この項では「芹沢家殺人事件」及びジョン・ディクスン・カーのある短篇のトリックに言及した文章を書いています。どちらとも既読の方ならばOKですが、どちらか一方でも未読という方にはネタバレとなってしまいますので、ここから下は決して読まないで下さい。
「ゴルゴ13」の数あるエピソードの中で、デューク東郷の正体に迫る物語のことを〈ルーツ編〉と呼ぶ。おしなべて〈ルーツ編〉は通常のエピソードよりも人気が高いのだが、本項にて扱う「芹沢家殺人事件」は特に読者投票をすればゴルゴ全エピソードにおける人気第一位を獲得してもおかしくないほど熱烈な支持を受けてきた。
敗戦から一年近く経った日本。芹沢という一家の主と四人の息子達が無残に射殺される事件が起きた。警察が駆け付けた現場の芹沢邸では、血の海となった部屋で五男にあたる幼い芹沢五郎が泣きじゃくっているだけ。兇器の拳銃は裏庭の井戸から発見されるが、肝心の五郎少年は事情聴取を受けても無言でうなだれたまま。そして芹沢家の疑わしい点が次々と浮上してくる。
① 事件の一週間前、芹沢家の母親が何者かに殺され水死体で発見されていた
② 芹沢家の住人のうち、末っ子のひろ子と唯一の使用人である老婆くめは
事件直後行方不明に
③ 芹沢家は豊かな生活を送っていたが、その財源は一切不明
④ 芹沢家の男子は戦争中だれも軍隊へ召集されていない
ひろ子の行方も突き止められぬまま、佐久間茂造とくめ、芹沢家ゆかりの二老人がいずれも遠方から後頭部を一発で撃ち抜かれて射殺される。安井と後藤は拘束した芹沢五郎の犯罪を証拠不十分で立証できず彼を釈放、そして五郎は海外へと逃亡するが・・・。
最後の最後になってゴルゴの存在が表に出てくるが、顔写真一枚だけで Gは結局その姿を一度も見せることがないという、この際立った演出が実に効果的。
よく「猟奇色の濃いストーリー」と絶賛される「芹沢家殺人事件」のミステリ的なハイライトは密室でのひろ子消失。おとといカーの「妖魔の森の家」を取り上げたので、トリックが共通するこちらも是非紹介してみたくなった訳だが、同じ人間消失でも「妖魔」より「芹沢家」のほうが跡形も無く事を処理するので、足が付きにくいのはこちらだろう(昔は科学的な捜査メソッドが現代ほど進化していない点に留意)。
(銀) 初期の「ゴルゴ13」は本当に面白い。しかし以前話題になったのだが、ゴルゴは世界中どころか宇宙にまで行っているのに、朝鮮半島(北朝鮮・韓国)を舞台にしたエピソードはどうして皆無なのだろう?この件だけ抗議が怖くて、さいとう・たかをの腰が引けているとは思いたくないのだが。