれるポオの「赤き死の仮面」が本書で手軽に読めるようになった点は good。(2012年に藍峯舎より限定豪華本として、初めて乱歩訳「赤き死の仮面」は単行本収録された)
以前、東雅夫が手掛けていた学研M文庫「伝奇ノ匣」シリーズは名状し難い素晴らしさだった。彼にはもっと日本の探偵小説寄りの仕事をしてほしいと思っている。三上於菟吉や畑耕一の、東雅夫編集による本の刊行を是非検討してもらえないだろうか?
(銀) 東雅夫が、自分が作る本の活字のフォントの種類までこだわっているのはいつも感心する。平凡社ライブラリーは選書らしくなくて大好きなレーベルなんだけど、毎年一冊リリースされるこのシリーズ、泉鏡花 → 内田百閒 → 宮沢賢治 → 佐藤春夫 → 江戸川乱歩(本書)→ 夢野久作 → 谷崎潤一郎 → 小川未明 → 三島由紀夫という流れで、どれも既に全集の存在する大家しか扱ってくれない。
表立ってクレジットしてないけれど版元は〈文豪小品シリーズ〉と呼んでいるようだし、それが東のやりたい案なのか、平凡社から「メジャーな作家だけでやって下さい」と希望されているのかはわからないけれど、マニアックな作家を取り上げるつもりは一切無さそうなのでガッカリ。ただ私のような欲張りな事を望まないのであれば一冊一冊の内容は実によく出来ている。