1961年、日本の女性推理作家が集まってひとつの親睦グループを結成した。その名称を「霧の会」という。発足時のメンバーは仁木悦子/新章文子/芦川澄子/南部樹未子/宮野村子/藤木靖子/夏樹静子、そして園田てる子の八人。のちに曽野綾子/戸川昌子/水芦光子らも加入している。
かくして園田てる子は曲がりなりにもミステリの世界に属していながら、「霧の会」発足前より愛欲小説の書き手として活動していて、文壇ではむしろそっち方面での認知が広く、『第三の情事』『証人台の女』など探偵小説と呼べそうな著書は非常に少ないという特異な経歴の持ち主。この時代には頻繁にありがちなのだが、同じ内容の本なのに別の書名を付けて再発されている事例が園田の著書にも見られるので、古書を購入する際にはまず収録内容を確認したほうが無難。
で、今回はそんな彼女の数少ない探偵小説本を取り上げる・・・と思わせといて、私の知る限り園田てる子が一番最初に発表した著書はこれではないかと思われる『現代女性情艶小説集 夜の肌』について記してみたい。本書はエロの殿堂・あまとりあ社が出していた新書サイズのひとつで、探偵小説関連だと楠田匡介・岡田鯱彦・九鬼紫郎・大河内常平らのものが刊行されている事は、前にも飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ 』の記事にて述べた。発行人には中田雅久の名がクレジットされている。
戦後〝よろめく〟という言葉がよく口にされた時代があった。そのきっかけは1957年に三島由紀夫が発表した小説「美徳のよろめき」から来るもので、戦前お堅かった日本女性の〝性〟の考え方が敗戦によってユルくなり、女の不貞・浮気を表す気持ちや行為を〝よろめき〟〝よろめく〟と呼ぶ事が流行ったのだ。園田てる子の作家業がいつどのように始まったのか定かではないが、三島の「美徳のよろめき」より本書のほうが発表時期が先行しているのを見ても、〝よろめき〟に関してはエロのエキスパートである園田のほうが一歩早かったのがわかる。
「女のすべて」「別離の譜」「忘れまいぞえ」「装える蝶」
「二上り新内」「黄昏に咲く花」「愛欲の渦潮」
本書に収められている七つの短篇はどれも〝女のよろめき〟が描かれたものばかり。しかも最初の五篇の主人公の女性達は、昔の時代の暗い影や貧しさを引き摺っていたりして、その古臭さはどうにもやりきれぬ。あまとりあ社の本なら読み慣れてる私でも、これでは読書のテンションがダダ下がりになるのだが、そんな中「黄昏に咲く花」だけは〝掃き溜めに鶴〟な内容で、この作だけはちょっと探偵趣味も意外性もあってオッケー。最後の「愛欲の渦潮」も人妻と若い画家のありふれた不倫話だけど、設定が始めの五篇ほど貧乏臭くないから、まあなんとか許せる範囲。
園田てる子の著書は何冊か所有していて(よって未読作品もけっこうある)、たとえ愛欲小説であっても、なにかしらのサスペンスが含まれていれば読めないことはない。ただ前段にて触れたとおり、あまりにも素材が貧乏臭くなるとちょっとキビしい。そう考えると、この『夜の肌』は園田てる子著書の中では中~下クラスになってしまうのかも。本書以外には、彼女の短篇集ってたぶん読んだ記憶が無くて、決めつけるのは早計かもしれないけれど、私が今迄読んできた園田てる子作品の印象としては、(どちらかといえば)短篇より長篇のほうがベターな感じがする。