2022年4月13日水曜日

『南総里見八犬伝㊄』曲亭馬琴

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岩波文庫 小池藤五郎(校訂)
1990年7月発売



★★★★★    七犬士邂逅




 管領扇谷定正の勢力圏にありながらも、定正には属せずにいる穂北の郷士・氷垣残三夏行。その娘・重戸は『新八犬伝』では犬山道節の恋人に設定されていたが、原作では落鮎余之七有種という婿がちゃんと居て、この落鮎有種は元豊嶋の残党ゆえに、実は道節とは近しい関係。本巻の序盤で犬士達は氷垣残三との繋がりができており、道節は穂北を拠点にして定正の動向を窺っていた。

 

 

 

 石禾の指月院を長らく預かっていた丶大法師は後任の老僧がようやく見つかり、「南総里見八犬伝」の物語の前奏でもある〝結城合戦〟で命を落とした人々の菩提を弔うため、石禾を発ち彼の地へ向かう。その途中、妖術師・鵞鱓坊に供物を巻き上げられ苦しんでいる村人を救うべく丶大が一人で悪党成敗する珍しいエピソードも。

 

 

 

 坐撃師(いあいし)・放下屋物四郎として湯嶋天神で客を取っていた犬阪毛野は扇谷定正の内室・蟹目前の飼っている猿を救った事から、定正の忠臣・河鯉権佐守如に腕を見込まれ、ある男の暗殺を依頼される。その標的というのが、奇しくもずっと毛野が仇として探しており、長尾家から扇谷家へ寝返って定正に取り入ったものの、蟹目前や河鯉守如のような真っ当な人々からは獅子身中の虫と見られていた、竜山免太夫と名を変えた籠山逸東太

毛野は守如の依頼を受諾するのだが、この密談を耳にした犬山道節は「毛野が逸東太を討ち果たしたら、きっと定正は毛野を捕えようと城から出てくるに違いない」と見て、襲撃の準備をしていた。他の犬士や落鮎有種が加勢を決意しているのは言うまでもなし。

 

 

 

籠山逸東太は数十名の雑兵を従え、相模の北条家へ密議の使節として出立。その中には鰐崎悪四郎猛虎なる三十人力の武勇の使い手もいる。鰐崎悪四郎はNHKの人形劇では道節の父を殺した仇の一人として出雲の城主に格上げされていたけど、原作では逸東太の腹心。そこへ現れた毛野、逸東太と直接対決。この知らせを聞いて予想どおり毛野を召し捕らんと数百の勢を率いて五十子城から出撃した定正に対し、道節をはじめ犬士達が斬り込む。

 

 

 

如何せん手勢が少なかった定正は犬士達にしてやられ、五十子城は崩壊。道節は定正を追い詰めるが、もう一歩のところで逃してしまう。この道節たちの思わぬ襲撃により、秘かに毛野に逸東太暗殺を依頼していた蟹目前と河鯉守如は定正へ顔向けできなくなり、両人とも自害。斯様にして信乃/荘介/現八/道節/小文吾/毛野/大角(=角太郎)の七人が顔を揃えた訳だが、手痛い敗北を喫した定正の胸には「全ての犬士達を排除せねば」という遺恨が生じるのだった。

 

 

 

 ガラリと場面は変わって、第一巻以来久しぶりに登場する里見義実。義実は若い嫡男の義成に家督を譲り、滝田城で静かな日々を送っていた。また前巻(第四巻)の四六城木工作篇に登場した義成の五の姫・浜路はあれから無事安房へ帰り、姉妹の中でも一番の美しさを誇っている。

ここにまた、西の近江では但鳥跖六業因という極悪人の盗賊が跋扈していた。この但鳥跖六が胎児を蒸して啖ったことから天罰が下り、京で捕えられる。跖六の息子・但鳥源金太素藤は身の危険を感じ、一味の金を持ち逃げして東国へ。房総に流れ着いた素藤は蟇田権頭素藤と名を変え、不思議な悪運も手伝って、愚政を行っていた小鞠谷主馬助如満の館山城を乗っ取る。

 

 

 

その素藤の前に現れたのは、人呼んで若狭の八百比丘尼・妙椿。妙椿は素藤に浜路姫の幻影を見せ、一目ぼれした素藤は里見家へ浜路姫を嫁にもらいたいと申し出るも、きっぱり断られる。逆ギレした素藤は里見義成の嫡男であり、まだ幼い義通を人質に取って浜路姫の身柄を要求。直ちに里見勢は館山城を包囲するが、人質を取られていては強硬な手段に出ることもできない。

この巻では、遂にあの船虫にも年貢の納め時が訪れる。その船虫と入れ替わるが如く表舞台に現れた妙椿。義通を人質に取られた里見義成はどうする?そは次回の記事に解分るを見て知らん。といったところで第五巻ここまで。

 

 

 

 

(銀) 八犬士の中で誰が一番好きかと訊かれたら、原作だったら私は犬阪毛野。女田楽師/乞食/坐撃師と次々に姿を変える華があり、さしたる欠点は見当たらない。女と見間違うような外見なのに牛若丸並みの身のこなし、知力武力とも持ち合わせていて、犬山道節が血気に逸るのとは対照的に沈着冷静。あまり人と群れない感じがあるのもいい。道節は原作では、自分が八犬士の一人だと知って火遁の術を捨ててしまうんだよねえ。『新八犬伝』みたいに最後まで修験者・寂莫道人肩柳としての顔を持ち続けていたほうが活躍の場が広がったのに。原作の道節は直情的で、度々他の犬士から諫められる場面が目立つ。そこが人間的でもあるのだけれど。



ちょっとした疑問。いつのまにか蟹目前までもが箙大刀自の娘になっているけど、箙大刀自の娘は大石憲儀の妻と千葉介自胤の妻じゃなかったっけ?