2023年1月27日金曜日

『こわい本2-異形-』楳図かずお

NEW !

角川ホラー文庫
2022年6月発売




★★     楳図マンガにも編集部による表現狩り疑惑が




「笑い仮面」(初出:1967年)と短篇「地球最後の日」(初出:1966年)を収録。楳図かずおの幼年期というのは日本国民が老いも若きも「大日本帝国バンザーイ、天皇陛下バンザーイ」と崇めさせられ、生地獄を味わった昭和10年代。そんな日本は惨めに降伏、子供達は戦前の価値観を180度ひっくり返されるトラウマを心に負いつつ育っていった。「笑い仮面」(前)は斯様な時代を生きた楳図少年の脳髄から迸る怒りの飛沫なのかも。


 


         

 

 

「地球最後の日」も「笑い仮面」も、「ウルトラマン」と同時期に描かれているため絵のタッチが近く、筆の滑りも若い。〝笑い仮面〟のマスクは挿絵画家・吉邨二郎が作り出した江戸川乱歩〝黄金仮面〟の造形を受け継いでいるのかな?とつい考えてしまうが、ここでは紳士怪盗が顔を隠すために自らマスクを被っているのではなく、日本軍が天文学者・式島博士に下した死んでも外すことができぬ永久拷問手段であって、イメージ的には北村寿夫「新諸国物語/笛吹童子」の萩丸が顔に貼り付けられる〝されこうべの面〟みたいな感じ。

 

 

 

昨年、角川ホラー文庫より再発全11巻が出揃ったシリーズ「こわい本」。本書の二作はどちらもSFホラー・テイストだが、〝笑い仮面〟を被せられた式島博士が閉じ込められる流刑場の名が〝獄門島〟だったり、「笑い仮面」(後)の舞台が九州の寒村で、村人が松明を持って怪物狩りに向かうシーンもあったりして、直接関係は無いけれど横溝正史ネタのようなコマも見られる。数巻にわたる長篇でこそないけれども、なかなか楽しめる内容なり。



 

          

 



てことで、作品には何の不満もないが、なんせ言葉狩りが大好きな大手出版社の出す文庫だ。 自己規制改悪本イラネと思っている人は、今回の角川ホラー文庫からの新編集再発「こわい本」シリーズは注意したほうがいい。というのも「読者の皆様へ」という断り書きがあって、これはおそらく全11巻すべての巻末に一律載っていると思われるが、その中にこんな文があるからだ。(編集部には正しい日本語が使えない人間がいるのかヘンな物言いもあるが、決してワタクシの引用ミスではないので誤解のないように)

 

 

🌩🌩「こわい本」は、1960年代~80年代に発表された著者の作品を、1981年~2007年の間に版を変えて刊行されてきました。本書は、そのシリーズを再編集し、角川ホラー文庫に収録したものです。🌩🌩

 

🌩🌩 今回、新たにこれらの作品を刊行するにあたり、表現の再検討が必要ではないかと、著者と話し合いを重ねました。そして、作品発表当時から現在にいたるまで、著者に差別的な意図はまったくないことから、表現を見直し、修正をいたしました。🌩🌩

 

🌩🌩 しかし、(中略)その時代背景と作品の文学性を鑑みて、当時の表現のままの収録としたところもあります🌩🌩

 

 

私自身、本書第二巻だけで今回の角川ホラー文庫版「こわい本」の他の巻を購入するのを止めてしまった理由は書店で立ち読みして上記の断り書きがあるのを知ったからだ。いつもながら角川編集部の言っていることはちっとも論理的でなく意味不明。著者・楳図かずおに差別的な意図がないのであれば、表現を見直し修正する必要がどこにあるんじゃ?そのくせして〝当時の表現のままの収録としたところもあります〟って、全然首尾一貫してないやん。こんなんでよく楳図もOKしたもんだな。遡ると、1990年代末に刊行し現在も流通している小学館文庫版『漂流教室』も語句改変されていると聞くから、大手出版社のポリ・コレ病には楳図も早々にあきらめていたのだろうか?

 

 

 

いつも私のBlogではテキストが改竄された作品のBefore & Afterテキストを並べ、「再発本ではこんな風に改変されてますよ」と誰にでもわかるよう努めている。残念ながら「こわい本」シリーズの初刊や旧ヴァージョン単行本は持っていないので、角川ホラー文庫版「笑い仮面」「地球最後の日」のどの部分の表現が改変されているのか確定させる事はできなかった。それゆえ本来ならば★1つにすべきところだが、(証拠が挙げられないので)★2つとした次第。もしかしたら本巻では表現狩りされていないかもしれないし。ただ世の楳図ファンの間では、今回の角川ホラー文庫版における各エピソードの編集のやり方にはダメ出しをしている人もいるという。本書「笑い仮面」の底本は80年代の朝日ソノラマ版だそうだ。

 

 



(銀) 「笑い仮面」(後)の主人公探偵少年・五郎。彼は「首なし男」(=「首なし人間」)にも登場するキャラクター。

 

 

 

これもかなり前の話だが、まだ旬だった頃の釈由美子がミレーヌ・ホフマン役で声優を担当する「0091」(原作:石ノ森章太郎)がアニメ化されるという話を耳にして新装コミックスを買おうとしたら、その時流通していた中公文庫版はカバーデザインがダサいだけでなく言葉狩り本。運良くアニメとのタイアップで、コンビニ・コミックとして角川が出した上・下巻編成の『0091』は言葉狩りがされてなかったからすぐにそっちを購入したんだけど、同じ角川でもこんな風に改悪を免れているコミックもある。まったくふざけてるよな。角川春樹といい角川暦彦といい角川グループの場合はテキストとか表現の改変に力入れる暇があったら、警察の世話にならない真人間が社長やれ!と言いたい。