大下宇陀児もそうだが、とにかくかなりの作品数が存在する。戦後に一度だけ全集が刊行されているが漏れているものが多すぎ。この甲賀全集は復刻がされているものの、いわゆる図書館本で価格高すぎの上、文字も読み難いとくる。甲賀三郎シリーズ・キャラには獅子内俊次・木村清・葛城春雄・手塚龍太・土井江南などがあり、それぞれがどの作品に登場しているのか一度完全に整理しないとよくわからない程だ。
江戸川乱歩とは逆に「質より量」的に見られることも多く、探偵小説が好きな人にとって魅力的な物々しいタイトルのわりにはショボい内容の作品もあるけれど、そんな中から本書は良いものだけ選りすぐっている。
■ ニッケルの文鎮
■ 悪戯
■ 惣太の経験
■ 原稿料の袋
■ ニウルンベルグの名画
■ 緑色の犯罪
■ 妖光殺人事件
■ 発生フィルム
■ 誰が裁いたか
■ 羅馬の酒器
■ 開いていた窓
現行本では論創社『甲賀三郎探偵小説選』創元推理文庫『黒岩涙香・小酒井不木・甲賀三郎集』が入手し易い。春陽堂の初刊本復刻『琥珀のパイプ』『恐ろしき凝視』も探せば見つかるはず。春陽文庫『妖魔の哄笑』は新聞連載されたスリラー長篇だが、出来はもうひとつ。甲賀の弱点は詰めが性急で書き飛ばしているように見えてしまうところ。やっぱり気短な性格なんだろうか?もっと作品数を絞って一作一作じっくり練り上げるような老獪さがあったら・・・。
(銀) 2015年以降、商業出版でも同人出版でもようやく甲賀の本がポツポツ刊行される動きが出てきた。やっと「姿なき怪盗」も現行本に入った。その「姿なき怪盗」が収録された『甲賀三郎探偵小説選 Ⅳ』へ私が書いたAmazon.co.jpのカスタマー・レビューに対し、twitterを使ってカラんできた人間がいた。
この〝ゆーた〟とかいう人物のことがネットの某所に書かれているのを見た覚えがある。しょっちゅうtwitterで手持ちのレアな探偵小説古書を自慢するのが生きがい、入手難な同じ本を何冊も買うほど金を投入している輩らしく、pikamakのIDというかまれすけのwebネーム(☜)でヤフオクに出没しているそうだ。そういう人種はいくらでも甲賀の稀覯本を買えるからいいのだろうが、家庭を持ち、ごく普通の生活を送っている読者にそんな金は無いし、論創ミステリ叢書一冊だって財布に痛い人はいるに違いない。そんな甲賀ファンのため、現行本には一作でも多く甲賀作品を載せるのがごくノーマルな考えというものではないのか。
そしていかにも他人の文章をちゃんと読んでいないネット民らしい短絡的な言だが、私は甲賀三郎をミスターやジョンと同等のスーパースターという意味で書いたのではない。大衆から見た、親と子に対するかけ離れたニーズの差を喩えて引き合いに出したのだ。そのツイートを受けて〝Genei-John〟と名乗っている野地嘉文が「稲富さんが深草作品を収めた気持ちには共感します。別に藤雪夫・藤桂子と同等の扱いをしている訳ではないと思う」と呟いていた。
『緑色の犯罪』『甲賀三郎探偵小説選 Ⅲ』『Ⅳ』の私のAmazonカスタマー・レビューを読んでもらえれば解るとおり、『Ⅳ』の甲賀作品セレクト・解題執筆を担当した稲富一毅に対して敬意を払いこそすれ、一言もケチなどつけていない。私はこの〝ゆーた〟や野地嘉文がネットであれこれホザき出すよりずっと以前、稲富氏の乱歩・甲賀ファンサイト立ち上げ時から彼のHPを興味深く閲覧させてもらってきた。
それに「別に藤雪夫・藤桂子と同等の扱いをしている訳ではない」というが、私は「深草作品を世に出すな」なんて言っている訳じゃない。わざわざレビューの中には書かなかったが、深草氏の未発表作を世に出すのなら、甲賀の本じゃなくて深草淑子単独名義で出せばいい。それは同人出版になるかもしれないけれど。
なんかしょーもない連中のお相手に終始してしまった・・・・この『緑色の犯罪』は面白いし、甲賀三郎デビューとして一冊目に読むにはピッタリ。是非多くの人に読まれてほしい。