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同光社出版
1959年8月発売
★★★★ 刑事二人、猟奇犯罪に挑む
時代の流れの中で人々の記憶からほぼ消え去ってしまった風習/表現/固有名詞の数々が、本書にはあちこち飛び交っている。幾つか拾ってみよう。
◆ 鳩の街
戦前の帝都東京で私娼窟の街といえば玉の井だったが空襲で焼かれてしまった。その後、玉の井の業者達が移ってきて営業を始めた赤線地帯のこと。
◆ 戦場でのコンドーム
なぜ戦地にコンドーム?これは本来の使用目的である避妊具としてではなく、川や海へ入る際に眼鏡や時計を濡らさぬよう、今でいうジップロックみたいな用途で、コンドームの中にしまっていたそうだ。
◆ 坐棺
旧い日本の土葬といえども、寝棺での埋葬を思い浮かべてしまいがち。私などは坐棺といえば、即身仏になろうとする僧が閉じ篭る棺のイメージがあったが、家族に訊くと我が家の曽祖父までは坐棺で埋葬していたらしい。調べてみたら寝棺というのは火葬に適した形式であって、かなり昔の日本においては坐棺のほうが主流だったみたい。私の好むジャンルの小説には土葬のシーンがたまに出てくるので、これから注意して読んでみるつもり。
「四十八人目の女」
「謎の窒息死」
「浴槽の怪屍体」
「屍体紛失」
「幽霊の屍体」
「拳銃を持つ女」
「俺は殺さない」
「犯人は誰だ」
「首のない屍体」
「連続殺人」
「冷凍美人」
警視庁捜査一課の刑事・吉川と宇野のコンビが十一の事件を捜査、つまりそれぞれ独立した一話完結の短篇十一作によって構成されている。若い宇野(三十歳未満)は先輩にあたる部長刑事・吉川(四十二歳)の良き相棒で、いつも一緒に行動。またエピソードによっては ❛六歌仙の兄い❜ という綽名の『帝都日報』新聞記者・狼谷保秀が吉川・宇野コンビに絡み、スクープを狙って事件にガンガン首を突っ込む。
ハンカチで汗を拭き拭き、足を棒にして駆けずり回り、夜は馴染みの店で一杯。そんな泥臭い刑事像が描かれていても、鬱陶しい人情味の押し付けは無いから助かる。鮎川哲也の鬼貫警部ものほどトリック/論理が追求されるでもなく、なんだか猟奇犯罪実話のエキスを巧妙に創作探偵小説に取り入れている錯覚に陥ってしまいますな。
そんな訳で、推理の面白みよりは(この記事の冒頭にて述べたような)風俗面のほうが目立ってしまうけれども、シチュエーションこそ犯罪実話風とはいえ、吉川・宇野・狼谷の気のおけない軽口の応酬なんかもあって、創作ものでしか成し得ないノリは十分感じ取れる。
(銀) 東都我刊我書房の酷い復刊本で鷲尾三郎がさんざん愚弄されたように、楠田匡介も湘南探偵倶楽部の同人本にて、ありうべからざるテキスト改竄の被害を受けている。その一部始終は下段の関連記事より御覧頂きたい。
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