2024年9月9日月曜日

『拳銃無法地帯』九鬼紫郎

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川津書店
1959年1月発売



★    どこを褒めたらいいのやら




今となってはどれもこれも完全に忘れ去られた作品とはいえ、かつて九鬼紫郎の著書は(別名義も含め)それなりの数が存在していた。彼が戦後に発表した小説の中には私立探偵・白井青児を主人公とするハードボイルド・スリラーがあり、『拳銃無法地帯』も白井青児シリーズに属する長篇である。

 

 

東洋探偵社の一員である白井青児は、上司・伊東権之助の指令で横浜へ。一代で財を成し、横浜銀行/蚕糸会/雨宮貿易/横浜商工会議所などを牛耳りハマの実力者と云われている雨宮米太郎には吉夫という息子がいる。吉夫は雨宮貿易の東京支店長を務めていたのだが、この春から地元横浜に戻り、父の経営する新聞社『横浜タイムス』の社長に就任。悪政の大立者やギャング集団を一掃すべく強力なキャンペーンを打ち出していた。

 

 

雨宮吉夫から名指しで白井青児は横浜に呼ばれたのだが、雨宮邸にて青児が吉夫の帰宅を待っているその時刻、吉夫は何者に銃弾を撃ち込まれて死んでいた。話も聞かぬうち依頼者が殺されてしまったことで逆に闘争心が湧いてきた青児は『横浜タイムス』社会部記者・相良武夫に接触。吉夫を殺した人間を探す事で、ハマの悪の巣を調べ始める。

 

 

私立探偵は出てきても探偵趣味と呼べる要素は無い。出だしのほうはともかく、後半はタイトルどおりドンパチが多くなって私の好みから離れてゆく。なんでもいいから一つでも光るところがあれば★2つにしたのだけれど、白井青児をはじめ各登場人物にこれといった特色が感じられないし、文章的に味があるかと言えばそうでもない。結末に至るまで、ちょっとでも気を引くような山場がある訳でもなく、ストーリーが平坦で弱い。

 

 

この種の貸本小説は一切再発されないまま今日まで至っているため異常に古書価が高騰したりもするが、内容が内容だし、復刊の需要が起きないのもやむを得ないと思う。ハードボイルドでもアクションものでも、どこかにチャーム・ポイントさえあれば、いつか誰かが再評価を促したりするかもしれないが、こういう作品がいくら探偵小説のジャンルの一部として扱われていても、私の読書の対象にはなりにくい。これなら「あぶない刑事」でも観ていたほうがずっと楽しめるもんね。






(銀) 以前の記事(下段のリンク先を見よ)にも書いたけれど、九鬼紫郎はわりとワーカホリックな人なのか、様々な編集の仕事に携わっているし、昭和20年代後半頃からは時代小説も数多く手掛けている。いま必要なのは彼の作品復刊より、キャリアの全体像を掴むことができる評論なのかもしれない。





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