2024年8月12日月曜日

『高架線の戰慄』ミニヨン・G・エバハート/長谷川修二(譯)

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代々木書房  現代大衆文學全集
1940年7月発売



★★★   エドワード・ホープ「俳優殺人事件」もなぜか収録




外装では「高架線の戰慄」のみ収録しているように見えるが、本書314ページ中142ページまでは「俳優殺人事件」という作品が鎮座。作者エドワード・ホープはどういう人なのか全く不明。表題作「高架線の戰慄」よりこっちのほうが私は好き。

 

 

ブロードウェイで名の通った劇作家ジエームス・ララミー・リスターにはセーラ(妻)・バーバラ(長女/通称ボビイ)・トレヴオア(長男/本作の語り手)・サリイ(次女)の家族があり、ジエームスとセーラがショービズ界のセレブゆえ彼らは南仏海岸へバカンスにやって来ている。ジエームスの秘書デーヴ・アーチャーはすっかりリスター家に溶け込んでいて、ボビイはデーヴから結婚を申し込まれる程の仲だった。ある邪魔者が現れるまでは・・・。

 

 

美形だが誠実さの欠片も無い人気俳優シヤーウツド・シイモアに粉をかけられたボビイはすっかりその気になってしまって、デーヴの面目は丸潰れ。トレヴオア達もシイモアのことをよく思っていない。おりしもリヴィエラ地方では、潜水して銛銃で魚を仕留めるマリン・スポーツが流行していた。その銛銃で体を貫かれたシイモアの屍が海中で発見され・・・。

 

 

立場上、疑われるのはデーヴ一人かと思いきや、容疑者は他にも出てくる。戦前の海外ミステリは抄訳が多いのだが本書もそうなのだろうか。シイモアの屍の描写について、訳文ではあっさり片付けられているものの、原文はドギツイ表現じゃなかったのかどうか気になる。避暑地の海に彩られた死体を扱ってるし、この作品、何かオリジナリティのあるトリックでも使っていれば、もっと注目度は上がったに違いない。

 

 

そしてミニヨン・G・エバハート「高架線の戰慄」。彼女のレギュラー・キャラクター/スーザン・デア登場。外出先から帰宅中、高架線にトラブルが起こり車内が真っ暗になる中、ある男によって外に連れ出されたスーザン。ところがその後、思いもよらぬ殺人事件に遭遇。高架線が急停車するまでの間、スーザンの乗っていた車両に乗車してくる奇妙な顔ぶれが肝。

 

 

こちらはなんというか、小ぶりな舞台劇に移し替えるとフィットしそうなストーリー。三谷幸喜に脚色させたら、よさげな気がする。「俳優殺人事件」のようなショッキングな死体や登場人物のアクの強さが無い代わりに、ちょっとしたトリックあり。

 

 

どういう理由でこの二作をカップリングしたのか想像も付かないけれど、営業的には「高架線の戰慄」を書名にしたほうがキャッチコピー的には目に留まりやすいのかもしれない。でも内容で比較したら、恋の嫉妬から生じる復讐の匂いをプンプン漂わせている「俳優殺人事件」のほうがウケそうだし、それでこちらをアタマに持ってきたのかな。
 
 
 

 

(銀) 「高架線の戰慄」の訳文はわりとカッチリしているのに、「俳優殺人事件」では脇役のキャラに「~でごわす」などと言わせたり、二作それぞれの訳し方には違いが見られ、「俳優殺人事件」のほうは長谷川でない別の人が訳している可能性も考えてしまった。原文からして二作とも読み易そうのは共通している。とはいえ、長谷川の訳はそこまで優れているとも言えずマアマアの出来じゃない?






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