2024年8月6日火曜日

『ミステリと他のよもやま話/付録EQインデックス』萩巣康紀

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同人誌
2024年7月発売



★★   PCで文章を書くのは意外とタイヘンなのだ




萩巣康紀がこれまで発行してきた同人誌には『マイナー通信』『マイナー・インデックス通信』などがある。それら全てに目を通している訳ではないが、萩巣といえばCD-Rも使って熱心に雑誌のインデックスを作成・提供している人というイメージが私には強い。今回の『ミステリと他のよもやま話/付録EQインデックス』は全276ページのうち、前半部分に短めのエッセイ130本、後半部分に【作家名順】【年月順】などテーマ別に分類した、雑誌『EQ』のインデックスを掲載している

 

 

エッセイはミステリだけでなく、自分の仕事/釣り/ビリヤード等の話題も織り交ぜ、自己紹介の意味合いがそれとなく込められている様子。わりと最近の情報に触れてあるし、これまでストックしてきたもののアーカイヴではなく、本書のため新たに書き下ろしているみたい。

ちょくちょく東海地方の方言が混じっていたり、ローカルな視点に重きを置いていたり、個人誌ならではの特色が感じられてGood。一つの項の情報量がほどほどなので気軽に読める点も良い。しかしながら誤字も目立ち、全体の作りが洗練されていないところは我慢して接する必要あり。後半のインデックス・パートでは特段気にならないのに、エッセイの文章となると誤入力があちこち見つかった。

 

 

著者は吉永小百合と同世代だそうだから、結構なご高齢とお見受けする。サユリスト・エイジは若い頃からからPCに馴染んでいないハンデがある分、デジタルな作業に長けていない人の割合が高くなるのはしょうがない。ただ若狭邦男の文章などを読んでいて思うのだが、ミステリマニアやらコレクターを自称している高齢の人達って、国語力もあまり高くない傾向にあるような気がするのは私の偏見だろうか?

 

 

自分自身、愚にもつかぬ文章をいつもBlogに連ねているから解るのだが、好きな分野のことしか書いていない筈なのに、誰にでも読み易く伝わる文章を書くのは意外と難しい。書き終えてすぐの時にはそれなりにちゃんと書けてるつもりでも、後日読み返してみると独りよがりで第三者に通じにくい物言いになっていたりしてゲンナリする。

Blog記事の末尾には【関連記事】と称して既出エントリのリンクを張っている。これをやる本当の目的は、かつて書き散らかした自分の文章がどうにも見苦しいので、【関連記事】として振り返りつつ、内容そのものは変えずに読点を増やしたり、細かい修正を行っているからだ。他にプラットフォームの問題もあるのだが、それは本日の記事と無関係だし、ここでは触れない。

 

 

話が横道に逸れたので本題に戻ろう。この本の著者もインデックスを作っている時はそこにあるデータをそのままタイプしてゆけばいいのだから、ミスをする確率はそう高くはあるまい。ところがエッセイは頭の中で自らの考えを逐一文章へtransferする負荷が伴う。さらにPCに打ち込んだ文章が普通に第三者へ伝わるだろうと自分では思い込みがちだが、実はそうなっていないことが頻繁に起こり得る。

私など一度upしたBlog記事を後で見返すと、「なんちゅう下手な文章を書いたのか」と毎回イヤになる。Blogまだ後から気付いて手直しが可能だけど、紙の本は製本してしまったら、そうはいかない。他人に読ませる文章は最低でも一晩寝かせて、見直しをした上で公にするのが本当は望ましい(自戒も込めて)。

 

 

文章の上手・下手は個人差があるだろうし、こういう同人誌の場合、ある程度欠点に目をつぶってあげることも必要だろうけど(私のBlogには目をつぶらなくて結構ですがね)、本書中に散見される「置いたのではないだろうか」「ヤオフク「ビリヤード界から足を洗って」等のケアレスな表記は、一度書き終えたあと時間を空けて見直しさえすれば十分防げたミスだから、もう少し気を配ったほうがよかったのでは?





萩巣康紀もワタシも自分で思いを巡らせて書いた自分の文章ゆえ、もし不備があれば自分が恥をかけばそれで済むが、読むに堪えないテキスト入力で物故作家の作品を汚すだけ汚し、法外な価格の本で金を巻き上げる善渡爾宗衛/小野塚力/杉山淳のような手合いの罪は重く、鬼界ヶ島へ流刑にでもしなければ(俊寛僧都か)、被害に遭った作家達は浮かばれまい。

本書にて萩巣も綺想社の高すぎる価格について疑問に思う問いかけこそしているものの、「他にもミステリだけでなく、ホラーなども扱い、レアなものも時々出されている(ママ)のでファンとしては嬉しいのであるが」といった具合に、あのレーベルの酷い訳文については何も語られていないし、むしろリリースを楽しみにしているフシさえ伺える。作家を冒涜する悪質な本を未だに買い続けて、何とも思わないですか荻巣さん?






(銀) どこまで行っても高齢のミステリ・マニアやコレクターは自分の所有する蔵書、そしてそれらの古書価値について、アピールせずにはいられない衝動に絡め取られている。これもいわゆる承認欲求って奴なのかな。萩巣康紀がそこまで極端に賤しいマニア&コレクターだとは思わないが、この界隈で真っ当な人を見つけるのはジャンボ宝くじで一等を当てるぐらいに難しい。



私が幼い頃、祖父はよく本を買ってくれただけでなく、こんな事も教えてくれた。

〝年を取ると目がよく見えなくなったり、集中力が無くなったりして、本を読む体力が失われるから、いくら山のように本を持っていたって読めなきゃ何の意味も無いよ〟

この教訓が叩きこまれているので、私は読みもしない本を買い込んだり、蔵書自慢をする人間になどならず、現在に至っている。そもそも自慢できるようなレア本なんて殆ど持ってないけど。






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