本書を開きページをめくっていると、湘南探偵倶楽部が十年ちょっと前に発刊をほのめかしていた『邦訳探偵小説書影&作品目録』のことを思い出す。それは言うなれば、1945年以前に日本で翻訳された様々な探偵小説の叢書を網羅して見せるもので、古書に通じていないと、この目録を具現化するのがどれだけ難行な事か、普通の人には想像もつかないだろう。
各叢書の本の書影/データをできうる限り一斉に見せるコンセプトの『邦訳探偵小説書影&作品目録』、最初は単行本として出すという噂を耳にしていたのだが、結局各叢書の扱いをバラにしてしまった上、製本された形ではなくペラペラのコピー用紙に複写しただけの紙資料をクローズドな範囲で頒布するにとどまってしまう。事前に予告していた16回分の紙資料すべて出すことができたのか、私は確認していない。
それまでにも湘南探偵倶楽部は『初期創元推理文庫 書影&作品 目録』という力の入った私家本を制作している。こちらはちゃんと印刷業者によって製本されたものだったし、何度かアップデート版が再発されるほど一部の人々の間で好評を博した。当初の目論見どおり『邦訳探偵小説書影&作品目録』も一冊の立派な単行本として発売されていれば、戦後の翻訳叢書をフォローしている今回の『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション』と対になって私は有難かったのだが、現在の湘南探偵倶楽部はペラペラのコピー紙資料ばかり売るようになってしまった。彼らに何があったのかわからないが残念だ。
『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション』は目録ではないから、各叢書のそれぞれの書影が全てズラッと並んでいる訳ではないが、読み物として申し分の無い一冊に仕上がっている。私の読書範囲にヒットする章は【異色探偵小説選集】【六興推理小説選書】【クライム・クラブ】ぐらいだけれども、これは戦後の日本で翻訳される作品の対象が〈警察小説〉とか〈サスペンス〉ものとか、〈ハードボイルド〉あるいは〈冒険小説〉など多方面に拡散していくため、やむを得ない。