✪ 湘南探偵倶楽部が制作・発売した同人本『マヒタイ仮面』(楠田匡介)はテキスト入力時の誤字脱字があふれかえっているばかりではなかった。不幸にして、この本を買ってしまった方、あるいは底本である『小学六年生』該当号の古雑誌 or 複写コピーをお持ちの方は(そんな人はほぼいないと思うけれども)、それらを手元に置きながらこの記事を読んで頂くと、よりベターである。
前回の【② テキスト崩壊】の記事の中で私は『マヒタイ仮面』第六回にあたる63~64頁の画像をupしておいた。その画像の右下を見ると「はじめて読まれる人に」という欄がある。これは〈前回までのあらすじ〉が簡単にわかるよう、初出誌『小学六年生』編集部が毎月冒頭に添えたものだ。
湘南探偵倶楽部版『マヒタイ仮面』を読むと、(第一回に無いのは当り前として)第二~五回/七回の〈前号までのあらすじ〉は本編と同じく、制作者が自らの手でテキスト入力している。
一方、第六回/八~九回/十二回の〈前回までのあらすじ〉は『小学六年生』原本からそのままスキャン・コピーされていて、第十回にはそれが無い代わりに豊福剛造一家/探偵役の漫画家・金近たかし/チビ連隊/死仮面の男といった主要キャラ紹介のスキャン・コピーが、残る第十一回はちょっと見ると原本からのスキャン・コピーだと勘違いしそうだが、文章は制作者が手入力したものだった。
さて、前回の記事にもupした文章だが第六回「はじめて読まれる人に」の部分だけズームアップしたものを読者諸兄のために、もう一度お見せしよう。三行目にはこう書いてある。
〝美江子、英子姉妹のゆくえがわからなくなったのだ。ついで剛造氏夫妻までが、緊張する警察陣をしりめに、何者かに連れ去られてしまった。〟
本作に登場する子供のメイン・キャラは、この本の制作者がテキスト入力した本編全文を読むと次の五人しかいない。
・豊福剛造・香絵夫妻の子供である木綿子/比奈子姉妹
・木綿子/比奈子とはいとこにあたる小松良夫/幸子兄弟
・チビ連隊メンバーのひとりである万病薬局の杏子
もうお気付きですね。上掲『小学六年生』の第六回「はじめて読まれる人に」欄に記してあった美江子/英子姉妹の名前が見当たらないことに。本書を何度見返しても物語の中に美江子/英子なんて登場人物は存在しない。そして第六回までの時点で誘拐される姉妹といったら豊福木綿子/豊福比奈子以外にはいないのである。これは作者楠田匡介や『小学六年生』編集部のミスでも何でもない。何故かって?第二回のラストに見られる、原本から直接スキャン・コピーされた(つづく)以降の煽り文にもこう書いてあるからだ。
〝死の面・・・・とうとう、美江子、英子きょうだいのへやにまでしのび込んできた、
あの不気味な面・・・・〟(☟の画像をクリック拡大して確認されたし)
それだけではない。同じく原本からスキャン・コピーされた第十回の〈主要キャラ紹介〉欄には〝清水薬局のヒロ子〟と書かれている。エエッ、万病薬局の杏子までもが・・・。このヒロ子という名前も間違いではない証拠に第八回〈前号までのあらすじ〉欄には〝豊福家の美江子、英子姉妹、それにヒロ子の三人は〟とハッキリ書いてある。つまりだ。意図的な改竄か夢遊病みたいな心地でテキスト入力をしたのか知らんが、湘南探偵倶楽部の制作者は美江子/英子姉妹の名前を木綿子/比奈子へ、清水薬局のヒロ子を万病薬局の杏子へ、勝手に書き変えているとしか思えない。
第十回〈主要キャラ紹介〉の一部
原本も美江子を幸子と間違えている。やれやれ・・・。
第八回〈前号までのあらすじ〉
✪ 湘南探偵倶楽部のこういう改竄事例は他の本でもあった。去年の七月、当Blogで紹介した大下宇陀児のジュブナイル作品『黒星章』→『黒星團の秘密』だ。その時の二つの記事のリンクを貼っておくので、よ~くお読み頂きたい。
① 春陽堂版(戦前)と靑柿社版(戦後)のテキスト異同
② 全体に細かく手が入れられた光文社痛快文庫版
『黒星章』は戦後になって、靑柿社という出版社から粗末な仙花紙本で『黒星團の秘密』と改題され、作者が時代の変化に合わせていくらかの改稿を施して再刊された。湘南探偵倶楽部はその靑柿社版『黒星團の秘密』を2018年に復刊しているのだけど、これが原本そっくりそのままスキャン・コピーした作りではなく、『マヒタイ仮面』同様に手入力でテキスト・データが作られていた。
そして上に挙げた『黒星章』→『黒星團の秘密』のテキストを比較した記事で説明したように、湘南探偵倶楽部はこの頃から本来ありうべからざるテキストを作りあげ、まことしやかに復刊していたのだ。こうなるともう『マヒタイ仮面』も人物名以外の部分も改竄されているのかもしれない。
ここに正真正銘、本物の靑柿社版『黒星團の秘密』テキストが閲覧できる「国会図書館デジタルコレクション」リンクも貼っておくから、湘南探偵倶楽部が復刊したほうの靑柿社版『黒星團の秘密』をお持ちの方は13頁を開いて13行目の四十八願という名の富豪の邸宅が、このリンク先にある本物の靑柿社版『黒星團の秘密』12頁11行目では玉置某となっているところ等を御自身の目で確認してほしい。
国会図書館デジタルコレクション/靑柿社版『黒星團の秘密』大下宇陀児
去年、大下宇陀児『黒星章』→『黒星團の秘密』の記事に着手した時にはまだ湘南探偵倶楽部を信じる気持が残っていたから「可能性は低いけど、もしかしたら靑柿社版のテキストにはヴァリアントが存在するのかもしれない」と書いておいた。しかし、今回の楠田匡介『マヒタイ仮面』でさえ明らかに(たとえごく一部とはいえ)内容改竄しているのだから、決してミスではない。確信犯だ。でなかったら、制作者の頭は相当ヤバイ状態にあるとしか考えられないではないか。
もしこんな風に書き変える必要があるのならば、なぜ理由を本の中に一言書いておかないのか。誠に失礼ながら、前回の記事で私が「頭がおかしいとしか受け取りようがない」と書いたのは、これだけの動かぬ証拠が上がっているからだ。
しかも『マヒタイ仮面』の新刊売価は驚くなかれ、なんと5,800円だよ。ボッタクリ価格な上に間違いだらけだと私以外の人からも(このリンク先を見よ)指摘されている善渡爾宗衛の本並みだぞ。そりゃあ今、何でもかんでも物価が上昇しているさ。前回の記事で比較対象として掲げた横溝正史ファンの同人誌『偏愛横溝短編を語ろう』(2,500円)だって前に出ていた『ネタバレ全開! 横溝正史読書会レポート集』と比べて40頁増えて新刊売価が1,000円もアップしてる。
それが妥当な金額なのか私にはわからんけど、
あのミーハーな横溝ファンでさえテキスト入力はちゃんとやっているのに、
湘南探偵倶楽部がやっている事は著作権の侵害ではないのか・・・。
どのような目的でこんな事をしたのか、明らかにする義務が彼らにはある。
(銀) 湘南探偵倶楽部のアイテムは最初のうち内輪のメーリング・リストのみの扱いだったが今では盛林堂書房をはじめいくつかのミステリー専門古書店で販売されている。
楠田匡介の本名は小松保爾。現在の著作権継承者がどなたなのか残念ながら存じ上げない。大下宇陀児の著作権継承者は今もお元気なのであれば娘の木下里美さんから変更は無いと思われる。小松保爾氏の遺族そして木下里美さんとコンタクトが取れる方は、このようなやってはならない改竄行為が行われている事を大至急知らせてあげてほしい。
探偵小説の欲に目がくらんだ人間の頭の中はこんな風になっているんだろうか。
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲・・・・・ではなく、
金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金・・・・・と。