2021年1月27日水曜日

『死の濃霧/延原謙翻訳セレクション』

2020年4月16日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

論創海外ミステリ 第250巻 中西裕(編)
2020年4月発売



★★★    この人は翻訳仕事だけで評価してあげればいい



『延原謙探偵小説選Ⅱ』は論創ミステリ叢書のワースト5に入りそうな相当出来の悪いものばかりだった。延原謙の場合は素直に翻訳作品を楽しむのが正解なのだ。戦前海外探偵小説の単行本を買う時に、訳者のクレジットがこの人だったらどこか安心感があるし。『新青年』をはじめ雑誌編集長経験も持つ、融通の利かないところがあるこの男が翻訳した短篇ばかりで構成されたアンソロジーを読む。延原の翻訳業だけ評価するのなら☆5つ。

 

 

絵画を求める者/仲介者/絵画所有者のトライアングルを巡る、
長篇とは違った味わいのクロフツ「グリヨズの少女」


キャッチーなスリルさは控えめだけれども、
ダイヤ盗難アリバイ崩しを描くヘンリ・ウェイド「三つの鍵」


憎みあう二人の男、そして殺人に纏わるガジェットとの紐付けが面白いリチャード・コネル「地蜂が蟄す」


非本格ながら、蜘蛛と獲物を比喩にした闘争劇のビーストン「めくら蜘蛛」 

 

上記の四篇が優れている。




この他「深山に咲く花」オウギュスト・フィロン「妙計」イ・マックスウェル
「十一対一」ヴィンセント・スターレット「古代金貨」アンナ・キャサリン・グリーン
「仮面」メースン「五十六番恋物語」スティーヴン・リーコック
「ロジェ街の殺人」マルセル・ベルジェなど、珍品もあり人情ものあり。
メースンは『矢の家』の作者だけに、この作は少し期待を下回ったかな。

 

 


上級者向けの論創海外ミステリだけに、いくら延原の代名詞が〝ホームズ完訳者〟で、次に挙げるふたつのホームズものが新潮文庫の最終完成形以前のヴァリアント訳とはいえ、コナン・ドイル「死の濃霧」(大正期に粗っぽく訳された「ブルース・パーティントン設計書」)「赤髪組合」(こちらは戦後の訳だがワトソンが語り手になってない、同じく粗い抄訳)、そしてマッカレーの地下鉄サムから「サムの改心」といったベタすぎる三篇は願わくば他でやってもらえたらな。


 

 

編者・中西裕曰く、当初はクリスティーも収録を考えていたそうだが、ハヤカワの翻訳権独占に阻まれ断念したとの事。解説には生前延原が作成していた、自分の訳による海外ミステリ・アンソロジー草案というのが載っていて、本書のセレクトとは殆ど重なっていないが、その中にはコール夫妻やアントニー・バークリーがあったりして、そっちを入れればよかったのに。他にも素性の知れないような作家でも良いものがあれば、上記のベタな三篇より優先して採ってほしかった。

 

 

一方、論創社の校正は相変わらずまるで駄目。人名さえ正しく表記する意識が欠けているので、大きく☆2つマイナスとする。


例: CDHM・コール  ×   GDHM・コール  〇


編集部の人間は改善するつもりがこれっぽっちもないのか?



(銀) どんなに良い内容の本を作ろうとしても、毎回こう間違いだらけでは・・・と、同じ事を何度も書くのにも疲れた。前にも書いたかもしれないが論創社の本が誤字まみれになり出したのはコロナ・ウィルスの発生より前の話で、決してコロナ騒ぎでこんなになったのではない。あとになって「いや~、あの時はコロナのせいでウチも本作りが大変になって・・・」などと、彼らに嘘八百並べさせないよう、改めてここでも述べておく。



ていうか、論創社の出版に関わっている人間がスマホ脳でどんだけ毎日アタマが疲労してるのか知ったこっちゃないけど、注意力のまるで欠如した連中に本作りの仕事をやらせること自体が土台無理な話だ。