2023年9月24日日曜日

『黒岩涙香探偵小説選Ⅱ』黒岩涙香

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論創ミステリ叢書 第19巻
2006年9月発売



★★★    やっぱ長篇のほうが読みがいがある
   


   
収められているのは短篇オンリー。
解題を担当しているのはいつもの横井司ではなく小森健太朗。





「幽霊」

オリジナルの作品は不明。英国/軽目田村の郷士・竹生義成の妹・お塩は二十になる美人だが、ろくでなしの軽目田夏雄と恋仲になってしまい、周囲の大反対もむなしく彼らは結婚して米国へ発つ。出だしの雰囲気だと不幸の果て命を落として幽霊になるのはお塩だとばかり思ってしまうけれども、話はあらぬ方向へ。怪談としても因果応報ものとしても煮え切らぬ内容。

 

 

「紳士の行ゑ」

巴里府マレー区の豪商・塩田丹三が失踪した。この事件を担当する散倉老人は人をおちょくったような探偵なのだが、本作のオリジナルはガボリオの短篇「失踪」で、散倉老人は「ルルージュ事件」に出てくるタバレの翻案キャラ。保険金犯罪なれども涙香の別作品「生命保険」とは無関係。

 

 

「血の文字」

本書の中では最も枚数がありダイイング・メッセージが題材だし、これと上記「紳士の行ゑ」は涙香作品の中では推理味が強いとあって評価が高いらしい。オリジナルはやはりガボリオの「バチニョルの小男」、探偵役・目科とはメシネ氏を翻案したキャラ。小森健太朗によればガボリオ原作にはちょっとした矛盾があり、その点涙香が(完全に解消したとまではいかなくとも)補筆して解りやすくしているのだそう。へえ~、ただ勢いに任せて書いてるんじゃないんだな。

 

 

「秘密の手帳」

単行本初収録。原作不明ゆえガボリオのものかどうかも解らないとのこと。殺されし女優の顔が見分けも付かぬ無惨な状態になっているところなど、ミステリ読者が喰い付きそうな美点はそれなりに備わっている。


 

 

 

残りはかなり短いものばかり。


「父知らず」

現代でもよく見る、凶悪殺人犯が心神喪失というので無罪になるパターン。ブラックなオチ。

 

「田舎医者」

薬局が間違えて処方した薬を受け取った女。彼女は帰路暴漢に襲われ、その薬を暴漢の顔へ投げつけたところ・・・。

 

「女探偵」

2ページしかないショートショート。

 

「帽子の痕」

メシネーという人物が出てくるので「血の文字」と同じメシネ氏らしいがここでは翻案名が目科にはなっておらず、オリジナルがガボリオのどの作品なのかも判明していない。メシネが絡んでいることもあってか論理性は無くはないが、この短さでは物足りなさも。

 

「間違ひ」

名にし負う瞞引(まんびき)王の小咄。

 

「無実と無実」

私の好きでない実話系である上、未完なのでノー・コメント。

 

その他〈評論・随筆編〉として、「探偵談と疑獄譚と感動小説には判然たる区別あり」「探偵譚について」を収録。


 

 

さすがに掌篇がズラズラ続くと読んでてかったるい。黒岩涙香に何を求めるかにもよるが、もしもアナタが血沸き肉躍る涙香節を堪能したいのであれば、こういった短篇は小粒すぎて向いていない。迷わず長篇を読みましょう。

 

 

 

(銀) 涙香も2000年代に何冊かチョロっと新刊が出たあと、復刊の動きは全然無い。伊藤秀雄の後継者になってくれそうな人材がいないのか・・・。




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