2020年9月7日月曜日

『東京創元社文庫解説総目録/1959.4-2010.3 (付・資料編)』

2010年12月21日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

創元推理文庫  高橋良平 + 東京創元社編集部(編)
2010年12月発売



★★★★★   キュートな作りの二冊函入り Anniversary 文庫




見た目がいまどき文庫では珍しい二冊函入なのが本好きにはたまらない。味もそっけもない電子書籍では絶対に味わえない楽しみだ。



東京創元社文庫創刊50周年記念と銘打ち、今まで刊行された書籍を一挙紹介。一冊目1000頁越えの「文庫解説総目録」。書店の創元推理文庫コーナーによく置いてある文庫サイズの『解説目録』をミステリ・ファンなら誰でも一度は手にとったことがあると思う。あれの50年分コンプリート。毎季の『解説目録』と違い、この本には現在の在庫状況は載ってないのでそこは注意。後半500頁は作品・著者名索引。

 

 

さてさて私はこっち目当てで購入した二冊目が「資料編」。ハヤカワとの翻訳権をめぐる攻防、若い読者には理解し難いであろう昭和20年代までのミステリーの社会的地位の低さとの戦い等、インタビュー・座談・アンケートを中心に貴重な逸話が満載。

 

 

レアな月報やPR誌からの掲載もあり江戸川乱歩が三本の座談に参加。「西洋怪談を語る」では「幽霊は怖くはない」発言を繰り返し、目に見えないものの恐怖に関心が強いあたり乱歩の資質が見え隠れする。この三本は過去の乱歩著書に未収録と思うので要チェック。ただ、「資料編」の影の主役は長年東京創元社で活躍した厚木淳(2003年没)であると言えよう。あまりボリュームが増えすぎるのもナンだけれど、『創元推理』とかは目次内容を省かず収録しても良かったんじゃないかな?

 

 

戸川安宣が現場を退いてからの東京創元社に、日本の探偵小説の刊行がすっかり少なくなったのはどうしたものか。噂された渡辺温・大坪砂男は未だ出ないけれども、初出挿絵を付した『乱歩傑作選』文庫シリーズは是非再開してもらいたい。やたら文字を大きくして頁数(そして値段)を水増しした現代の文庫は行間が無くて逆に読み難い。創元推理文庫は他社のようなそういうセコい小細工をしないところがいい。私はハヤカワより断然東京創元社派だ。





(銀) 私がハヤカワより創元が好きなのは前者が殆ど日本の探偵小説の扱いが無いこともあるけど、やっぱポケミスのせいだと思う。ハヤカワ・ポケット・ミステリ(Hayakawa Pocket Mystery Book)略してポケミス(HPB) 、そこでの村崎敏郎という悪名高い翻釈者の、ちっともこなれた日本語になっていない訳文を読んでられなくて。たった一冊だけならまだしも村崎の訳した本はポケミスで何冊も出てるし、学生の頃マジで勘弁してくれと思ったもんだ。それ以来早川書房にはあまり良い印象が持てない。(当Blog 2020年7月17日ノ項 ☜ モ見ヨ)

 

 

渡辺温・大坪砂男は全集扱いの立派な内容でその後無事リリースされているが、『乱歩傑作選』の続巻はもとより木々高太郎さえ出やしない。


 

それより何より「2000年頃に噂のあった江戸川乱歩-横溝正史往復書簡集はいったいどうなったんだ?」と声を大にして東京創元社に問いたい。やるつもりが無いのであれば速やかに藍峯舎にでも譲ったらどうよ? このまま放置しておいたら戸川安宣・元社長も高齢でそんなに時間は残されていないし、今のうやむや状態をなんとかしないと乱歩-正史書簡集の話は完全消滅してしまうぞ。