✿ とは言っても、当Blogにおける2021年1月15日付の『定本夢野久作全集 第1巻』記事にて述べた印象が大きく変わるほどの喜びは無く、あそこに書いた事が全てという感じで終わった。久作の父・杉山茂丸関係者が大正期に発行していた雑誌『黒白』にて、久作が執筆していた連載小説の未発見ぶんを果たしてコンプリートできるかどうか、久作のお孫さん杉山満丸が今回この全集への協力を一切固辞している以上、数少ないセールス・ポイントとしてそこに注目していたのだが、誠に残念ながら「発明家」も「首縊りの紛失」も「蠟人形」も「傀儡師」も欠号を発見することはできなかったようだ。
でもこの点につき責めるのは酷というもの。西原和海などは欠落号を数十年も探し続けたのに、それでも出てこないのだから。戦前日本の植民地だった、例えば満洲みたいな土地で発行された雑誌や単行本が内地に残存していないのは致し方ないとしても、『黒白』ならば日本のどこかに眠っていてもおかしくないし・・・と希望を持ち続けてきたが、ここまでネットが発達したのにそれでも発見されないのだから諦めざるをえないのかもしれない。ちなみにどこぞの奇特な方が『黒白』の現存状況をリストにしてネットにupしておられる。私のBlogへはリンクはしないけれども、興味のある方はググってみてはいかが?
『黒白』のミッシング・イシューがあるとはいえ、編纂サイドが少しでも新しいネタを見せようとして(小品ではあるが)既刊全集/著作集に未収録だった短歌などを載せており、そういった努力は理解してあげたい。それと新発見なネタでこそないけれど、この最終第8巻の冒頭を飾る「東京震災スケッチ」だとか「東京の堕落時代」といった非小説のノン・フィクションものを昔から私は評価してきたのだが、世間一般においてそんな声は聞いたためしがない。どう考えても〝能楽〟だとか〝人物伝〟よりはるかに面白くて一級の資料なのに。「ドグラ・マグラ」はもういいから、こっちにも少しはスポットを当ててもらいたいよ。
✿ 本日の記事の締めに、夢野久作が好きだけど本全集第8巻はまだ買っていないという方々へまさかの情報をお知らせしておく。何と、今まで普通に夢野久作作品として扱われてきながら、本全集からオミットした童話ものが六十八篇もあるのだ。よく知られている代表的な作品で言えば「ルルとミミ」。ざっくり書くなら「ルルとミミ」は久作の継母・杉山幾茂の兄・戸田健次の息子=戸田健が実際関わった原稿であるとみられ、久作のアダプテーションは認められるものの本全集編纂メンバーで協議した結果、夢野久作を作者としてみなすことはできないという結論に至ったという。
未収録にした根拠こそ第8巻巻末に書いてはあるけれど、疑義発生から確定までの詳細な流れは記されていない。こうなると、今回久作作品としては認められぬとされてしまった作品を今まで久作作品だと認定してきた西原和海は相当プライドを傷付けられただろうなあ。そしてまたとんだ受難に逢う羽目になってしまった『定本夢野久作全集』に対して熱心な久作ファンはどのように考えているのか。思わず私は岡村靖幸ばりに「♪どぉなっちゃってんだよ、ど・ど・ど・どぉなっちゃってんだろう」と困惑を隠せないのだった。