2022年10月17日月曜日

『マヒタイ仮面』楠田匡介

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① 湘南探偵倶楽部が販売してきたもの



 Blogではプリント・オン・デマンドとか商業出版とか同人出版とか関係なく、捕物出版/大陸書館に論創社、そしてなによりも盛林堂書房周辺で販売している善渡爾宗衛の制作する本が購買者をまったく馬鹿にした杜撰なテキストであること、特に善渡爾宗衛の本作りは話にならぬレベルであることを忖度無くレポートしてきた。だが、善渡爾宗衛の酷さを超えるぐらい読むに堪えない本が作られ非常識な金額で売られている事実が今回また新たに判明。その内容を正しくお伝えするため数回の記事に分けて発信したいと思うので、そのつもりでお読み頂きたい。

 

 

 

 神奈川県在住の奈良泰明という(かなり高齢と思われる)人物がいる。この人はヤフオクがまだyahooオークションという名称だった頃から探偵小説関連古書を毎週出品 + 販売していて、遊楽洞の屋号を名乗っていたが古本屋を営業しているでもなく、森英俊のように世間で売られている珍しい古本をセドリしてきて転売しているようにも見えず、それなのに稀少かつ状態の良い古本を長い間売り続ける事ができていたから「なんでこの人は本を手元に置かずヤフオクで処分しまうのだろう?」と私はずっと不思議に思いつつ観察していたものだ。

 

 

 

2012年頃だったろうか、この奈良氏とはまた別のヤフオクIDを使用している松澤勲という人物が一緒になって、湘南探偵倶楽部というレーベル名で探偵小説関連の同人出版本の販売を始めた。つまり奈良・松澤両氏のヤフオクIDにてお得意様だった古本落札者への各連絡先をメーリング・リストにして、ごく内輪の好事家向けに通信販売を始めたという訳だ。昔のヤフオクは取引ナビなんて機能がまだ無くて、出品者も落札者もおのおののメールアドレスから住所・電話番号まで全部明らかにされるシステムだったから、そういう事も可能だったのである。

 

             

 

 湘南探偵倶楽部の最初期のアイテムとしてすぐ思い浮かぶのは、(もしかしたら『初期創元推理文庫 書影&作品 目録』のほうが先だったような気もするが)フィリップ・マクドナルドがマーティン・ポーロック名義で発表した「殺人鬼對皇帝」を『新青年』が1939年に掲載した井上良夫の翻訳(本日の記事の冒頭に掲げてある書影がそれにあたる)


湘南探偵倶楽部が刊行した『殺人鬼對皇帝』のテキストは、底本である雑誌『新青年』をそのまま挿絵ごとコピーというかスキャンして印刷されており、スキャンの際に取りこぼしミスでもない限り、復刊本としてテキスト・ミスなど発生のしようがない作りになっていた。この時はレーベル・スタートの餞だったのか新保博久が解説を寄せていて、その部分だけは制作者がPCでタイピングしている。盛林堂が自分の店でも同人出版本を出すようになるのは翌2013年。今にして思い返すと湘南探偵倶楽部は今世紀に入って通販の形で継続的に探偵小説やSF関連の同人本を制作販売する〝先駆け〟だったかもしれない。

 

 

 

湘南探偵倶楽部着目する作品は昭和初期以前の海外ミステリ翻訳本が多く、中では戦前の黒白書房「世界探偵傑作叢書」や春秋社版翻訳探偵小説あたりの復刊が特に印象深い。彼らの同人本というのはおそらく原本を裁断・分解しキレイにスキャンして作られており原本そのままの装幀が再現され、かつテキストも当時の旧仮名のままの状態だったから、製作者がテキスト入力する際にやりがちなタイプ・ミスなど起こりようがないのはアドバンテージであった。


                                                        

    当時の『新青年』の紙面をそのまま転載して制作された『殺人鬼對皇帝』
             98ページ/新刊売価1,300



ただ、遠慮なしに原本を都合よく丸のままスキャンしているから、果して彼らは著作権を守っているのだろうかという疑惑も無くはない。戦前の探偵小説全集の附録である月報等を復刻したりもしているが、それは製本などされておらずホントウに只のコピーに過ぎない。また現在に至るまで、印刷業者がキチンと製本するカタチではなく、まるで会議に使われる資料のような、印刷されたままのペラペラ用紙を綴じただけのものもレーベル開始時から平気で販売されていて、「こういうのって・・・。」と私は首を傾げざるをえなかった。


最近では束(つか)のある製本された本よりも、その手の複写コピーばかりを販売し、本というより紙資料みたいなものに1,000円以上のありえない売価を付けて売っているので、いつしか私は醒めた目で湘南探偵倶楽部を見るようになっていた。



                     

          『銀座不連續殺人事件』大河内常平

      たった26ページのペラペラ紙資料に売価3,300円って・・・
            いったいどれだけの利益が?   



更に湘南探偵倶楽部の本はたとえキチンと製本されたものでも、後発同人出版と比べると細かいところでクオリティに見劣りがする。それは制作者が自分で仕込むテキスト・データの作り方が拙いからなのか、それともそのデータを受け取って製本作業を行う印刷業者の質がよろしくないのか・・・。たぶん前者だと私は見ている。ではどういったところに見劣りが?そしてどういう風に酷いテキスト入力がなされていたのか?今回の記事の題材である湘南探偵倶楽部の最新刊『マヒタイ仮面』(楠田匡介)について、次回以降の記事にて細かく見ていきたい。




(銀) 奈良泰明/松澤勲両氏のヤフオクIDは承知しているが、ここには書かないでおく。またその他にも湘南探偵倶楽部の関係者と思しき人物がヤフオク上にはちらほら見受けられる。近頃は以前と違って、古書を売るというより論創社から送られてくる「論創海外ミステリ」や「論創ミステリ叢書」の最新刊献本分、あるいは湘南探偵倶楽部刊行物の売れ残りをヤフオクに出品しているようだ。



次回の記事 つづく。