2020年8月23日日曜日

『乱歩彷徨/なぜ読み継がれるのか』紀田順一郎

2011年11月11日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

春風社
2011年11月発売



★★★★   「怪人二十面相」謎の休載の裏に2・26事件の影


   


この歳になって紀田順一郎が江戸川乱歩評論を上梓するとは思わなんだ。そして予想以上に充実した内容にちょっと驚き。





『探偵小説四十年』に「負」の情報の隠蔽があるのを喝破したのは中相作だったが、中氏がwebサイト『名張人外境』で長年検証してきた手法が本書に活かされているところもある。例えば『探偵小説四十年』にてスルーされた、矢留節夫が戦後の乱歩をジリ貧だと評したコラムに着目。こういう、乱歩が自著に残していない情報は得てして乱歩評論から抜け落ちてしまうもの。


ジュブナイル第一作「怪人二十面相」を初出誌『少年倶楽部』と単行本のテキストとで比較し、連載の進行に伴う乱歩の執筆意識の変化と取巻く当時の黒い世相、そこから意外な盲点を炙り出す。この第二部は本書中、圧巻の面白さだ。


ただ少年探偵ものの嚆矢とされる「怪人二十面相」には、先行して発表された佐川春風(=森下雨村)の「怪盗追撃」(戦前ヴァージョン)によく似た場面がいくつもある。この「怪盗追撃」は古書でもなかなか読めないうらみがあり紀田も気づいていない。「怪人二十面相」、必ずしも全てにおいて革新的とは言えない事実を、今後誰かが新たな評論としてものするのを待ちたい。






そして乱歩戦後最大の敵を松本清張と置く。私など所詮清張ごときは坂口安吾と同様、他ジャンルからミステリ界にたまたま足を踏み入れただけの作家としか思っていないのだけど、清張が「お化け屋敷」と揶揄する探偵小説は二時間ドラマネタの社会派ミステリなんぞよりもしぶとい固定ファンの支持があるからね。おっと、175頁の「偕成社」は「ポプラ社」のミス。

 

 

本書が生まれたとなれば2009年神奈川近代文学館「大乱歩展」の意義も大きかったと喜びたい。必読の乱歩評論が一冊加わった。






(銀) 手応えのある内容だったのでAmazon.co.jpレビュー投稿時には★5つにしたけど、この本の初版は本当に間違いが多かった。それも『江戸川乱歩語辞典』みたいなゴミ・レベルの本ならともかく、紀田順一郎の著書にこんなミスがあってはいかんだろ。




いちいち細かいこと言いたかないけど、近頃は論創社の本まで平気で誤字だらけだったり、ましてや毎日twitterとヤフオクしかしていなくて単に長年横溝正史にパラサイトしているだけの木魚庵みたいな人間が『金田一耕助語辞典』の制作やNHKの番組に呼ばれるご時世。一体どこまでプロフェッショナルのいない世の中になってゆくんだろうな。




そんなことだからスマホ無しでは生きていけないアタマの悪い連中には「本なんて誤植やミスが数か所あってもフツーでしょ?」みたいな考えがまかり通るんだよ、ったく。少なくとも探偵小説関連の書籍にだけは今以上〈誤植やミスだらけの本〉が増えてほしくないので、本書も厳しく★1つ減点した。紀田順一郎もいよいよ老いてしまったのか、春風社の校正担当者が仕事のできない人間だったのか、定かではないけれど。