〝 恐るべき情事の繰返しが女の魔性をとらえ、限りなき情欲の世界をさまようという問題の長篇! 〟
そんな折、農林省団体の汚職が露顕して東興物産も贈賄容疑で睨まれる仕儀となり、悟郎は社長から「頼むから一切を背負って身を隠してほしい」と懇願される。それを受け入れた悟郎は由美を連れて会社を去り、駆落ち同然の世をしのぶ身に。(この後の悟郎と由美は夫婦扱いだが入籍したような記述は無い)
働き口の無い悟郎の代わりに一流割烹のお帳場として働く由美は、大洋重工業で設計技師をしている堀田通也という男と出会う。失業してどんどん内向きになってゆく悟郎とは対照的に、快活な堀田に次第に魅かれてゆく由美。結局彼女は夫・悟郎の(東京から離れた)勤め先を堀田に紹介してもらうのだが、過去に東興物産時代の慰安旅行で、ふとしたきっかけから悟郎に唇を奪われてしまったのと同様、体調を崩した堀田を病院に連れていった拍子に、またしても由美は堀田に恋心を抱いてしまう。
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物語の中で「探偵小説の登場人物みたい・・・」なんてセリフが出てくるのだから、園田てる子の頭の中に探偵小説がまるっきり存在していない訳ではないようだ。でも彼女は純粋なミステリをなかなか書こうとせず、女と男の情欲にこだわった。重ねていうけどミステリ的な見どころがある訳ではない。それでも(私にとっては)なぜか読ませてしまうsomethingが、この作家にはある。
(銀) 後半、堀田と由美が旅先でしっぽりしているところに謎の尾行者が現れて不穏なムードになる。この部分を活かしてサスペンスを強調していれば、少しはスリラーっぽい展開になりうる余地もあった。園田てる子の非ミステリ作品にも犯罪は一応起こるんだけど、そこで主人公が警察や探偵に追われて・・・みたいなプロットにはならないのが特徴だろうか。