2022年3月15日火曜日

舞台のジェレミー・ブレット・ホームズ ― Jeremy Brett at London in 1989-

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♧ たった一度だがロンドンへ旅行した事がある。19892月後半、ちょうどエルヴィス・コステロがシングル「Veronica」とアルバム『Spike』をリリースしたばかりで、地下鉄駅構内のニュー・リリース広告がとても目を引いたのを鮮明に覚えている。ケンジントンの快適な宿を拠点に友人とLIVEを観に行ったり、ポートベローのマーケットで中古レコードを沢山買ったり、あの頃ザ・スミスはもう解散していたけれど音楽業界にまだギリギリ活気や面白さが残っていて、旅のメインの目的は音楽だった。




日本を発つ前からその公演の存在を知っていた訳ではなく、ロンドン市内を歩いていて偶然発見したと思うのだけれど、グラナダTVのドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』に出演していたホームズ役のジェレミー・ブレットと二代目ワトソン役エドワード・ハードウィックが二人芝居で舞台版ホームズをちょうどやっていて。件のドラマは当時日本でもNHKで放送されてたから、ジェレミー・ブレット・ホームズの魅力はあまりミステリに詳しくない人にも浸透していたぐらいだし、「これは観てみたい」と思ってチケットを購入、幸運にも彼らの生の演技を体験する事ができた。その旅行中に撮影した紙焼き写真が出てきたので、名優ジェレミー・ブレットをこの目で観たロンドンの想い出を辿ってみるとしよう。







 今この記事を書きながら、グラナダTVドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』のサウンドトラック輸入盤CDBGMとして流している(ジャケットは記事左上の画像を見よ)。このCDも聴くのはいつ以来だっけ。そういえばこのCDを買った時には M1Opening Theme(ドラマ冒頭で流れるあの短い曲)がオンエア・ヴァージョンとは微妙に違うテイクだったので物足りなく感じたもんだが、たまにこういうクラシックっぽいサントラを聴くと新鮮に聴ける。




19892月/ロンドンの風景














































ダブルデッカーにジェレミー・ブレット・ホームズの舞台の広告が・・・









  


  
  
♧ この舞台版ホームズのプログラムは持っていたのだが人に譲ってしまって、観たのはどこのホールで日付はいつだったかハッキリわからない。
ネット情報から推測するとホールはWyndham's Theatreだろうか。ジェレミーのwikipediaを見て確認したのだが、この舞台のタイトルは『The Secret of Sherlock Holmes』。演じられる内容は221Bの室内を中心としたホームズとワトソンの会話劇。劇中、ベッドで寝ているホームズがモリアーティ教授の悪夢を見るシーンもあったと記憶する。



我々はなんとなく吹き替えの露口茂の声のホームズを頭の中に思い浮かべてしまうが、ドイルの書いた原作だとホームズの声は時として甲高くもある。この頃日本では字幕/ノーカット版のグラナダTVシリーズはまだ観ることができなかったんじゃなかったっけ? 生で聞くジェレミー・ブレットの声は(あたりまえだが)露口茂のシブイ低音とは相当違ったけれども、その後改めてホームズを読み返し、声の面でもジェレミーのキャスティングは原作を正しく意識していたんだなと再確認できた。



あまり綺麗に写ってないけれど、カーテンコールのジェレミー(ホームズ)とエドワード(ワトソン)をどうぞ。舞台もいいけど、なんせヨーロッパでしか見られない円柱型の風格あるホールが美しい。


          



























86年ぐらいからジェレミーの体調は悪化する兆しがあったそうなのだが、生で見たジェレミーは発声などにも特に問題は無く、エドワードもしっかりジェレミーの熱演を受け止めていた。のちに投薬の影響で太ってしまうジェレミー。だが画像を見てもらえればわかるとおり、この時の彼はイメージどおりの比類無き名探偵だった。




♧ 安易に映像化されるミステリに対し、殆どの場合において「良い」と思えたためしが無い。シドニー・パジェット挿絵のホームズそのままに、原作に忠実であるのを厳守して始まった筈のグラナダTVシリーズでさえ、後半になるにつれてジェレミーのシルエットが持病で崩れてゆくだけでなく、脚本も原作から脱線気味になり本当に残念だった。それでもなお、良い時のジェレミーが演じるシャーロック・ホームズについてはお見事としかいいようがない。惜しくも彼は95年に亡くなってしまったが、89年のロンドンでの楽しい想い出と共に、名優の輝きは今でも色褪せる事は無い。




(銀) 機上から見下ろしたロンドンの街並み。今はどう変わっているのか知り得ないが、こうして見ると、東京と違って妙な高層ビルとかが無いぶん不思議と長閑さが感じられた。もう三十年ほども昔の話である。