カストリ雑誌といえば昭和25年あたりまで出回っていた、定期刊行物として認められていない怪しげなブツの総称だと思ってきたし、本書にてフォローしている年代も昭和20年8月の敗戦から昭和24年12月迄と区切られているけれど、近年はカストリ雑誌の定義がより曖昧になって、発行年度の該当範囲は昭和30年以降にまで更に広がっているそうだ。いくらなんでも昭和40年代に出たものまでカストリ雑誌と呼んでいいのか?と、私なんかは訝ってしまうが。
この本の編集代表・石川巧の「あとがき」によれば、もともと企画されていたのは『カストリ雑誌総攬』ともいうべきカストリ雑誌のデータベース。国内に残存している分の調査はもとより、メリーランド大学のプランゲ文庫にはかなりのカストリ雑誌が所蔵されているので、あちらへのアプローチも準備していたところ、例のコロナ禍が起きて三~四年ほどアメリカへの渡航が難しくなり、当初の予定は一旦ペンディング。仕切り直して制作されたのがカストリ雑誌の入門書的な内容を持つ、この『戦後出版文化史のなかのカストリ雑誌』という訳。
では本書の第一部、カストリ雑誌編集委員会の面々が「カストリ雑誌」主要30誌に選んだラインナップを見てもらおう。括弧内は各項目の執筆者である。
『赤と黒』(石川偉子)『アベック』(尾崎名津子)『ヴィナス』(石川巧)
『うきよ』(石川巧)『オーケー』(大原祐治)『オール小説』(石川偉子)
『オール猟奇』(石川偉子)『奇抜雑誌』(光石亜由美)『狂艶』(石川偉子)
『共楽』(光石亜由美)『サロン』(大原祐治)『小説世界』(石川偉子)
『新文庫』(大原祐治)『青春タイムス』(尾崎名津子)『性文化』(尾崎名津子)
『千一夜』(大原祐治)『探訪読物』(大原祐治)『にっぽん』(牧義之)
『ネオリベラル』(石川巧)『犯罪実話』(尾崎名津子)『ベーゼ』(牧義之)
『ホープ』(牧義之)『妖奇』(石川巧)『読物時事』(石川巧)
『ラッキー』(牧義之)『らゔりい』(光石亜由美)『リーベ』(光石亜由美)
これら30誌の概要がそれぞれ約3~4ページ程載っていて、データの提示というより読み物として仕立てられている。「カストリ雑誌」と聞くとエロ・グロで煽情的な実話やら時事ネタ、それに得体の知れない人が書いた小説ばっかりじゃないの?と思う方もおられるかもしれないが、知名度のある作家(探偵作家含む)の名前も少なからず見つかる。そういう作家達の存在を示すことが本書のセールス・ポイントでもあるし、各誌に掲載されているめぼしい作品にはどんなものがあるか、(全て網羅している訳ではないにせよ)紹介されているのが嬉しい。