2024年8月8日木曜日

『「新青年」趣味ⅩⅩⅣ/特集ユーモアと「新青年」/この人も「新青年」!』『新青年』研究会

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新青年』趣味 編集委員会
2024年7月発売



★★    飽和点? 分岐点?




今世紀に入って以降、ずっと一人の作家を巻頭にて特集してきた『「新青年」趣味』もいよいよネタが尽きたのか、あるいは方針転換を図ったか、今号は〝ユーモアもの〟に迫ったり、『新青年』プロパーとは言えない作家達をごっそりまとめて紹介している。その二つめの特集【この人も『新青年』!】を眺めて、〝ほおー、ついに『「新青年」趣味』も戦前だけでなく、戦後作家も俎上に載せるようになったのか・・・。〟というのが最初の印象。

 

 

『新青年』プロパーではなくとも、多くの作家の短篇はなんらかの形でアンソロジーに入っているし、ビギナーの読者は「へえ~」と驚くかもしれないけれど、まあこんな感じのラインナップになるのは想像が付く。数十人に及ぶ顔ぶれの中に前田河広一郎が入っていないのは少々意外。もとより探偵小説のよき理解者って訳でもないから、『新青年』が彼に小説を書くよう積極的にアプローチしなかったとしても別に不思議じゃないが。

 

 

横井司【三橋一夫〈まぼろし部落〉考】はボリュームのある内容だけど、私は森永香代【アーカイブ雑感-小倉東個人蔵書(新宿二丁目)の目録作成の経験から】が面白かった。小倉東のことは全く存じ上げず、ドラァグクイーンにして蔵書家なだけでなく、調べてみると若い頃ヘアメイク界の大物・渡辺サブロオに付いて学んだり、父君は中国共産党のスパイだったり、波乱の人生を送ってきた人のよう。

 

 

森永香代が岩田準一の研究家だから資料整備に力を貸してほしいと声掛けされたのか、その辺はよくわからないが、一部の古本キチガヒが勘違いしそうなので一筆記しておく。小倉氏の蔵書は同性愛/占いの書物がメインだそうで、ミステリ/幻想文学のお宝が山ほどありそうとか、そういうハイエナじみた目で舌舐めずりしても無駄である。なにはともあれ新宿二丁目に足繫く通われた関係者の皆さん、お疲れさまでした。

 

 

毎回『「新青年」趣味』には感心するのだが、小さめの文字がぎっしり詰まった情報量で400ページ近い厚みがあって、価格はたった2,200円なのだから本当に良心的。薄利多売な上、結構な部数を刷らないと、この価格には設定できない。善渡爾宗衛/小野塚力/杉山淳のレーベル「綺想社」「東都我刊我書房」「えでぃしおん うみのほし」だったら間違いなく一冊20,000円ぐらいボラれてるぞ。そんな良心的な『新青年』研究会も最近は耳を疑うような発言をする人が出て来たりして、立教大学江戸川乱歩センターでなんか悪い影響でも受けたのかしらん。

 

 

石川巧(編集代表)『戦後出版文化史のなかのカストリ雑誌』(☜)という本の中で、川崎賢子御大が〝1930年代に江戸川乱歩は『猟奇倶楽部』なる雑誌を運営していた〟などと驚愕の情報をお書きになり、それのエビデンスは一体どこから来ているのか是非とも聞かせて頂きたく、正座しながら私は待っているのに、な~んも説明して下さいませんねえ。いつもなら、この種のトンデモ発言が流布されると真っ先に平山雄一がX」で反応するものなのに、今回は相手が『新青年』研究会の古株メンバーというので忖度して口を閉ざしているのかなあ。それとも「X」をやらない私が気付いてないだけなのか。

 

 

忖度といえば、『「新青年」趣味』は第19号あたりから【くぉ う゛ぁでぃす】というレビュー欄を設けているけど、これって必要?銀髪伯爵ほどストレートなツッコミはしなくていいけども、身近な人や同じ業界だからってんで気を遣い過ぎて、内輪の褒め合いになっていませんか?それに近年の号を読んでいると、『新青年』研究会員の中でも投稿するのは一部の人に限られている気がして、金属疲労みたいなものが伝わってくる。浜田雄介が編集チーフから外れたから、そう思うのかもしれない。もしも原稿が集まらなくて苦労してるんだったら、第12号までのサイズ&ページ数に戻ってスリム化するのも一つの手。【この人も『新青年』!】など、同じ人が沢山の項を執筆負担していて「これだけの量こなすの、キツかったろうな」と感じた。

 

 

 

 

(銀) 私のBlogをいつも見ておられるか分からないけれども、島田龍氏にお知らせ。岩波文庫版『左川ちか詩集』の編者・川崎賢子氏が今回の『「新青年」趣味』の近況報告欄【横道通信】(358ページ)でこんなこと言ってます。

 

〝二〇二三年度は以下のようなお仕事をしました。
とくに、左川ちかは、一九八〇年代にモダニズム研究を始めた筆者にとっては長い長い宿題となっていた対象です。複数の編集者にかねてご相談申し上げておりましたが、岩波文庫がリスクをとって出版を引き受けてくれました。こちらの進行途中で「全集」が出るというサプライズがありましたが「文庫には文庫の使命がある」と揺らがなかった担当編集者さんに感謝です。〟

 

岩波文庫版『左川ちか詩集』編者・川崎賢子に対する煩憂(☜)

 

上記のリンクを張った記事で私、「どんなに早くても岩波文庫版『左川ちか詩集』の制作がスタートしたのは令和4年になってからだろうし」と書きましたが、川崎氏の近況報告を拝見しますと「島田龍・編『左川ちか全集』(書肆侃侃房)が出る前から、自分は『左川ちか詩集』に着手していたんだ」と主張なさっているようですね。

 

以上、現場からお伝えしました。







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