ROM(=Revisit Old Mysteries)という、ハンパなくマニアックな海外ミステリ好きの人達の会がある。このROM叢書はそこから発刊されている同人出版本なので、普通の書店や通販サイトにて入手できるものではないが、渕上痩平訳によるオースティン・フリーマン「オシリスの眼」「キャッツ・アイ」の完訳版などはROM叢書で出されたあと、ちくま文庫の一般発売にも発展している。
本書の翻訳者・小林晋は以前よりレオ・ブルースの普及活動に邁進してきた人で「冷血の死」はレオ・ブルースのシリーズ・キャラクター/上級歴史教師の素人探偵キャロラス・ディーンが登場する二番目の事件。ちなみにこのところ、その悪行(?)が注目されている盛林堂書房でもROM叢書の少部数の販売はされているが、先日の当Blog記事に取り上げた盛林堂関係者のROM叢書制作への関与は(とりあえず)無し。
では事件のシチュエーションから触れていこう。記事左上にupした、本書の書影画像をご覧頂きたい。こんな具合に海上に鉄骨で建てられた桟橋があって、ウィラル老人はそこで釣りをしていた。実際、物語の中では桟橋の脇に海面へと降りる階段が存在、海面には別に浮き桟橋もある。この、一見オープンエアなクローズド・サークルと思わせる現場の特殊さが怪しげなだけに、(本書表紙のイラストはあくまでROM叢書制作サイドがイメージしたものと思われるし)作者のレオ・ブルースが十分な桟橋周りの図を入れてくれてたらより解り易かったのだが、それが無いってことはきっと原書にも見取図は載ってなかったのだろう。
前半はよくある本格物の型どおり退屈な聞き取りが続く。作者はそれも計算尽くのようで、地元警察がキャロラス・ディーンに「素人が出しゃばるのはやめろ」とイヤミな注意をするそのあたりから潮目が変わり、徐々にテンションが上がってゆくからご安心を。(本作では最後まで警察はキャロラスに好意的な態度を見せない)
ある人物が小屋で殺害されているのを発見したキャロラスは非協力的な警察を抱き込み、真犯人をおびき寄せる餌を捲くところなどは前半のダルさを一掃してくれる見せ場なのだが、終わってみると「この犯人がゆえの動機としてはどうも書き方が貧弱だなア」とか、「え、犯人もう其処で諦めちゃったんだ?」などと感じる局面もある。私が学園ミステリを好きじゃないからかもしれないけど、キャロラスが勤める学校の出しゃばり生徒プリグリーは一種のコメディ・リリーフなんだろうが、このガキの存在もちょっとウザイ。校長センセイはいいんだけどさ。
何度もいうけど前半は鈍重だし、ちょいちょい出てくるウィラル老人の遺産分配問題についてもその配分一覧がドーンと読者に表示されないのはどうなのよ?とか、不満はいろいろあるけれど終盤のサスペンスの印象は良かったのでそれほど悪い読後感ではなかった。ただ、解説執筆者はもっと他のROM会員に担当してもらいたい。
(銀) これからレオ・ブルースを読もうと思っている方へ。本作にはキャロラス・ディーン・シリーズの前作にあたる「死の扉」の肝心な部分について平気で言及されているので(な、なんでよ?)、できれば『死の扉』(創元推理文庫)を先に読んでから本作、という風に順番に読み進めていったほうが、知りたくない事を知ってしまって愕然となる悲劇(?)を避けられます。