▮ この対談は細野晴臣のほうが希望していて、小林信彦の脳梗塞さえ無ければもっと早く実現していたそうなんですけれども、まさか本当にTVで二人のツーショットが見られるとは。去年の暮れにも細野は日曜夜の森高千里の番組にトークゲストで出てまして、久しぶりに見た彼の人相が変わってたもんで思わず「え、どうしたの?」とビックリしたんです。
▮ 若い頃から細野は歯が悪くて、クラウン時代の中華街LIVEでも前歯が欠けてたんだ。だからおそらく最近入れ歯にしたかなんかでそんな風に見えるんじゃないか。オンエア観てても喋りは衰えてなかったよ。なんせDJやってるぐらいだしね。YMOの三人のうち唯一丈夫でいるのが細野だけなんて40年前にはまず考えられなかった。(注:この番組は高橋幸宏の逝去前に収録されており、もしも収録日が幸宏の死の直後だったら細野は中止もしくは延期を申し出ていたかもしれない)
▮ ええ。一方の信彦氏もTVに出てくれるぐらいだから体調自体は悪くはないんでしょうけど、さすがに90歳だし、喋るのがシンドそうでしたね。(大瀧詠一の話題になって涙ぐんだ瞬間以外は)表情にも変化が無いというか。
▮ 大瀧のことだから生きていても絶対テレビに出る筈は無いのに、「本当は僕の代わりに(大瀧が)ここにいるべきなのに・・・」と呟いた細野の言葉に反応して、小林があんなにホロッと涙ぐむ顔をカメラの前で見せるとは思わなかった。
この番組の前回の対談は武豊×郷ひろみだったんだ。彼らはまだバリバリ元気だから会話が弾むんだけど、細野×小林では間が持たないとでもスタッフが心配したのか、インサートが多いのは気になった。それに加えて往年の『夢で逢いましょう』や『YMONHK』の同じシーンを繰り返し使うのは、EP1EP2合わせてたった60分しかないんだから、時間をムダにしないでほしい。私がディレクターなら絶対重複しないインサート素材を使ったんだがな。とはいうものの『YOU』で小林が『ひょうきん族』の頃の片岡鶴太郎とトークしている映像は今になってみると貴重だね。細野は細野で同じく『YOU』出演時の映像を流してたし、Emulatorにフロッピーを突っ込んで音を出しているのがなんとも時代を感じたよ。
▮ 二人を取り持つ存在がどうしても大瀧詠一になるんで、彼の話ばかりに終始するのかなあと懸念してたらタイタニックの話題で盛り上がるとは意外でした。まあ信彦氏は『文春』の連載を止めて現在小説を執筆中なのかどうか、そんな近況は聞けなかったですけど、細野は「もうやる事はやったし、あとは趣味として音楽をやるだけ」って言ってましたね。
▮ Sketch ShowやTin Panを最後に、細野は新しい音楽の追求をしなくなった。その後の細野の作ったアルバムで聴きたくなる作品は、ソロ・デビュー・アルバムをリメイク・リモデルした『Hochono House』だけだなあ。もうYMOが三人でやる機会も永遠になくなってしまったけど細野には十分楽しませてもらったよ・・・と言いつつ小林の新しい著書しかり、まだ心のどこかでちょっとだけ細野の尖った新作を期待している自分もいるんだ。
話は逸れるのだけど、先日BSフジ『HIT SONG MAKERS「CITY POPスペシャル」』の再放送を観ていたら、相変わらず日本のTV業界の音楽史観がなんもかんもはっぴいえんどばかりで閉口した。雑誌『レコード・コレクターズ』もそう、彼らの頭の中にははっぴいえんど人脈のミュージシャンしか存在していない。そりゃあ松本隆も鈴木茂も大瀧詠一も細野晴臣も日本のCITY POPに多大な貢献をしてるけどさあ。なんでそれ以外の人達にはひとつも目を向けようとしないのかね、音楽ライターや評論家と名乗る手合いは?