2022年10月18日火曜日

『マヒタイ仮面』楠田匡介

NEW !

湘南探偵倶楽部叢書 臨増版4号
2022年8月発売



    ② テキスト崩壊



 前回の記事【① 湘南探偵倶楽部が販売してきたもの】からのつづきである。本日はいよいよ湘南探偵倶楽部が先月発売した同人本『マヒタイ仮面』(楠田匡介)の実態に踏み込む。
このところ彼らは楠田匡介の未刊ジュブナイル作品を立て続けに刊行しており、今回はそれまでのサイズよりもグッとコンパクトなA5判に変更。全145ページ、梁川剛一の挿絵も収録。価格については次回の記事 にて記す。初出誌情報などは何も記載されておらず、ネットで調べたらこの作品は『少学六年生』昭和324月号から翌年3月号まで連載との情報があった。

 

 

 

 湘南探偵倶楽部が制作・販売する同人本は前回も書いたように、原本をそのままスキャン(コピー)して作られるのが主だったが、最近は自らテキストを打ち込んだ体裁の本も多くなり挿絵がある作品であればその部分を原本からカットアウト + 複写 + ペーストした紙面になっている。この『マヒタイ仮面』も同様。原本を1ページ1ページ丸のままスキャン(コピー)するのであれば見栄え的には問題無いが、PCを使ったテキスト・データ作りとなると、このレーベルの制作者は洗練された編集スキルを持っている人がいないのか文字組みが下手だったり、場面転換する箇所なら底本では改行して適当なスペースが空けられているはずなのに、それが全くなされていなかったり、旧漢字が意味もなく混じっていたり、はたまた漢字であるべき単語をひらがなのまま入力していたりと、非常に読みにくいこと甚だしい。

 

 

 

参考までに、これも最近横溝正史ファンの人達が自主制作した『偏愛横溝短編を語ろう』という同人誌があるので、それの紙面と『マヒタイ仮面』の紙面とを見比べてもらおう。画像クリックすると拡大して見ることができる。

       

               
              『マヒタイ仮面』の紙面



 
  
『偏愛横溝短編を語ろう』の書影と紙面

表紙だけでなく中のページもコーティングされているような良い紙質が使われており、
こちらはちゃんと校正がされ、誤字脱字なども無さそうに感じた。
『マヒタイ仮面』と同サイズのA5判/全104ページ/新刊売価2,000






Web上では伝わりづらいかもしれないが、『偏愛横溝短編を語ろう』の紙面はテキストが非常に読みやすく組まれているのに対し、『マヒタイ仮面』は文字間隔がギチギチで窮屈。もちろん、小説ではない前者と(ジュブナイルとはいえ)れっきとした小説である後者を比べるのはフェアじゃないかもしれないが、どっぷり小説を復刊している盛林堂ミステリアス文庫あたりの紙面と比較してみても、湘南探偵倶楽部の本作りには素人っぽさが漂う。このようなPCの作業だと年齢が若い制作者のほうがテキパキ進められる傾向は確かにある。だがプロの出版人の仕事ではなくフツーの素人がやっている事なのだし、そこを問題にして責めているのではない。





同人本を作っている人のすべてが編集作業に秀でていたり良い印刷業者を使っている訳ではないから、本の見た目の多少の拙さには目をつぶるべきだろう。しかし、だ。この『マヒタイ仮面』のテキストの無惨なザマは決して他人様からお金を頂けるような代物ではない。いちいちページをめくり入力ミスを拾い出すなんて面倒臭くてイヤなのだけど、事実は事実として、このような本を買わされてしまう被害者が出ないよう世の中に伝えなければならない。善渡爾宗衛の作った本以上に発生している『マヒタイ仮面』の大量な入力ミスをここにお目にかける。


以下、上段の『マヒタイ仮面』の紙面上に入力されている文章。
下段のは正しい底本の、というか本来あるべき文章。
下線は私(銀髪伯爵)が記した。(私は底本となる『小学六年生』は一冊も所有していない)
頭を抱えるほどの数だから心して御覧頂きたい。

 

 

 

● は七日でまだ正月気分から     320行目

● 今日は七日でまだ正月気分から

 

 

● 「まあ、いいタクシーで帰ろう」     518行目

● 「まあいい、タクシーで帰ろう」

こういうミスは数えだすとキリがない。

 

 

● ころげ落ちたんです」     924行目

● ころげ落ちたんですか?」

この会話は木綿子の説明に対し警官が疑わしそうに問いかけている言葉なので、
語尾は〝ですか?〟でないとおかしい。

 

 

● してあったんです」「ですもの、ナンバーなんかで     108行目

● してあったんですもの、ナンバーなんかで

このように会話のカギカッコを置く位置ががメチャクチャだったり、〈、〉〈。〉など句読点の打ち方が間違っている箇所は全体にわたってあちこちに見られる。その他にも !(=感嘆符)が文字化けみたく ▢ となっている箇所もある。

 

 

● 「だれ一人いないが、    1119行目

● 「だれ一人いないが、」

 

 

● ギョとしたように     1124行目

● ギョとしたように

〝フフっ〟とされている箇所もある。
カタカナ小文字〝ッ〟の打ち方がわからないのだろうか?

 

 

● 1220行目から【死面(デスマスク)】という新しいチャプターが始まっているのに、改行さえされていない。

 

 

● あの時だって、まったまったくわからない話である。     1416行目

正しい文は何だったのか、さっぱり見当が付かない。

 

 

● さすが顔色を変えていた。     1423行目

● さすがに顔色を変えていた。

 

 

● さめてから聞いてみたが         1517行目

● 彼らの目がさめてから聞いてみたが

 

 

 「だっだってえ、     1610行目

 「だってえ、

 

 

● でたらめいうからさ ・ 幽霊が出るなんて・・・・・・」     172行目

● でたらめいうからさ。幽霊が出るなんて・・・・・・」

〈。〉でないとしたら〈、〉にすべきだろう。

 

 

● ずいぶんと古風なことを言って     189行目

● ずいぶんと古風なことを言って

 

 

● ミシリ・・・。と、また、     2212行目

なぜこの〝ミシリ〟という擬音に〝みしり〟とルビを振る必要があるのか?

 

 

● 《 っ。 っ。》     2314行目

28頁の記述からして、《フッ。フッ。》とするのが正しいと思われるのに・・・。

 

 

● 柱時計鳴る音もハッキリ聞いたわ」     289行目

● 柱時計の鳴る音もハッキリ聞いたわ」

 

 

● お世話にっております。どうぞ。」    297行目

● お世話になっております。どうぞ」

 

 

●  不平言う     3514行目

●  不平を言う

 

 

 「大原さん、会社?お父様だけ」(3527行目)という木綿子の問いのあとには大原運転手の返事が来るべきで、もしかすると一~二行分欠落している可能性もある(微妙)。

 

 

● とっくに此所には着いているはずである。     4218行目

● とっくに此所には着いているはずである。

 

 

● しい|んと静まり返っている。     447行目

● しいーんと静まり返っている。

 

 

● 考え込んでいた。とっ。少しずつわかってくるような     4524行目

地の文で〝とっ〟って何よ?

 

 

● みな殺しにする計画ためだったんです」     4724行目

● みな殺しにする計画のためだったんです」

 

 

● なにを夢見ていらっしゃる。     5716行目

● なにを夢見ていらっしゃる。

 

 

● 「あっ!と叫び声をあげた。     588行目

● 「あっ!」と叫び声をあげた。

 

 

● 獄門だがゆらいで竹竿が     6621行目

● 獄門台がゆらいで竹竿が

 

 

● 無気味さをいっそうにもちもちとくにかいしている。     755行目

???

 

 

● 「それより、あんたのことだわ?よ?」     768行目

● 「それより、あんたのことだわよ」

 

 

● 逃げ出す工夫をしなくっちゃ。     7710行目

● 逃げ出す工夫をしなくっちゃ。

 

 

● ないわけなでしょう。     782行目

● ないわけないでしょう。

 

 

● 三浦君がそう言っ。     7915行目

● 三浦君がそう言って、

 

 

● 見たことがある?と知らせてくれた。     8715行目

● 見たことがあると知らせてくれた。

 

 

● 五つの良夫をのぞく寝台の人は、     922行目

楠田匡介ジュブナイルのレギュラー・キャラ小松良夫少年が五歳ってことはありえないし、
五つめの寝台という意味ではないのか?

 

 

● 殺人犯がこの船に今乗っているんですよ。     9513行目

この時点で小松良夫たちの一行はまだ寝台列車に乗っている筈なのに、
〝この船〟などと訳わからんセリフが飛び交っている。

 

 

● 明日の朝森入港まであと三時間です。     9517行目

● 明日の朝青森駅到着まであと三時間です。

 

 

● 杏子はノート取っている。     968行目

● 杏子はノートを取っている。

 

 

● 「あれっえ!」杏子ちゃんが悲鳴を上げた。     992行目

● 「あれえっ!」杏子ちゃんが悲鳴を上げた。

 

 

● 剛造氏が書いた肖像画あった。     10025行目

● 剛造氏が書いた肖像画があった。 

 

 

● 金田一耕助のような吃音が特徴の漫画家・金近たかしがチビ連隊に話しかける際にはいつもタメ口だったのに、【マヒタイ族】のチャプター(101頁~)になると、なぜか丁寧なですます調に変っているのが不自然。おそらくは104頁に登場する豊福鉱山の案内人の口調とごっちゃにしてしまっている。

 

 

● 日本のとがった木の枝     1055行目

● 二本のとがった木の枝

 

 

● かなり金近さんのグループを詳しいようだ。     1071行目

● かなり金近さんのグループを詳しいようだ。

 

 

● 尊敬の目で改めて見るのった。     1166行目

● 尊敬の目で改めて見るのだった。

 

 

● 行く方向示すものです。     1252行目

● 行く方向を示すものです。





(銀) これ程までにテキストが崩壊状態の本をシレッと売る者がいて、それを読みもしないかあるいは何も気付かずにワッショイしている莫迦が現実に存在しているのである。まあ楠田匡介のストーリー執筆、そして『小学六年生』編集部の校正無視ともどもやっつけ仕事な訳だから、上に挙げた事例のうち湘南探偵倶楽部の責任ではない箇所も、あるにはある。それにしたって、入力したテキストがこんなんなっているのに、どうして彼らはデータが打ちあがった時点で再度見直しをしたり、あるいは印刷業者から本が出来上がってきて売りに出す前に一冊でもチェックしようとしないのか?悪いけど頭がおかしいとしか受け取りようがない。


この擁護のしようがない数の入力ミスばかりか、湘南探偵倶楽部の本作りにはそれ以上の悪質な疑いが発覚している。その疑いとは? 


次回の記事  ③  へつづく。