「江戸川乱歩とそのテクスト周辺作家も分析対象として、犯人と探偵を描く際の問題意識と表現コード選択の跡を追い、探偵小説ジャンルをめぐるペルソナ問題の流れについて考察と検証を試みる」だそうだ。意味解りますか? 私にはよく解りづらいが、要するに本書はこの十年間に著者が書いた日本探偵小説に関する論文を一冊に纏めたものである。
第一章 三遊亭円朝「欧州小説 黄薔薇」
第二章 黒岩涙香「怪の物」村山槐多「悪魔の舌」江戸川乱歩「人間豹」
第三章 黒岩涙香 ~ 江戸川乱歩「幽霊塔」
第四章 江戸川乱歩「パノラマ島奇談」
第五章 江戸川乱歩「孤島の鬼」
第六章 横溝正史「真珠郎」
第七章 小栗虫太郎「紅軍巴蟆を超ゆ」
第八章 横溝正史「本陣殺人事件」
第九章 江戸川乱歩「影男」
小松史生子は「ナラティヴ」なる単語が大好きで、彼女の書くものには一つ覚えのように毎回この単語が乱舞していて、閉口する。本書でもコノテーションだのディスクールだのシンタックスだの、相も変わらずインテリ・コンプレックスに満ちた小難しい語り口。ロバート・キャンベルみたいなアメリカ人だって日本語で文章を書く時、こんな横文字乱用してないぞ。どうして普通に平易な表現が出来ないのだろう? 谷口基『戦前戦後異端文学論 奇想と反骨』ほどの暴価ではないにしろ価格もしかり、決して読者に優しくない。
糅てて加えて『新青年』研究会のメンバーとは思えぬ基本的な間違いもある。横溝正史の次の『新青年』編集長は延原謙であって水谷準ではないし、雑誌『朝日』における「孤島の鬼」の連載期間は昭和4年1月 ~ 昭和5年2月が正しく、最終回は昭和4年12月ではない。
第一章/我が国におけるクロロフォルム輸入の歴史とか、第九章/「影男」の雑誌連載状況を調べ上げ、読者がこの作を見限ったと思しき回を指摘しているところなど、せっかく興味を引く箇所があるのに、上記に挙げた問題点の方がどうしても気になってしょうがない。引用データの凡ミスはまだ仕方ないとして、むやみな横文字羅列の物言いは何のプラスにもなっていないから絶対改めるべき。(改める気、全然無さそうだが)