2023年1月4日水曜日

『定本夢野久作全集/第8巻』夢野久作

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国書刊行会  西原和海/川崎賢子/沢田安史/谷口基(編)
2022年11月発売



★★★     不幸せな結末




 難産になるだろうと予想していたとおり、本全集を締め括る第8巻は前回の第7巻から二年のインターバルを置いてリリースされた。それでもスタートから完結迄二十年ちょっとかかった葦書房版『夢野久作著作集』に比べればかわいいものである。今回、国書刊行会は全巻購入者へ特典として『新聞型冊子・挿絵つき「犬神博士」』を進呈する予定だが、現在のところまだ発送されそうな気配も無いので、以前予告しておいたこの『定本夢野久作全集』についての総括的な感想を述べたいと思う。





 とは言っても、Blogにおける2021115日付の『定本夢野久作全集 第1巻』記事にて述べた印象が大きく変わるほどの喜びは無く、あそこに書いた事が全てという感じで終わった。久作の父・杉山茂丸関係者が大正期に発行していた雑誌『黒白』にて、久作が執筆していた連載小説の未発見ぶんを果たしてコンプリートできるかどうか、久作のお孫さん杉山満丸が今回この全集への協力を一切固辞している以上、数少ないセールス・ポイントとしてそこに注目していたのだが、誠に残念ながら「発明家」も「首縊りの紛失」も「蠟人形」も「傀儡師」も欠号を発見することはできなかったようだ。

 

 

 

でもこの点につき責めるのは酷というもの。西原和海などは欠落号を数十年も探し続けたのに、それでも出てこないのだから。戦前日本の植民地だった、例えば満洲みたいな土地で発行された雑誌や単行本が内地に残存していないのは致し方ないとしても、『黒白』ならば日本のどこかに眠っていてもおかしくないし・・・と希望を持ち続けてきたが、ここまでネットが発達したのにそれでも発見されないのだから諦めざるをえないのかもしれない。ちなみにどこぞの奇特な方が『黒白』の現存状況をリストにしてネットにupしておられる。私のBlogへはリンクはしないけれども、興味のある方はググってみてはいかが?

 

 

 

『黒白』のミッシング・イシューがあるとはいえ、編纂サイドが少しでも新しいネタを見せようとして(小品ではあるが)既刊全集/著作集に未収録だった短歌などを載せており、そういった努力は理解してあげたい。それと新発見なネタでこそないけれど、この最終第8巻の冒頭を飾る「東京震災スケッチ」だとか「東京の堕落時代」といった非小説のノン・フィクションものを昔から私は評価してきたのだが、世間一般においてそんな声は聞いたためしがない。どう考えても〝能楽〟だとか〝人物伝〟よりはるかに面白くて一級の資料なのに。「ドグラ・マグラ」はもういいから、こっちにも少しはスポットを当ててもらいたいよ。

 

 

 

 本日の記事の締めに、夢野久作が好きだけど本全集第8巻はまだ買っていないという方々へまさかの情報をお知らせしておく。何と、今まで普通に夢野久作作品として扱われてきながら、本全集からオミットした童話ものが六十八篇もあるのだ。よく知られている代表的な作品で言えば「ルルとミミ」。ざっくり書くなら「ルルとミミ」は久作の継母・杉山幾茂の兄・戸田健次の息子=戸田健が実際関わった原稿であるとみられ、久作のアダプテーションは認められるものの本全集編纂メンバーで協議した結果、夢野久作を作者としてみなすことはできないという結論に至ったという。

 

 

 

他の童話についても、完全なる久作個人の作と確定するには疑義があるそうで。どうもこれって本全集が配本開始された後に浮上してきた問題みたいね。というのも第一巻発売前に版元が配布した『定本夢野久作全集』内容見本をよく見ると、集中的に童話を網羅する第6巻の収録予定作品の中にハッキリ「ルルとミミ」は存在してるし、何がどうしてこんな事になったんだ?

未収録にした根拠こそ第8巻巻末に書いてはあるけれど、疑義発生から確定までの詳細な流れは記されていない。こうなると、今回久作作品としては認められぬとされてしまった作品を今まで久作作品だと認定してきた西原和海は相当プライドを傷付けられただろうなあ。そしてまたとんだ受難に逢う羽目になってしまった『定本夢野久作全集』に対して熱心な久作ファンはどのように考えているのか。思わず私は岡村靖幸ばりに「♪どぉなっちゃってんだよ、ど・ど・ど・どぉなっちゃってんだろう」と困惑を隠せないのだった。

 

 

 

(銀) 夢野久作研究の第一人者として長年君臨してきた西原和海としては、全ての久作執筆物を一同に会した本当の意味での全集を生きているうちに作り上げたいという強い野望があったに違いない。ところがあちらこちらからケチ(?)が付いてこんな結末を迎えてしまい、本全集はどうにもHappy Endとはいえない完結にならざるをえなかった。個人的には前にも書いたとおり近年の久作研究のオイシイところがすべて『民ヲ親ニス』へもっていかれてしまって、全集本編以外の部分(特に月報)がツマラナカッタのが悔やまれる。全巻購入者特典『犬神博士』が届くのを待たずにこの記事を書くに至ったのも、本全集への失望が拭えなかったからだ。